水谷は食べきっていない料理をそのままにして、尋ねてきた。

「…という事は…あなたは、俺だということをわかった上で見合いをなさったんですか…?」

「そうです…」

私の答えに、水谷はうなだれたように下を向いたまま黙り込む。

「なぜだか…わかりますか?」

そう言った所でハッとした。

こんな風に相手に言わせるよう誘導するのは、以前の私のままだ。
どこも変わってなどいない。

そう思って言い直す。

「いえ…今日はもう、回りくどい事はしたくありません。ハッキリ言うために来たんですから」

ほんとに、そうだ…。

正直に自分の思っている事を言うために来た。

もう駆け引きはたくさんだと、そう思ったから…。

水谷は私の言葉に真剣な表情で聞き入っている。
その態度だけでも、以前の水谷とは違っていた。

「それは、その理由は…。…私が…水谷さんに恋をしていた…から…です」

人生初のカミングアウト。
しかもこんな歳になって初めてなんて…

まるで笑い話だ。

でも水谷は笑うどころか、とても驚いていた。

「…あの…それは…その病院での、一件で…?」

恥ずかしさのあまりうつむきながら私はうなずいた。

一番言いにくい事を言ってしまえば、後はもう怖いものはない。
私はそこから先の話を続けた。