冒険者ギルド実力試験に参加する面々の表情は固い。
ギルド『アスカロン』の前に集った冒険者達の前には、一人の女性が壇上に立っていた。
「今回の実力試験に立ち会うことになった、カルファ・シュネーヴルです。どうぞ、皆さんの日頃の研鑽を見せていただければと思います。今回は冒険者認定試験の受験者が1組、昇格試験の受験者が2組となっていますね」
手元の資料に目を通したカルファは、ちらりとローグ達を見た。
目を向けられたローグは、手をひらひらと振って答えると、カルファは続ける。
「1組目、ローグ・クセル。2組目、ラグルド・サイフォン率いるCクラスチーム『ドレッド・ファイア』。3組目、グラン・カルマ率いるBクラスチーム『獅子の心臓』ですね。準備はよろしいでしょうか?」
「おう、いつでもいいぜー」
「は、はい! 頑張ります!」
「……」
ローグ、ラグルド、グランはそれぞれ壇上のカルファに返事を出す。
ローグは、ここに来る前にカルファとした会話を思い浮かべていた。
『本当に、普通の冒険者ギルドの方の受験でよろしいのですか?』
カルファは、煮え切らない様子でローグに問う。
『ローグさんならすぐにSランクのパーティーが集まる、国際ギルドへの斡旋も出来るのですよ? 何も、一からしていかなくても良いと思いますが……』
何か言いたげなカルファに、ローグははっきりと告げていた。
『俺はそれこそ、今までの人生で人と関わることが出来なかった。だから、なるべく人と衝突するようなことは避けたい。Sランクの集まる国際ギルドってやつは、順当に、冒険者ギルドのFランクって奴から徐々に上り詰めていったんだろ?』
『ま、まぁ……そうですけど……』
『だったら俺も、普通の冒険者と一緒にFランクから始めるよ。俺は何も、トップレベルでガンガン先頭を走っていきたいんじゃなくて、友達が作りたいだけなんだからな!』
ローグが、希望に満ちた眼差しで澄み渡った青空を指さす。
カルファは苦笑いしながら、「友達は、同じレベルの人との間でしか出来ませんよー……」と呟くが、それはローグに聞こえていないようだったのだが。
「では、Aランク昇格試験を受ける獅子の心臓の方々は、王都外れの中階位層ダンジョン、《デラウェア渓谷》の最深層第10階層ボスであるオロチの討伐を命じます。オロチの特徴として上げられるのは、頭部が8つあること。そして神経毒を吐き出すことです。これらを踏まえた上で、Aランクに位置づけられるオロチの頭部8つの納品をこなせば、Aランク昇格試験の合格となります」
事務的に、書類を読み上げるカルファ。
命令された獅子の心臓の面々の表情が一気に引き締まる。
隣で、ラグルドが苦悶の表情を浮かべていた。
「お、オロチ。Aランクの中でも相当強い部類の魔物を昇格試験に持ってくるなんて、カルファ様は相変わらずだな……!」
「カルファって、そんなに厳しいのか?」
ローグが問うと、ラグルドは強張りながらも頷く。
「あぁ。カルファ様の行う試験では、合格者は少なくなるんだ。だがその代わり、成功したときにはカルファ様のお墨付きってことで、ギルド内ではちょっとした英雄になれるんだけどね。とはいえ、これに落ちれば冒険者引退とまで宣言してるグランさんにとっては――」
そう、ラグルドが指を立てて解説していると、そんな彼の頭をガシと掴む野太い腕があった。
「造作も無いことだ」
グランは、冷えた目つきでローグを睨み付ける。
ローグはそれに反抗的な目つきを取ることは一切無いが、後方でじっと待機しているイネスの方が今にも殺気を放ちそうな勢いだ。
「ちなみに、ローグさんの最初の任務は《デラウェア渓谷》第1階層での清掃任務です。渓谷の第一階層には、魔物の死骸やマナーの悪い冒険者達によるポイ捨てなどの影響で大きな大きなゴミ屋敷と化していますからね。よろしくお願いします」
