白龍、黒龍、赤龍。
冬眠状態で番いになっていた伝説の3頭龍が、ゴルドーの代わりに高々と雄叫びを上げていたのだった。
今朝、宿屋を出た所で端金を強請ろうとしてきたチンピラ――スキンヘッドのBランク冒険者ゴルドー。
彼は、冬眠状態で眠っていた3頭である白龍、黒龍、赤龍の機嫌を見事に損ねてしまっていたようだった。
舌の上でゴルドーの筋肉質な身体をコロコロ転がしている黒龍が、その3頭の龍のリーダー格であるのは間違いない。
黒龍の少し後ろでは、少し小さい赤龍と白龍が動向を見守っている。
「話が違う! なんだこれは! こんな化け物がいるなんて聞いてないぞ!」
「こ、このままだとヴォイド様に顔向けが出来ないではないか!」
「先に龍をやれ! 全員で上位階魔法をぶちこめば倒れるはずだ!」
先ほどまでゴルドーの背後に潜んでいたのは、中量級の魔法力を飛ばしてきた10人。ため込んでいた魔法力の標的を、ローグ達から3頭龍に変更していた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! せせせ、せめておおお、俺を助けてから――ッ!」
当のゴルドーは、恐怖に戦きながらも黒龍の牙に噛みちぎられないように必死に腕で牙を支えている。
そんな必死の訴えも虚しく、灰色のローブで身を纏った10人の魔法師達の前には一つの巨大な魔方陣が出現した。
全員、顔を見られないようにローブを被っている。
その頭上にある蜷局を巻いた龍の紋章――バルラ帝国の国章が10人分、輝きを放つ。
「お、終わりですよ! あんなのが市街地に向かえば、それこそサルディア皇国は壊滅です……! ってか、あ、あんなバカデカい魔法力を集団で……!?」
状況もよく読み切れていない中で、なるべくその戦闘から離れようと走りながら、ラグルドがその魔法力に怯え始めていた。
「以前の帝国は個人技ばかりで集団魔法に長けているというのは聞いたことがなかったが……。近頃宰相に就任した魔法術師とやらの功績の一つか?」
ラグルドに応じるかのように、グランは呟く。
「いや……」
ローグは、ミカエラを抱えながら呟いた。
「あれじゃ、倒せません。ラグルドさん、剣借りますね」
「ろ、ローグさん? そんなどこにでもあるような剣で、何するつもりなんですか……!?」
「落ち着け、この場においては奴等を見捨ててでも逃げた方が得策だ。馬鹿な真似はよせ。」
2人の疑問を意にも介さず、バルラ帝国の魔法術師は魔法を放った。
「し、ししょー!?」
ローグは、気付けば踵を返して3頭龍と魔法術師達の元へと向かっていた。
「悪いな。我らとて、手ぶらどころか身一つ持ち帰らないことにはヴォイド様に示しがつかん。上位階集団魔法――捌きの鉄槌!」
洗練された魔法術師達が、先頭に現れた巨大な魔方陣に魔法力を注ぎ込むと、その中からは巨大な鉄槌が姿を現し、空に浮かぶ黒龍目がけて一直線で向かっていく。
「グルァッ!」
『グァァァァァァッッッ!!!』
黒龍の指示を受けた白龍と赤龍は、主を守るように立ちはだかる。
「ゴァァァァァッ!!」「ジャァァァァッ!!」
白龍、赤龍は魔法術師達の鉄槌を避けようともしなかった。
口端に身体中の膨大な魔法力を集約させ、白龍は冷気と氷の照射、赤龍は火炎を吐き出した。
いとも容易く魔法術師達の放った巨大な鉄槌を凍らせ、炎で破壊する。
その直後、背後に備えていた黒龍が、まるで虫を殺すかのような感覚で魔法力を込め、腕を振る。
腕を振られた衝撃によって魔法力は黒い刃へと変わり――。
「――ッ! 総員、結界魔法だ! 結界魔法をぉぉぉぉぉ!?」
バルラ帝国の魔法術師達は瞬時に、自分たちの前に防御結界を貼るも、たったの一撃で破壊される。
何気ない動きで、黒龍がついでにともう一発放ったその黒い刃。
「兵長! イレギュラー級……SSランク超えです! 眠りの妨げをされた龍のレートは、おおよそSS! もう、誰も魔法力なんて残って……!」
魔法術師達が諦めた、その瞬間だった。
「魔法力付与、龍撃剣」
ラグルドの剣を持って、魔法術師達の前にはだかったローグは剣腹をなぞって魔法力を付与させた。
「張り切ってるとこ悪いが、少々お痛がすぎたようだな」
ローグは、空から振り下ろされてきた黒い刃を、一振りで相殺する。
「そのヒトでも、大切な皇国の民だからな。返してもらおう」
