沈黙になり気まずい空気が流れる…。

どうしようかと思い始めた所で水谷が沈黙を破った。

「お話の内容が…とても気になるので…、今日でも、いいですが…」

自分から提案していながら、水谷の口から「今日」と言われてドキリとしてしまう。

別れてから随分と時間が経っているのに…
まだこの人に惹かれている事を思い知らされる…。

だが自分から会いたいとは言ったものの、今日となるとまだ心の準備ができてはいない。

それなら、今日でなければ大丈夫なのかと考えてみる。

結局は…
いつであろうと同じなのだ。

緊張するのは間違いない。

であるならば、今日にしても問題はなかった。

「では…、今日の今日で予約が取れるかどうかわかりませんけど…。初めて二人で行ったあのお店でもいいですか…?」

「…あ、あの…店…?」

やはり水谷は覚えていないのか…。
予想はしていたが正直ヘコむ…。

落胆している事を悟られぬよう、冷静さを保つよう努めた。

「あそこですよ…。N町のフレンチのお店です…」

駆け引きする事もなくすぐに店の名を言うと、水谷も「あ、あそこですか…」
と返した。

お店の事は覚えているのだろうが、私と一緒に行った事もその日何があったかも、きっと忘れているに違いない。