筋肉ばった巨躯からは、《焔返り》直後の影響で白い湯気が立ち込めている。
短く逆立った深紫の髪の毛からは、可視化された電流のような魔力がジジジ、と小さく音を立てている。
かつて1000年前と同じように、不死鳥の翼を象った紫炎のマントを羽織り、厚い胸板を隠そうともしないラフなスタイル。
「……クラリスは、しっかりここを去ったみたいですね」
ぽつり、イネスは呟いた。大きく一つ、深呼吸をして左目に紅いオーラを迸らせる。
イネスの言葉に、ジャッジの眉がぴくりと動いた。
「1000年経とうとも弱者のまま、ということか」
ボゥッ。
音を立てて、ジャッジの左目から深い紫のオーラが迸る。
上空に散在していた雲が、一箇所に集約していく。
渦を巻くようにして集まった雲の中に、小さな電流が見えた。
丘陵状になっている聖地林領シャリスの墓と、魔族領域領イネスの墓の中間に位置した二つの魔力。
そこは図らずとも、1000年前に大戦争が起きた激戦区の真ん中だった。
「これでも昔は、私もあなたを尊敬していたのだがね――」
ジャッジの右腕に、魔力が付与された。
グッと小さく拳を握ったジャッジは、目を細めて眼中にイネスを捉えた。
「……破滅の連矢」
強く地を蹴り、一気にイネスとの距離を縮めにかかるジャッジ。
右拳の周囲に集約された魔力は可視化され、紫色の炎を作り上げていた。
魔力で作り上げられたイネスの弓矢は、何十本もが束になってジャッジに襲いかかるも、彼は避けようともしなかった。
ドドドドドドドッッ!!
何十本もの鏃が、ジャッジに突き刺さっていく。
唸る轟音と共に、ジャッジを貫通した鏃が地面に突き刺さり、大きな土煙を上げる。
――だが。
そんな土煙を掻い潜り、ジャッジは無傷のまま再びイネスの視界に現れた。
「《再生》ですか。魔力攻撃が効かないのは、今も健在のようですね!」
ジャッジの拳が、イネスのすぐ目の前に迫る。
「ハッハーーーーーーッ!!」
巨躯から繰り出される拳は、それだけでイネスの顔ほどの大きさを誇る。
「破壊魔法魔法力付与ッ!」
イネスは、瞬時に自らの右腕全体に《破壊》の魔法力付与を施した。
瞳同様、腕に紅のオーラを纏ったイネスは、迫り来る拳を避ける。
自身のすぐ横を通り過ぎる拳に、イネスは魔力の込めた腕を宛がう。
魔力と魔力が反発し合い、《破壊》特性を持ったイネスが、ジャッジの片腕を粉砕する。
「む。やはり、まだ脆いか……!」
「私たちは、お互いの魔力特性からして、相性が悪いですからね」
飄々と呟くイネスは、粉砕したはずのジャッジの腕が、うねうねと紫色の炎をあげて再生しているのを目にしていた。
「ならば!」
腕を《再生》しきる前に、ジャッジは左足を蹴り上げた。
何の魔力も込めていない、純粋な武術だ。
「肉弾戦闘ですか。受けて立ちますよ」
ガンッ、と。ヒールの底をジャッジの臑に宛がうイネスは、すぐさま四肢に魔力を込めた。
ジャッジが拳を繰り出せば、イネスも蹴りで応戦する。
イネスが真正面から拳を打ち付ければ、ジャッジも拳を真正面から打ち付ける。
ジャッジの大振りな拳撃を、イネスが側面から《破壊》すれば、ジャッジはすぐさま《再生》の魔力で次なる拳を備えていく。
イネスの俊敏な蹴りも、ジャッジはその筋肉ばった身体で真正面から受け止める。
一秒間に数撃単位で繰り広げられる膨大な魔力によって、暴風と轟音が辺りの枯れ葉を撒き散らす。
1000年前の最恐と、1000年間の最凶のぶつかり合いが、空気中の魔力濃度で月の光さえも陰らせた。