「ジャッ!」
ローグは、剣に魔法力を込めた。
「ニーズヘッグから教えてもらった対龍戦がこんなとこで役立つとはな。龍撃魔法――守護龍の雷撃角」
それは、一瞬の出来事だった。
ローグの構えた剣先から目にもとまらぬ速さで、空に浮かぶ白龍目がけて雷撃が吹っ飛んでいく。
それは、ニーズヘッグが対アースガルズ戦で見せた雷撃よりも遥かに迅速で、威力がこもっていた。
「……ァッ!?」
ローグの放った魔法力が、白龍の喉元に突き刺さる。
白龍の体内で、龍殺しの魔法力が散らばっていき、その巨体が硬直。
目から光が失われ、白龍はズズンと地面に墜落した。
「――ォォォォォォンッ!!」
相方の絶命に呼応した赤龍は、ギロリとローグを睨み付けて、先ほどとは比べものにならないほどの極大量の火炎を吐き出した。
「そ、総員、総員、退避しろぉぉぉっ!?」
バルラ帝国の魔法術師達は、視界を覆うほどの炎量に息を呑んで我先にと逃げ出そうとするが、ローグは落ち着いた表情で呟いた。
「そんなに逃げなくても、この程度逃げるまでもない」
瞬間、ローグの片目から漏れ出た魔法力がオーラとなった。
それはまるで、イネス・ルシファーのごとき魔王の力と同等のものだった。
空間魔法、魔王の一撃。
極大量の魔法は、いとも簡単にローグの手の平に現れた小さな暗闇に吸い取られていく。
にやり、笑みを浮かべたローグは赤龍に向けてその赤みがかっていた炎・闇が混合する魔法玉を空中へ放り投げ、魔法力付与を施した剣をバット代わりにして――。
「よ……っと」
魔法力付与したエネルギーを炎・闇混合の魔法玉に打ち込むと同時に、莫大なエネルギーを保有した魔法玉が赤龍の側頭部に激突。
ふらりと翼の挙動がずれると共に、ふらふらと赤龍は地面に落ちていく。
その様子を、ただぽかーんと眺めていたその場の一同だったが、最後の標的である黒龍だけが、翼を翻して逃げるようにして空へと上がっていく。
口に咥えていたゴルドーをポイ捨てするのを、忘れずに。
「うぉぉぉぉぉ死ぬぅぅぅぅぅぅぅ!?」
真っ逆さまに落ちていくゴルドーをキャッチして、ローグはラグルドの剣に硬化魔法力付与を施した。
「寝てるところを起こしたのは悪かったよ。出来れば、春までゆっくり寝ておいてくれ」
ラグルドの剣を投擲して、黒龍の側頭にヒットさせると同時にその巨体は再び地に落ちた。
ローグが辺りを見回したとき、そこには既にバルラ帝国の魔法術師達はおらず、ラグルド、グランがぽかんと口を開けてミカエラがしきりに感動して拍手を送っているだけだった。
後の任務達成報告書には、このように記されている。
『ローグ・クセル
スライム討伐時間、25分(うち、エルフ族ミカエラ・シークレットの所要時間23分)
冬眠から異常起床をしたSSレート級赤龍・白龍・黒龍討伐時間、30秒
備考
国際ギルド連合ヨリ通達アリ
龍殺しの称号を与えると共に、SSSレート冒険者への昇級を強く推薦するものとする。』
――と。
冬眠状態で番いになっていた伝説の3頭龍が、ゴルドーの代わりに高々と雄叫びを上げていたのだった。
今朝、宿屋を出た所で端金を強請ろうとしてきたチンピラ――スキンヘッドのBランク冒険者ゴルドー。
彼は、冬眠状態で眠っていた3頭である白龍、黒龍、赤龍の機嫌を見事に損ねてしまっていたようだった。
舌の上でゴルドーの筋肉質な身体をコロコロ転がしている黒龍が、その3頭の龍のリーダー格であるのは間違いない。
黒龍の少し後ろでは、少し小さい赤龍と白龍が動向を見守っている。
「話が違う! なんだこれは! こんな化け物がいるなんて聞いてないぞ!」
「こ、このままだとヴォイド様に顔向けが出来ないではないか!」
「先に龍をやれ! 全員で上位階魔法をぶちこめば倒れるはずだ!」
先ほどまでゴルドーの背後に潜んでいたのは、中量級の魔法力を飛ばしてきた10人。ため込んでいた魔法力の標的を、ローグ達から3頭龍に変更していた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! せせせ、せめておおお、俺を助けてから――ッ!」
当のゴルドーは、恐怖に戦きながらも黒龍の牙に噛みちぎられないように必死に腕で牙を支えている。
