「んぉぉぉぉぉなんかいっぱい出てきたぁぁぁぁぁ!?」
「……いやぁ、ホントにたくさんすぎてちょっと勘弁して欲しいねこれは」
「ちょっと昇格試験するタイミング悪すぎたかな!? あのタイミングであがらなきゃこんな大仕事任されてなかったよね!?」
「さーな。昇格試験みたいにシャンとしてくれ、リーダー。アタシらはそれについていくだけだからさ」
嘆息しつつ、持ち武器である長槍を肩にトントンと当てるのは、とあるパーティーの槍使い。その名を、シノン。
――ダルン地区。
王都外壁にあるその一帯を、ヒトは『王都の裏玄関』と称する。
『王都の正門』とも呼ばれるガジャ地区(獅子の心臓担当区域)は、正面とも言われるからこそ、煌びやかな街並と地方からの出稼ぎ商人達による、物品販売拠点となっている。
だが、その反対に冒険者街に最も近いダルン地区は、冒険者用の防具・武具や怪しい裏通り、泥臭く、寂れたような街並みだった。
鉄と血生臭さが一体となるこの地区は、見栄えこそ悪いものの冒険者活動の要である。
この要所を潰しておけば、冒険者も再起は出来ないという狙いもあることだろう。
ブゥンッ。
そんな鈍重な音と共に小さな魔法力反応がいくつも合わさって、地面に巨大な円が描かれた。
バルラ帝国国章と、転移召喚の呪文式が刻まれた大円から、紫色の光が迸る。
まるで地面から生えてくるように、その魔方陣からは次々と亜人の群れが現れてきている。
地面はぬかるみ、生ぬるい風が過ぎる湿地帯。
ベチャリ、ベチャリと生々しい音を立てつつゆっくりと前進してくる亜人の群れに、思わず後方から声が漏れる。
「気味の悪い……ッ!」
ラグルド達の後方では視界を覆う者までいた。
対亜人戦闘においては、皇国正規兵よりも冒険者達の方がはるかに実戦経験が豊富だ。
新生Bランクパーティー『ドレッド・ファイア』を中心に冒険者パーティーが4組、皇国正規兵の小隊が5つの総勢150余。
その先頭指揮を頼まれているリーダーのラグルド・サイフォンは腕に巻いていた炎色のタオルを頭に巻く。
ラグルドに近寄ってきて、皇国正規兵は言う。
「敵勢力、Eランク級ゴブリンが120、Dランク級ゴブリンキング10……は分かるんですが、あれは――?」
正規兵の指す先には、大きさの違う3つのゴブリン集団がいた。
E、Dランク級は正規兵も闘ったことのあるものだが、その戦闘を歩く1つの大きな巨体。
緑色の素肌に、デコボコと盛り上がった筋肉質の体躯。下半身の二倍ほどもある上半身を柔軟に使って、大地に拳をぶつければ、大きな大きなクレーターが形成されている。
下顎に生えた野太い牙からは止めどなく涎が垂れ流されている。
全長にしておおよそ3メートル。ヒト2人分ほどもある化け物は、他のそれとは明らかに体格も、魔法力量も別格だった。
ラグルドの背筋が思わず強張った。
「あ、あれ、ゴブリンロードだよね? よりによって今鉢合わせるとか……!?」
ラグルドの背中をポンと叩く槍使い、シノンは言う。
「確か、1国に1頭。その国のゴブリン全てをとりまとめるバケモンがいるってのはよく聞くが、実際見るのは初めてだな」
ドレッド・ファイアのラグルドとシノンの会話についていけない正規兵は、頭の上に疑問符がいくつも並んでいるようだった。
見かねたシノンは進軍するその亜人部隊を見て呟く。
「ゴブリンロード。推定ランクA、ゴブリンの真の王だ。数百年単位で生き長らえ、勢力を伸ばし、属性不明の魔法を行使することもある。アンタらが前闘ってたってゴブリンキングが中将だとするなら、ゴブリンロードは大将って考えりゃいいよ」
「……ッ!? そ、それなら――」
皇国正規兵の間に動揺が走る。
以前彼らが大敗したものがゴブリンキングなのだから、当然だろう。
「ローグの旦那に、いいとこ見せるんだろ?」
シノンは手持ちの槍柄でラグルドの腰をポンポンと叩く。
言うや否や、ラグルドは思い出したかのように呟いた。
「そうだ、俺たちでもローグさんが帰ってくるまでには、持ちこたえてみせる……! いや、倒しきってみせる!」
先ほどまでの臆病な素振りは微塵も見せないその表情で、腹を決め、大きく息を吸った。
「各個撃破優先して、5人1組を崩さずにして混戦だけは避けて! 皇国上級兵とCランクパーティーは道を作ってくれ! ドレッド・ファイアがゴブリンロードを打ちのめす!」
四方に目線を移しながら呟く司令塔に、皆が大きく頷いた。
「や、やっとウチらのリーダーがやる気になったか……」
「ま、まぁまぁシノンさん。いつものことですし!」
「エンジンかかるまでが長いんだよッ!」
好戦的な目をしたラグルド達に向けられる敵意。
「??????????,????????????????????」
『ォォォォォオオオッッ!!!』
冒険者・皇国正規兵連合軍の前に現れた敵亜人軍の主力級の戦力は、大きく雄叫びをあげると共に、ゴブリンの群れは小刀武器を片手に各々突っ込んでくる。
「全員、生きて帰って、朝まで飲み明かすぞッ!」
『うぉぉぉぉぉぉぉっ!!』
大地を揺るがす咆哮にも負けず、ラグルドは先頭に立ってゴブリンの群れに向けて、直剣を振り下ろしていったのだった。