なるほど、と。ローグはポンと手を打った。
「人々の役に立つのが冒険者なんだから、当然だな。そういう任務を積み重ねていくことで、人の信頼を勝ち取っていくのか……! 冒険者という職業は、どこまでも深いな」
「ローグ様、私達も力の限りサポート致します!」
『何か周りと温度差激しいように思うが、我も出来うる限りのことはしようぞ』
ローグチームが互いに結束を固めるなかで、カルファは最後にラグルドのチームのもとに行っていた。
「えぇと、最後に『ドレッド・ファイア』の皆さんですが、Bランク昇格試験とのことで第6階層の階層ボス、筋肉狼の群れの討伐ですね。ローグさんチームの清掃任務が2時間、獅子の心臓の階層攻略が1時間と考えれば、6階層の方にも少しは顔を見せられるかと思います」
「カルファ様!? 俺たちまさかのついでですか!?」
「い、いえ、そんなことはありませんよ!? ひ、人手不足ですから……」
しどろもどろになりながらカルファは目をそっぽに向けていた。
そんなラグルドとカルファのやりとりを尻目に、グランは静かに自分たちのチームの下に戻っていったのだった。
○○○
《デラウェア渓谷》第1階層。
王都外れの洞窟に一行が足を踏み入れると、そこには空間がねじ曲がったかのような巨大な空間が広がっていた。
第一階層あるのは、数々の白骨や、ポーションの瓶。はたまた投げ捨てられた鎧やら、パーティー用のキャンプで使用したであろう物品などなど、様々なものが至る所に散らばっていた。
そんな様子に目もくれずに、チーム獅子の心臓はカルファに片膝をついた。
代表のグランが、告げる。
「獅子の心臓3名。第10階層ボスのオロチが8つの頭部納品任務を承りました」
「くれぐれも、命だけは大切に。健闘を祈っています」
カルファが祈りを捧げると、グラン達は第十階層までに続く階段を下っていく。
「俺たちは、ローグさん達の仕事ぶりを少し見てからにしようかな。新人冒険者さんの仕事ぶりを見れば、士気も高まりますからね。……というかカルファさん、あのローグさんって人、ギルドで全ての項目でSSSランクを叩きだしたんですけど、そんな能力って本当にあるんですか?」
ラグルドは、訝しむようにローグ達の背中を見た。
第一階層は、おおよそ森一つ分の大きさの広さで、草原に囲まれている。
そこに散乱するゴミは無数あり、とてもではないが手ぶらで片付けられるような量ではない。
「あの後、準備時間があったなら市販の収納袋でも携帯しておけばいいのに、ローグさん、結局何も買わずにきちゃったんですよね。本当に大丈夫かなぁ……?」
そんなラグルドの言葉だったが、カルファは苦笑いを浮かべつつ、ローグ達を見た。
ローグの後方にいたイネスとニーズヘッグが二手に分かれ、広大な草原をおおまかに一周して主に何かを伝える。
それに快く頷いたローグは、両手を大きく広げた。
「風属性魔法、大竜巻」
ローグがそう宣言すると同時に、彼の手からは洞窟の天井まで届くほどの巨大な竜巻を作り上げる。
その竜巻は、ゆっくりと洞窟内を動き回って、落ちているゴミを全て拾い上げていく。
そして。
「収納魔法発動……っと、よし、終わり。これで大丈夫かな? 多分、ゴミの取り漏らしはないと思うんだけど」
洞窟内の全てのゴミが発生した竜巻によって集積され、SSランクの世界七賢人でも使えないとされる伝説上の魔法、収納魔法に全て吸い込まれていく。
「……し、試験合格です……。一応確認してみますが……どうやら、全てのゴミが取り除かれています……。冒険者認定試験、合格。記録5秒は、世界最速です……」
カルファが、震えながら言うとラグルドは白目を剥いて地面に突っ伏した。
「SSSランクって、もはや何でもありなんだな!?」
ラグルドの虚しい叫びが、綺麗ピカピカになった第一階層に響き渡ったのだった。
