「お見合いの席で、水谷さんが私の事を全く覚えていない事にショックを受けました。さらに、覚えてもいない私に向かって、前向きに話を進めたいと言われて…。悲しいのを通り越し、腹が立ちました」

水谷は申し訳なさそうに目を伏せる。

「インスピレーション…」

「え?」

私の放った一言に、水谷が驚いて声を出す。

「インスピレーションで…私と結婚したいと思ったと…、あなたはそう言いました…。でも、インスピレーションなら、初めて会った時に感じてるはず…ですよね?私の事を覚えていないあなたが、インスピレーションなんか感じてるわけないんです。本当は私と結婚したい理由が別にあったんです…」

水谷の顔は真剣でありながらも苦悩に歪んでいた。

何も答えない水谷に、私は自分なりの推理を話す。

「おそらく…その理由は…私と結婚する事で何かあなたにメリットがあった…からだと思います。それが何かは…わかりませんけど…」

水谷が大きく息を漏らした。

そして…

少し間をおいて話し始めた。

「その…通りです。あなたが言われるように…、あの時、上司の紹介で結婚するかわりに、昇進が約束されてました…」

やっぱり…。

私は想像してはいたものの、水谷の口から直接言われた事に少なからずショックを受けていた。
でもきっとこんな事は序の口だろう。