そう…
たとえ一瞬でも、水谷はその人ではなく、私との人生を選んだ。

水谷にとっては本心からの願いじゃなかったかもしれないけど…。

「…はい…。俺も自分が人を好きになる事に慣れていない分、自信がありませんでした…。もしかしたら離れている間に、彼女の事などすっかり忘れてしまうかもしれないと…」

「でも、忘れられなかった…」

水谷が言うべきはずの続きの言葉を、私が先に言う。
図星な事を言い当てられ、水谷はさらに覚悟を決めたかのように話を続けた。

「俺が思っている以上に、彼女への思いは深いものだったんです…。
あなたと決定的になる前にも、何回も会いに行こうとしました。
でも、もし、彼女が今、家族と幸せに暮らしているなら…と思うと、どうしてもできなかった…」

自分から水谷の本心を聞きたいとお願いしておきながら、彼にそこまで思われているその人に、私は激しく嫉妬していた…。

水谷の口から次々と紡がれる彼女に対する愛情の言葉を聞くたび、私の胸はジリジリと焦げるように痛んだ。

そして私自身、あがいてもどうしようもない現実を突き付けられ、ひるみそうになりながらも必死にそんな気持ちを立て直して言った。