するとオジサンはここが病院である事も忘れて、その男性に殴りかかろうとした。
まわりで見ていた人たちの悲鳴が院内に響き渡る。

私も思わず叫びそうになった。

しかし水谷と名乗ったその男性は、降ってきた拳をヒョイと軽くよけた。

そしてまるでオジサンをバカにしたような笑みを浮かべて言った。

「フッ…、こんな所でいけませんねぇ。いい大人のする事じゃないなぁ…」

水谷という人はどこまでも相手を煽るつもりなのか…。

そう思わずにはいられないほど、嫌味な言い方だった。

当然オジサンはさらに逆上し、「わかった!表へ出ろ!」と、ドラマなんかでよく耳にするセリフを吐いた。

水谷は落着き払った様子で、

「そうしましょう」

と言い、2人で玄関を出て行く。

私は唖然としたままこの場をどうやって収めればいいのかと頭を悩ませた。

支払業務を滞らせるわけにはいかない…。
だが…水谷と名乗った人は、私をかばったが為にこんなトラブルに巻き込まれたのだ。

トラブルの原因を作った張本人の私が、ここで仕事を続けていられるだろうか。