店には予約している時間より、少しだけ早く着いてしまった。

とりあえず中で待とうと入り口をくぐる。

ギャルソンが優雅な物腰で出迎えてくれ、私は予約している事を告げた。

「ご予約の松島様でございますね。お連れ様がお待ちです」

ギャルソンの言葉に驚いたが、なに食わぬ顔で後についていく。

案内されたのは、あの、個室風のテーブルだった。
ギャルソンの言葉通り水谷が既に着席していた。

「すみません…お待たせしちゃいましたね…」

私は申し訳なく思い、頭を下げた。

「いえ、俺も今来たばかりです…。それにまだ約束の時間より早いですから…」

そう言って水谷は少しだけ微笑んだ。

相変わらずのその笑顔はどこか…
昔のそれとは違うような気がした。

私はどこが違うのか探そうと思うけれど、水谷の方を凝視する事ができない。

そこへさきほどのギャルソンがやってきた。

「メニューでございます。本日のディナーは、お魚が鱸のポワレ、お肉が牛フィレ肉のロティでございます」

そう言って、私から先にメニューを渡した。

緊張するあまり食欲なんてないが、多分これは水谷との最後の晩餐になるはず…。
私にとっての新たなスタートをきるのだから…。
そう思った私は、一番高いコースを選んだ。