ギルド『アスカロン』の前に集った冒険者達の前には、一人の女性が壇上に立っていた。
「今回の実力試験に立ち会うことになった、カルファ・シュネーヴルです。どうぞ、皆さんの日頃の研鑽を見せていただければと思います。今回は冒険者認定試験の受験者が1組、昇格試験の受験者が2組となっていますね」
手元の資料に目を通したカルファは、ちらりとローグ達を見た。
目を向けられたローグは、手をひらひらと振って答えると、カルファは続ける。
「1組目、ローグ・クセル。2組目、ラグルド・サイフォン率いるCクラスチーム『ドレッド・ファイア』。3組目、グラン・カルマ率いるBクラスチーム『獅子の心臓』ですね。準備はよろしいでしょうか?」
「おう、いつでもいいぜー」
「は、はい! 頑張ります!」
「……」
ローグ、ラグルド、グランはそれぞれ壇上のカルファに返事を出す。
ローグは、ここに来る前にカルファとした会話を思い浮かべていた。
『本当に、普通の冒険者ギルドの方の受験でよろしいのですか?』
カルファは、煮え切らない様子でローグに問う。
『ローグさんならすぐにSランクのパーティーが集まる、国際ギルドへの斡旋も出来るのですよ? 何も、一からしていかなくても良いと思いますが……』
何か言いたげなカルファに、ローグははっきりと告げていた。
『俺はそれこそ、今までの人生で人と関わることが出来なかった。だから、なるべく人と衝突するようなことは避けたい。Sランクの集まる国際ギルドってやつは、順当に、冒険者ギルドのFランクって奴から徐々に上り詰めていったんだろ?』
『ま、まぁ……そうですけど……』
『だったら俺も、普通の冒険者と一緒にFランクから始めるよ。俺は何も、トップレベルでガンガン先頭を走っていきたいんじゃなくて、友達が作りたいだけなんだからな!』
ローグが、希望に満ちた眼差しで澄み渡った青空を指さす。
カルファは苦笑いしながら、「友達は、同じレベルの人との間でしか出来ませんよー……」と呟くが、それはローグに聞こえていないようだったのだが。
「では、Aランク昇格試験を受ける獅子の心臓の方々は、王都外れの中階位層ダンジョン、《デラウェア渓谷》の最深層第10階層ボスであるオロチの討伐を命じます。オロチの特徴として上げられるのは、頭部が8つあること。そして神経毒を吐き出すことです。これらを踏まえた上で、Aランクに位置づけられるオロチの頭部8つの納品をこなせば、Aランク昇格試験の合格となります」
事務的に、書類を読み上げるカルファ。
命令された獅子の心臓の面々の表情が一気に引き締まる。
隣で、ラグルドが苦悶の表情を浮かべていた。
「お、オロチ。Aランクの中でも相当強い部類の魔物を昇格試験に持ってくるなんて、カルファ様は相変わらずだな……!」
「カルファって、そんなに厳しいのか?」
ローグが問うと、ラグルドは強張りながらも頷く。
「あぁ。カルファ様の行う試験では、合格者は少なくなるんだ。だがその代わり、成功したときにはカルファ様のお墨付きってことで、ギルド内ではちょっとした英雄になれるんだけどね。とはいえ、これに落ちれば冒険者引退とまで宣言してるグランさんにとっては――」
そう、ラグルドが指を立てて解説していると、そんな彼の頭をガシと掴む野太い腕があった。
「造作も無いことだ」
グランは、冷えた目つきでローグを睨み付ける。
ローグはそれに反抗的な目つきを取ることは一切無いが、後方でじっと待機しているイネスの方が今にも殺気を放ちそうな勢いだ。
「ちなみに、ローグさんの最初の任務は《デラウェア渓谷》第1階層での清掃任務です。渓谷の第一階層には、魔物の死骸やマナーの悪い冒険者達によるポイ捨てなどの影響で大きな大きなゴミ屋敷と化していますからね。よろしくお願いします」