頬についた土埃を片手で払って、くすりと笑むようにして、イネスはジャッジが蹴り上げた足を踏み台にして後方に飛び退いた。
「……? これは……」
ふと、着地したイネスは後方に手を伸ばした。
手が触れると、紫色に波打つように波紋が広がっていく。
それはまるで、擬似的に作られた小さな空間の中にいるようにさえ思えた。
「ほう、どうやら頭の悪い奴等にも、私の《焔返り》は伝わったようだ」
間髪を入れず、イネスの真横に拳を繰り出すジャッジは、澄ました表情で呟く。
「魔力障壁……? 魔力がここから外に出ることもなく、外から魔力反応を感知することもできない、といったところでしょうか。」
「ご名答。ここは私とあなたしか入れない巨大な箱庭だ。復活早々、《始祖の魔王》の首を持てるとは、いい手土産を持って凱旋できそうだ」
ジャッジの両腕が、不死鳥を象った紫色の炎へと変化していく。
パチンと、指を鳴らせば地中の中でナニカが蠢き、その姿を現す。
「《不死の軍勢》……!」
「コッ、カゥッ!!」「ウッヴァァァァァオ!!」「ココココ……」「ォ……ウヴォ……ォ……」
多種多様、イネスには見慣れているはずのゾンビ・スケルトンの軍勢は、おおよそ1000は下らない。
小さな魔力障壁に集った軍勢に、イネスは小さく溜息をついた。
「ジャッジ、そんな勢力を一体どこから――?」
「あなたには関係のないことだ。それに、まだまだこれだけでは終わらんよ」
にやり、ジャッジが笑みを浮かべたその瞬間だった。
――ズァァァァァァァ!!
戦闘の突風とは異なった、魑魅魍魎が混ざったような暴風が吹き荒れる。
過去の魂の怨嗟と、死者の苦しみさえも包み込むような暴風が、《不死の軍勢》の集団を取り巻いた。
不死の軍勢たちが、黒色のオーラを纏っている。
それは、聖地林にいる牙狼が、筋肉狼へと突然変異を遂げた時の現象に酷似している。
ジャッジは、腕を大きく掲げた。
「《狂魔化》。そして、ジャッジ・フェニックスが貴様等の主の代理で命じる。不死の軍勢――」
スッと、全ての軍勢の目がイネスを向いた。
「――進撃せよ」
冷徹なジャッジの一言と共に、それらは堰を切った様にイネスに襲いかかっていった――。
短く逆立った深紫の髪の毛からは、可視化された電流のような魔力がジジジ、と小さく音を立てている。
かつて1000年前と同じように、不死鳥の翼を象った紫炎のマントを羽織り、厚い胸板を隠そうともしないラフなスタイル。
「……クラリスは、しっかりここを去ったみたいですね」
ぽつり、イネスは呟いた。大きく一つ、深呼吸をして左目に紅いオーラを迸らせる。
イネスの言葉に、ジャッジの眉がぴくりと動いた。
「1000年経とうとも弱者のまま、ということか」
ボゥッ。
音を立てて、ジャッジの左目から深い紫のオーラが迸る。
上空に散在していた雲が、一箇所に集約していく。
渦を巻くようにして集まった雲の中に、小さな電流が見えた。
丘陵状になっている聖地林領シャリスの墓と、魔族領域領イネスの墓の中間に位置した二つの魔力。
そこは図らずとも、1000年前に大戦争が起きた激戦区の真ん中だった。
「これでも昔は、私もあなたを尊敬していたのだがね――」
ジャッジの右腕に、魔力が付与された。
グッと小さく拳を握ったジャッジは、目を細めて眼中にイネスを捉えた。
「……破滅の連矢」
強く地を蹴り、一気にイネスとの距離を縮めにかかるジャッジ。
右拳の周囲に集約された魔力は可視化され、紫色の炎を作り上げていた。
魔力で作り上げられたイネスの弓矢は、何十本もが束になってジャッジに襲いかかるも、彼は避けようともしなかった。
ドドドドドドドッッ!!
