それでも…

私は素直になれない。

水谷の顔を見たら…
また自分を偽ってしまうような気がする…。

「今さら…何を言えっていうの…?言ったところで何も変わらないわ…。
素直に言えば…、あの人が…私の所に戻ってくるの?そんな事はあり得ない…。あの人にはもう…私とやり直す気なんてないはずよ…」

「…そうかもしんねぇけど…。これは、母さんのためなんだよ…。
母さんの人生のため…なんだ」

「知ってるのよ…私…。あの人…、そばに誰か、いるんでしょ…?」

聡介は一瞬目を見開き、すぐに私から視線を逸らした。

それは私の言う事が的中している事を意味する。

「たまたまね。恭平が電話で話してる所を聞いちゃったの…。あれはきっと…こないだのカノジョとの電話だと思うけど。お父さんが誰かのおかげで変われたとかなんとか、そんな事を話してたわ。それでお母さん、直感的に女性だと思ったのよ」

聡介は静かに聞いていた。

私はしゃべればしゃべるほど自分の惨めさが露呈していくように思え、どうしようもなく腹が立った。

「あの人を変える事ができた人…。そんな人がそばにいるのに、今さら私が何か言ったところでどうなるっていうのよ!あの人にとって私は…邪魔な存在でしかない…。人生の汚点としか、思ってやしないわ!」