「か、カルファ様、その、流石に無茶っす、俺たちだけで全軍防ぎきるのは、流石に自信ないっす」
プライドをいの一番に投げ捨てたラグルドが、おずおずと手を挙げる。
カルファは腕を組みながら、ローグの持つSSSランク昇格試験の受注用紙に目を向けた。
「その受注を行った当人は、恐らくヴォイドです。となれば、私たちは普段通りの行動を取るべきなんです。ヴォイドは、ローグさんが昇格試験を受けるべく出立することを前提として皇国侵攻を企てていることでしょうから」
「つまり、極力帝国の脅威になりそうなローグさんを昇格試験の為に別の場所に追い払っておいて、その隙に皇国を乗っ取ろうと考えてる……ってことであってますか?」
「その通りです、ラグルドさん。そして、私たちが唯一優位に立っていることと言えば、帝国の転移魔方陣の存在と、侵攻を事前察知出来たことです」
「だ、だったらなおさらローグさんに今出て行ってもらわない方が、俺たちにしちゃ助かるじゃないですか! それだったら、帝国も攻めてこない可能性もありますし!」
ラグルドの必死の説得に、グランはため息を吐きながら「お前にゃプライドはねーのか」と硬い拳で拳骨を喰らわせていた。
「もしローグさんがこのまま昇格試験に出向かなければその通りになる可能性は高いでしょう。ヴォイドとて、犠牲を多くは出したくはないでしょうしね。ですが、勝機があるとするなら今しかないんです」
カルファは地図を見渡した。
「皇国正規兵の既存兵力はおおよそ前回の6割。今朝の亜人襲来によって冒険者は壊滅。そしてローグさん達は昇格試験へ。これは、彼らにとっては絶好の機会でしかありません。仮に昇格試験へと赴かなければ、帝国は再び戦力を増強して、改めて攻め入ってくるでしょうが、不確定期の侵攻に耐えられる国力は今の皇国にはありませんから」
グランは、「なるほどねぇ」と相づちを打ちながら後方の冒険者軍を見渡した。
「一番大ピンチなのが今であるのと同時に、奴等が最大限油断する可能性もあるってのも今でしかないのか。何とも、国のトップ補佐ともあろうものが大博打をするもんだな。下手すりゃ全滅だ」
不適な笑みを浮かべるグランだったが、カルファは金の長い髪を左右に振って立ち上がった。
「ですが――もし、ローグさんが再びここへ戻ってきたときに、SSSランクとなっているならば。それは帝国側にとっても大きな脅威となります。皇国に強大な戦力があることを、帝国以外の他国家に認知させることも出来ます」
『ほぅほぅ。主の存在自体が侵攻と、他国友好への抑止力ともなるということか。随分と信頼が厚いのだな。くはははは』
凜とした表情でローグを見据えたカルファは、ぐっと唇を噛みしめていた。
カルファは、信じ切っている。
だからこそ、ローグがSSSランクになって帰ってくることを前提として今の作戦を構築していることは明白だった。
ローグは冒険者達と、カルファを見渡す。その強い瞳を確認したローグは不適な笑みを浮かべた。
「夜までです」
「夜……ですか」
「それまでには、帰ってきます。だから、先輩方のご好意に甘えて俺は、昇格試験に行ってきます」
ローグの決意表明に、カルファはほっと胸をなで下ろす。グランや、ラグルド、受付嬢を始めとしたアスカロン冒険者は次々にグーサインを出した。
「それでこそだ。アスカロン初のSSSランクになってこい、ローグ」
「こ、こっちはこっちで何とか凌いでおくから、なるべく早く帰ってきてねローグさん!?」
快活に笑うグランと、ビビりまくるラグルド。
ローグの背中をドンと押したグランは、顎髭に手をやりながらにかっと笑う。
そんな冒険者達の人だかりを懸命に掻き分けてやってくる少女がいた。
「ししょー! 全員分の治療が終わりました。みなさん、魔法力もたくさん減ってたので、流れをちょっといじくって元通りにさせてもらいました!」
ピシィッと敬礼ポーズと共に尖ったエルフ耳をピクピクさせてやってきたのはミカエラだ。
「よぉしよぉしよくやってくれたぞ~」
「うへへ~~」
わしゃわしゃとミカエラの翡翠の頭を撫で回すローグに、ミカエラは心酔しきっているようだった。