「……いやぁ、ホントにたくさんすぎてちょっと勘弁して欲しいねこれは」
「ちょっと昇格試験するタイミング悪すぎたかな!? あのタイミングであがらなきゃこんな大仕事任されてなかったよね!?」
「さーな。昇格試験みたいにシャンとしてくれ、リーダー。アタシらはそれについていくだけだからさ」
嘆息しつつ、持ち武器である長槍を肩にトントンと当てるのは、とあるパーティーの槍使い。その名を、シノン。
――ダルン地区。
王都外壁にあるその一帯を、ヒトは『王都の裏玄関』と称する。
『王都の正門』とも呼ばれるガジャ地区(獅子の心臓担当区域)は、正面とも言われるからこそ、煌びやかな街並と地方からの出稼ぎ商人達による、物品販売拠点となっている。
だが、その反対に冒険者街に最も近いダルン地区は、冒険者用の防具・武具や怪しい裏通り、泥臭く、寂れたような街並みだった。
鉄と血生臭さが一体となるこの地区は、見栄えこそ悪いものの冒険者活動の要である。
この要所を潰しておけば、冒険者も再起は出来ないという狙いもあることだろう。
ブゥンッ。
そんな鈍重な音と共に小さな魔法力反応がいくつも合わさって、地面に巨大な円が描かれた。
バルラ帝国国章と、転移召喚の呪文式が刻まれた大円から、紫色の光が迸る。
まるで地面から生えてくるように、その魔方陣からは次々と亜人の群れが現れてきている。
地面はぬかるみ、生ぬるい風が過ぎる湿地帯。
ベチャリ、ベチャリと生々しい音を立てつつゆっくりと前進してくる亜人の群れに、思わず後方から声が漏れる。
「気味の悪い……ッ!」
ラグルド達の後方では視界を覆う者までいた。
対亜人戦闘においては、皇国正規兵よりも冒険者達の方がはるかに実戦経験が豊富だ。
新生Bランクパーティー『ドレッド・ファイア』を中心に冒険者パーティーが4組、皇国正規兵の小隊が5つの総勢150余。
その先頭指揮を頼まれているリーダーのラグルド・サイフォンは腕に巻いていた炎色のタオルを頭に巻く。
ラグルドに近寄ってきて、皇国正規兵は言う。
「敵勢力、Eランク級ゴブリンが120、Dランク級ゴブリンキング10……は分かるんですが、あれは――?」
正規兵の指す先には、大きさの違う3つのゴブリン集団がいた。
E、Dランク級は正規兵も闘ったことのあるものだが、その戦闘を歩く1つの大きな巨体。
緑色の素肌に、デコボコと盛り上がった筋肉質の体躯。下半身の二倍ほどもある上半身を柔軟に使って、大地に拳をぶつければ、大きな大きなクレーターが形成されている。
下顎に生えた野太い牙からは止めどなく涎が垂れ流されている。
全長にしておおよそ3メートル。ヒト2人分ほどもある化け物は、他のそれとは明らかに体格も、魔法力量も別格だった。
ラグルドの背筋が思わず強張った。
「あ、あれ、ゴブリンロードだよね? よりによって今鉢合わせるとか……!?」
ラグルドの背中をポンと叩く槍使い、シノンは言う。
「確か、1国に1頭。その国のゴブリン全てをとりまとめるバケモンがいるってのはよく聞くが、実際見るのは初めてだな」
ドレッド・ファイアのラグルドとシノンの会話についていけない正規兵は、頭の上に疑問符がいくつも並んでいるようだった。
見かねたシノンは進軍するその亜人部隊を見て呟く。
「ゴブリンロード。推定ランクA、ゴブリンの真の王だ。数百年単位で生き長らえ、勢力を伸ばし、属性不明の魔法を行使することもある。アンタらが前闘ってたってゴブリンキングが中将だとするなら、ゴブリンロードは大将って考えりゃいいよ」
「……ッ!? そ、それなら――」
皇国正規兵の間に動揺が走る。
以前彼らが大敗したものがゴブリンキングなのだから、当然だろう。
「ローグの旦那に、いいとこ見せるんだろ?」
シノンは手持ちの槍柄でラグルドの腰をポンポンと叩く。
言うや否や、ラグルドは思い出したかのように呟いた。
「そうだ、俺たちでもローグさんが帰ってくるまでには、持ちこたえてみせる……! いや、倒しきってみせる!」
先ほどまでの臆病な素振りは微塵も見せないその表情で、腹を決め、大きく息を吸った。
「各個撃破優先して、5人1組を崩さずにして混戦だけは避けて! 皇国上級兵とCランクパーティーは道を作ってくれ! ドレッド・ファイアがゴブリンロードを打ちのめす!」
四方に目線を移しながら呟く司令塔に、皆が大きく頷いた。
「や、やっとウチらのリーダーがやる気になったか……」
「ま、まぁまぁシノンさん。いつものことですし!」
「エンジンかかるまでが長いんだよッ!」
好戦的な目をしたラグルド達に向けられる敵意。
「??????????,????????????????????」
『ォォォォォオオオッッ!!!』
冒険者・皇国正規兵連合軍の前に現れた敵亜人軍の主力級の戦力は、大きく雄叫びをあげると共に、ゴブリンの群れは小刀武器を片手に各々突っ込んでくる。
「全員、生きて帰って、朝まで飲み明かすぞッ!」
『うぉぉぉぉぉぉぉっ!!』
大地を揺るがす咆哮にも負けず、ラグルドは先頭に立ってゴブリンの群れに向けて、直剣を振り下ろしていったのだった。