沙由美の言う事は何もかもがその通りだった。

小西と不倫関係でいる間も、頭の片隅にいつも水谷がいた。
忘れられていると思っていたけど…

本当は、違う。

忘れる事なんてできるわけなかった。

「智子…。これからの人生を智子らしく生きなきゃ…ダメだよ…。
もう、水谷さんの呪縛から解放されなよ…、お願いだから…」

私は沙由美の泣き顔を、初めて見た…。
そしていかに自分が彼女に心配をかけていたかも…
初めて知った…。

「ごめん…ごめんね、沙由美…」

「謝らなくていいから…。水谷さんに会って…話しておいで…。それで本当に…終わりにするんだよ…」

沙由美の言葉をしっかりと受け止める。
私たちは抱き合いながらしばらくその場で泣き続けた。

沙由美と飲んで帰宅した時は既に深夜十二時をまわっていた。
真っ暗な玄関のドアを、なるべく音が立たないように気を付けながら開ける。

渇いた喉を潤そうと、そのまま暗い廊下を通りキッチンへ入る。
電気のスイッチを入れ明かりをつけると、隣のリビングからいきなり声がした。

「ったく、今、何時だと思ってんだよ…」

誰もいないと思っていた私は驚きすぎて心臓がドキリと跳ねた。

「もう…、聡介…。急に何よ…。ビックリするじゃない…」

心臓を押さえながら言う私に、聡介はいつものぶっきらぼうな言い方でさらに続けた。