カルファはふと疑問を覚えてミカエラに問う。
「魔法力の回復、ですか。現実には聞いたことがありませんね。ちなみにローグさん、ミカエラさんの能力って鑑定させて貰ってもいいでしょうか?」
「そういえば、見たことは無かったが……ミカエラ、大丈夫か?」
「はい、ししょーがいいというなら喜んで!」
ミカエラが元気の良い返事をすると共に、「それでは――」と意気込み、ブゥンと左目に魔法力のオーラを滾らせた。
【名前】ミカエラ・シークレット 【種族】エルフ
【性別】女 【職業】回復術師
【所属】ローグ・クセル
【ギルドランク】無
【レベル】13/100 【経験値】5,460
【体力】D 【筋力】E
【防御力】E 【魔力】S+
【俊敏性】E 【知力】D
【スキル】完全回復術Lv.10
MP回復術Lv.5
王の血族
「色々気になる所はたくさんありますが、魔法力回復なんて出来る回復術師が存在したとは……。にしても、王の血族……?」
不審がるカルファを横目に、ローグは言う。
「本来ならミカエラにも来てもらいたい所だが、危なすぎるからお留守番だ。鑑定士さん、お願いするよ」
「は、はい、分かりました」
「いってらっしゃいなのですししょー!」
一日にして、アスカロン冒険者間のアイドル的存在に昇格したミカエラが、明るく呟くと同時に――。
「鑑定士さん、頼みがある」
「はい?」
ローグは他の誰にも見られないように、カルファに複数枚の紙を手渡した。
「魔方陣、ですか」
「あぁ。どうしてもって時にはこれを使うと良い。日中は使えないが、召喚魔法の魔方陣だ」
「何から何までローグさん頼りで申し訳ありません……。その代わり、帰ってきたら皆さんでお祝いをさせてください」
そして深々と頭を下げるカルファ。
「お祝い、期待しておくよ」
皆の声援と期待を込めて、ローグ、イネス、ニーズヘッグの3人はサルディア皇国の王都を後にした。
それを見計らったかのようにして、彼らの出立から程なく3時間後、皇国全土に謎の魔法力反応が現れることになる――。
プライドをいの一番に投げ捨てたラグルドが、おずおずと手を挙げる。
カルファは腕を組みながら、ローグの持つSSSランク昇格試験の受注用紙に目を向けた。
「その受注を行った当人は、恐らくヴォイドです。となれば、私たちは普段通りの行動を取るべきなんです。ヴォイドは、ローグさんが昇格試験を受けるべく出立することを前提として皇国侵攻を企てていることでしょうから」
「つまり、極力帝国の脅威になりそうなローグさんを昇格試験の為に別の場所に追い払っておいて、その隙に皇国を乗っ取ろうと考えてる……ってことであってますか?」
「その通りです、ラグルドさん。そして、私たちが唯一優位に立っていることと言えば、帝国の転移魔方陣の存在と、侵攻を事前察知出来たことです」
「だ、だったらなおさらローグさんに今出て行ってもらわない方が、俺たちにしちゃ助かるじゃないですか! それだったら、帝国も攻めてこない可能性もありますし!」
ラグルドの必死の説得に、グランはため息を吐きながら「お前にゃプライドはねーのか」と硬い拳で拳骨を喰らわせていた。
「もしローグさんがこのまま昇格試験に出向かなければその通りになる可能性は高いでしょう。ヴォイドとて、犠牲を多くは出したくはないでしょうしね。ですが、勝機があるとするなら今しかないんです」
カルファは地図を見渡した。
「皇国正規兵の既存兵力はおおよそ前回の6割。今朝の亜人襲来によって冒険者は壊滅。そしてローグさん達は昇格試験へ。これは、彼らにとっては絶好の機会でしかありません。仮に昇格試験へと赴かなければ、帝国は再び戦力を増強して、改めて攻め入ってくるでしょうが、不確定期の侵攻に耐えられる国力は今の皇国にはありませんから」
グランは、「なるほどねぇ」と相づちを打ちながら後方の冒険者軍を見渡した。
「一番大ピンチなのが今であるのと同時に、奴等が最大限油断する可能性もあるってのも今でしかないのか。何とも、国のトップ補佐ともあろうものが大博打をするもんだな。下手すりゃ全滅だ」
