「ほら…都合が悪くなると黙っちゃって…。そういうトコ、ほんとお父さんそっくりなんだから…」

言いながら水谷の顔を思い出す…。
なぜか思い出す時の水谷の顔は笑顔ばかりで。
そんなに彼の笑顔を数多く見たわけでもないのに、どうして笑顔ばかりが出てくるのだろう。

そう思うと無性に泣きたくなってきた。

「…ひどいわよ…。ほんとにいつまで…、いつまであなたの事を好きなままでいるんだか…。いい加減、嫌いになりたいのよ…こんなんじゃ、前へ進めないんだってば…」

私は泣きながらつぶやいた。

泣き続ける私の背中に温かいものが触れた。

驚いて振り向くと、聡介が背中にブランケットをかけてくれていた。

そのさり気ない優しさに涙が加速される。

「もう…何よぉ…。こんな時に優しくしないでよぉ…。余計に泣きたくなるじゃない…」

そしてブランケット越しに、聡介が私の背中をさすり始める。
聡介の手のぬくもりに不思議と安心していく自分がいた。
しばらくそうしながら聡介がつぶやく。

「…なあ、母さん…。もう嘘つくのやめろよ…。素直になれねぇ訳は、わかんなくもねぇけどさ。いつまでも意地張って…結局傷ついてんの、自分だろ…?
アイツ、…親父も昔とは違う…。きっと今の親父なら…、母さんの気持ち、わかると思うぜ…」