なるほど、と。ローグはポンと手を打った。
「人々の役に立つのが冒険者なんだから、当然だな。そういう任務を積み重ねていくことで、人の信頼を勝ち取っていくのか……! 冒険者という職業は、どこまでも深いな」
「ローグ様、私達も力の限りサポート致します!」
『何か周りと温度差激しいように思うが、我も出来うる限りのことはしようぞ』
ローグチームが互いに結束を固めるなかで、カルファは最後にラグルドのチームのもとに行っていた。
「えぇと、最後に『ドレッド・ファイア』の皆さんですが、Bランク昇格試験とのことで第6階層の階層ボス、筋肉狼の群れの討伐ですね。ローグさんチームの清掃任務が2時間、獅子の心臓の階層攻略が1時間と考えれば、6階層の方にも少しは顔を見せられるかと思います」
「カルファ様!? 俺たちまさかのついでですか!?」
「い、いえ、そんなことはありませんよ!? ひ、人手不足ですから……」
しどろもどろになりながらカルファは目をそっぽに向けていた。
そんなラグルドとカルファのやりとりを尻目に、グランは静かに自分たちのチームの下に戻っていったのだった。
○○○
《デラウェア渓谷》第1階層。
王都外れの洞窟に一行が足を踏み入れると、そこには空間がねじ曲がったかのような巨大な空間が広がっていた。
第一階層あるのは、数々の白骨や、ポーションの瓶。はたまた投げ捨てられた鎧やら、パーティー用のキャンプで使用したであろう物品などなど、様々なものが至る所に散らばっていた。
そんな様子に目もくれずに、チーム獅子の心臓はカルファに片膝をついた。
代表のグランが、告げる。
「獅子の心臓3名。第10階層ボスのオロチが8つの頭部納品任務を承りました」
「くれぐれも、命だけは大切に。健闘を祈っています」
カルファが祈りを捧げると、グラン達は第十階層までに続く階段を下っていく。
「俺たちは、ローグさん達の仕事ぶりを少し見てからにしようかな。新人冒険者さんの仕事ぶりを見れば、士気も高まりますからね。……というかカルファさん、あのローグさんって人、ギルドで全ての項目でSSSランクを叩きだしたんですけど、そんな能力って本当にあるんですか?」
ラグルドは、訝しむようにローグ達の背中を見た。
第一階層は、おおよそ森一つ分の大きさの広さで、草原に囲まれている。
そこに散乱するゴミは無数あり、とてもではないが手ぶらで片付けられるような量ではない。
「あの後、準備時間があったなら市販の収納袋でも携帯しておけばいいのに、ローグさん、結局何も買わずにきちゃったんですよね。本当に大丈夫かなぁ……?」
そんなラグルドの言葉だったが、カルファは苦笑いを浮かべつつ、ローグ達を見た。
ローグの後方にいたイネスとニーズヘッグが二手に分かれ、広大な草原をおおまかに一周して主に何かを伝える。
それに快く頷いたローグは、両手を大きく広げた。
「風属性魔法、大竜巻」
ローグがそう宣言すると同時に、彼の手からは洞窟の天井まで届くほどの巨大な竜巻を作り上げる。
その竜巻は、ゆっくりと洞窟内を動き回って、落ちているゴミを全て拾い上げていく。
そして。
「収納魔法発動……っと、よし、終わり。これで大丈夫かな? 多分、ゴミの取り漏らしはないと思うんだけど」
洞窟内の全てのゴミが発生した竜巻によって集積され、SSランクの世界七賢人でも使えないとされる伝説上の魔法、収納魔法に全て吸い込まれていく。
「……し、試験合格です……。一応確認してみますが……どうやら、全てのゴミが取り除かれています……。冒険者認定試験、合格。記録5秒は、世界最速です……」
カルファが、震えながら言うとラグルドは白目を剥いて地面に突っ伏した。
「SSSランクって、もはや何でもありなんだな!?」
ラグルドの虚しい叫びが、綺麗ピカピカになった第一階層に響き渡ったのだった。