不適な笑みを浮かべるグランだったが、カルファは金の長い髪を左右に振って立ち上がった。
「ですが――もし、ローグさんが再びここへ戻ってきたときに、SSSランクとなっているならば。それは帝国側にとっても大きな脅威となります。皇国に強大な戦力があることを、帝国以外の他国家に認知させることも出来ます」
『ほぅほぅ。主の存在自体が侵攻と、他国友好への抑止力ともなるということか。随分と信頼が厚いのだな。くはははは』
凜とした表情でローグを見据えたカルファは、ぐっと唇を噛みしめていた。
カルファは、信じ切っている。
だからこそ、ローグがSSSランクになって帰ってくることを前提として今の作戦を構築していることは明白だった。
ローグは冒険者達と、カルファを見渡す。その強い瞳を確認したローグは不適な笑みを浮かべた。
「夜までです」
「夜……ですか」
「それまでには、帰ってきます。だから、先輩方のご好意に甘えて俺は、昇格試験に行ってきます」
ローグの決意表明に、カルファはほっと胸をなで下ろす。グランや、ラグルド、受付嬢を始めとしたアスカロン冒険者は次々にグーサインを出した。
「それでこそだ。アスカロン初のSSSランクになってこい、ローグ」
「こ、こっちはこっちで何とか凌いでおくから、なるべく早く帰ってきてねローグさん!?」
快活に笑うグランと、ビビりまくるラグルド。
ローグの背中をドンと押したグランは、顎髭に手をやりながらにかっと笑う。
そんな冒険者達の人だかりを懸命に掻き分けてやってくる少女がいた。
「ししょー! 全員分の治療が終わりました。みなさん、魔法力もたくさん減ってたので、流れをちょっといじくって元通りにさせてもらいました!」
ピシィッと敬礼ポーズと共に尖ったエルフ耳をピクピクさせてやってきたのはミカエラだ。
「よぉしよぉしよくやってくれたぞ~」
「うへへ~~」
わしゃわしゃとミカエラの翡翠の頭を撫で回すローグに、ミカエラは心酔しきっているようだった。
カルファはふと疑問を覚えてミカエラに問う。
「魔法力の回復、ですか。現実には聞いたことがありませんね。ちなみにローグさん、ミカエラさんの能力って鑑定させて貰ってもいいでしょうか?」
「そういえば、見たことは無かったが……ミカエラ、大丈夫か?」
「はい、ししょーがいいというなら喜んで!」
ミカエラが元気の良い返事をすると共に、「それでは――」と意気込み、ブゥンと左目に魔法力のオーラを滾らせた。
【名前】ミカエラ・シークレット 【種族】エルフ
【性別】女 【職業】回復術師
【所属】ローグ・クセル
【ギルドランク】無
【レベル】13/100 【経験値】5,460
【体力】D 【筋力】E
【防御力】E 【魔力】S+
【俊敏性】E 【知力】D
【スキル】完全回復術Lv.10
MP回復術Lv.5
王の血族
「色々気になる所はたくさんありますが、魔法力回復なんて出来る回復術師が存在したとは……。にしても、王の血族……?」
不審がるカルファを横目に、ローグは言う。
「本来ならミカエラにも来てもらいたい所だが、危なすぎるからお留守番だ。鑑定士さん、お願いするよ」
「は、はい、分かりました」
「いってらっしゃいなのですししょー!」
一日にして、アスカロン冒険者間のアイドル的存在に昇格したミカエラが、明るく呟くと同時に――。
「鑑定士さん、頼みがある」
「はい?」
ローグは他の誰にも見られないように、カルファに複数枚の紙を手渡した。
「魔方陣、ですか」
「あぁ。どうしてもって時にはこれを使うと良い。日中は使えないが、召喚魔法の魔方陣だ」
「何から何までローグさん頼りで申し訳ありません……。その代わり、帰ってきたら皆さんでお祝いをさせてください」
そして深々と頭を下げるカルファ。
「お祝い、期待しておくよ」
皆の声援と期待を込めて、ローグ、イネス、ニーズヘッグの3人はサルディア皇国の王都を後にした。
それを見計らったかのようにして、彼らの出立から程なく3時間後、皇国全土に謎の魔法力反応が現れることになる――。