何十本もの鏃が、ジャッジに突き刺さっていく。
唸る轟音と共に、ジャッジを貫通した鏃が地面に突き刺さり、大きな土煙を上げる。
――だが。
そんな土煙を掻い潜り、ジャッジは無傷のまま再びイネスの視界に現れた。
「《再生》ですか。魔力攻撃が効かないのは、今も健在のようですね!」
ジャッジの拳が、イネスのすぐ目の前に迫る。
「ハッハーーーーーーッ!!」
巨躯から繰り出される拳は、それだけでイネスの顔ほどの大きさを誇る。
「破壊魔法魔法力付与ッ!」
イネスは、瞬時に自らの右腕全体に《破壊》の魔法力付与を施した。
瞳同様、腕に紅のオーラを纏ったイネスは、迫り来る拳を避ける。
自身のすぐ横を通り過ぎる拳に、イネスは魔力の込めた腕を宛がう。
魔力と魔力が反発し合い、《破壊》特性を持ったイネスが、ジャッジの片腕を粉砕する。
「む。やはり、まだ脆いか……!」
「私たちは、お互いの魔力特性からして、相性が悪いですからね」
飄々と呟くイネスは、粉砕したはずのジャッジの腕が、うねうねと紫色の炎をあげて再生しているのを目にしていた。
「ならば!」
腕を《再生》しきる前に、ジャッジは左足を蹴り上げた。
何の魔力も込めていない、純粋な武術だ。
「肉弾戦闘ですか。受けて立ちますよ」
ガンッ、と。ヒールの底をジャッジの臑に宛がうイネスは、すぐさま四肢に魔力を込めた。
ジャッジが拳を繰り出せば、イネスも蹴りで応戦する。
イネスが真正面から拳を打ち付ければ、ジャッジも拳を真正面から打ち付ける。
ジャッジの大振りな拳撃を、イネスが側面から《破壊》すれば、ジャッジはすぐさま《再生》の魔力で次なる拳を備えていく。
イネスの俊敏な蹴りも、ジャッジはその筋肉ばった身体で真正面から受け止める。
一秒間に数撃単位で繰り広げられる膨大な魔力によって、暴風と轟音が辺りの枯れ葉を撒き散らす。
1000年前の最恐と、1000年間の最凶のぶつかり合いが、空気中の魔力濃度で月の光さえも陰らせた。
頬についた土埃を片手で払って、くすりと笑むようにして、イネスはジャッジが蹴り上げた足を踏み台にして後方に飛び退いた。
「……? これは……」
ふと、着地したイネスは後方に手を伸ばした。
手が触れると、紫色に波打つように波紋が広がっていく。
それはまるで、擬似的に作られた小さな空間の中にいるようにさえ思えた。
「ほう、どうやら頭の悪い奴等にも、私の《焔返り》は伝わったようだ」
間髪を入れず、イネスの真横に拳を繰り出すジャッジは、澄ました表情で呟く。
「魔力障壁……? 魔力がここから外に出ることもなく、外から魔力反応を感知することもできない、といったところでしょうか。」
「ご名答。ここは私とあなたしか入れない巨大な箱庭だ。復活早々、《始祖の魔王》の首を持てるとは、いい手土産を持って凱旋できそうだ」
ジャッジの両腕が、不死鳥を象った紫色の炎へと変化していく。
パチンと、指を鳴らせば地中の中でナニカが蠢き、その姿を現す。
「《不死の軍勢》……!」
「コッ、カゥッ!!」「ウッヴァァァァァオ!!」「ココココ……」「ォ……ウヴォ……ォ……」
多種多様、イネスには見慣れているはずのゾンビ・スケルトンの軍勢は、おおよそ1000は下らない。
小さな魔力障壁に集った軍勢に、イネスは小さく溜息をついた。
「ジャッジ、そんな勢力を一体どこから――?」
「あなたには関係のないことだ。それに、まだまだこれだけでは終わらんよ」
にやり、ジャッジが笑みを浮かべたその瞬間だった。
――ズァァァァァァァ!!
戦闘の突風とは異なった、魑魅魍魎が混ざったような暴風が吹き荒れる。
過去の魂の怨嗟と、死者の苦しみさえも包み込むような暴風が、《不死の軍勢》の集団を取り巻いた。
不死の軍勢たちが、黒色のオーラを纏っている。
それは、聖地林にいる牙狼が、筋肉狼へと突然変異を遂げた時の現象に酷似している。
ジャッジは、腕を大きく掲げた。
「《狂魔化》。そして、ジャッジ・フェニックスが貴様等の主の代理で命じる。不死の軍勢――」
スッと、全ての軍勢の目がイネスを向いた。
「――進撃せよ」
冷徹なジャッジの一言と共に、それらは堰を切った様にイネスに襲いかかっていった――。