そんな必死の訴えも虚しく、灰色のローブで身を纏った10人の魔法師達の前には一つの巨大な魔方陣が出現した。
全員、顔を見られないようにローブを被っている。
その頭上にある蜷局を巻いた龍の紋章――バルラ帝国の国章が10人分、輝きを放つ。
「お、終わりですよ! あんなのが市街地に向かえば、それこそサルディア皇国は壊滅です……! ってか、あ、あんなバカデカい魔法力を集団で……!?」
状況もよく読み切れていない中で、なるべくその戦闘から離れようと走りながら、ラグルドがその魔法力に怯え始めていた。
「以前の帝国は個人技ばかりで集団魔法に長けているというのは聞いたことがなかったが……。近頃宰相に就任した魔法術師とやらの功績の一つか?」
ラグルドに応じるかのように、グランは呟く。
「いや……」
ローグは、ミカエラを抱えながら呟いた。
「あれじゃ、倒せません。ラグルドさん、剣借りますね」
「ろ、ローグさん? そんなどこにでもあるような剣で、何するつもりなんですか……!?」
「落ち着け、この場においては奴等を見捨ててでも逃げた方が得策だ。馬鹿な真似はよせ。」
2人の疑問を意にも介さず、バルラ帝国の魔法術師は魔法を放った。
「し、ししょー!?」
ローグは、気付けば踵を返して3頭龍と魔法術師達の元へと向かっていた。
「悪いな。我らとて、手ぶらどころか身一つ持ち帰らないことにはヴォイド様に示しがつかん。上位階集団魔法――捌きの鉄槌!」
洗練された魔法術師達が、先頭に現れた巨大な魔方陣に魔法力を注ぎ込むと、その中からは巨大な鉄槌が姿を現し、空に浮かぶ黒龍目がけて一直線で向かっていく。
「グルァッ!」
『グァァァァァァッッッ!!!』
黒龍の指示を受けた白龍と赤龍は、主を守るように立ちはだかる。
「ゴァァァァァッ!!」「ジャァァァァッ!!」
白龍、赤龍は魔法術師達の鉄槌を避けようともしなかった。
口端に身体中の膨大な魔法力を集約させ、白龍は冷気と氷の照射、赤龍は火炎を吐き出した。
いとも容易く魔法術師達の放った巨大な鉄槌を凍らせ、炎で破壊する。
その直後、背後に備えていた黒龍が、まるで虫を殺すかのような感覚で魔法力を込め、腕を振る。
腕を振られた衝撃によって魔法力は黒い刃へと変わり――。
「――ッ! 総員、結界魔法だ! 結界魔法をぉぉぉぉぉ!?」
バルラ帝国の魔法術師達は瞬時に、自分たちの前に防御結界を貼るも、たったの一撃で破壊される。
何気ない動きで、黒龍がついでにともう一発放ったその黒い刃。
「兵長! イレギュラー級……SSランク超えです! 眠りの妨げをされた龍のレートは、おおよそSS! もう、誰も魔法力なんて残って……!」
魔法術師達が諦めた、その瞬間だった。
「魔法力付与、龍撃剣」
ラグルドの剣を持って、魔法術師達の前にはだかったローグは剣腹をなぞって魔法力を付与させた。
「張り切ってるとこ悪いが、少々お痛がすぎたようだな」
ローグは、空から振り下ろされてきた黒い刃を、一振りで相殺する。
「そのヒトでも、大切な皇国の民だからな。返してもらおう」
「ジャッ!」
ローグは、剣に魔法力を込めた。
「ニーズヘッグから教えてもらった対龍戦がこんなとこで役立つとはな。龍撃魔法――守護龍の雷撃角」
それは、一瞬の出来事だった。
ローグの構えた剣先から目にもとまらぬ速さで、空に浮かぶ白龍目がけて雷撃が吹っ飛んでいく。
それは、ニーズヘッグが対アースガルズ戦で見せた雷撃よりも遥かに迅速で、威力がこもっていた。
「……ァッ!?」
ローグの放った魔法力が、白龍の喉元に突き刺さる。
白龍の体内で、龍殺しの魔法力が散らばっていき、その巨体が硬直。
目から光が失われ、白龍はズズンと地面に墜落した。
「――ォォォォォォンッ!!」
相方の絶命に呼応した赤龍は、ギロリとローグを睨み付けて、先ほどとは比べものにならないほどの極大量の火炎を吐き出した。
「そ、総員、総員、退避しろぉぉぉっ!?」
バルラ帝国の魔法術師達は、視界を覆うほどの炎量に息を呑んで我先にと逃げ出そうとするが、ローグは落ち着いた表情で呟いた。
「そんなに逃げなくても、この程度逃げるまでもない」
瞬間、ローグの片目から漏れ出た魔法力がオーラとなった。
それはまるで、イネス・ルシファーのごとき魔王の力と同等のものだった。
空間魔法、魔王の一撃。
極大量の魔法は、いとも簡単にローグの手の平に現れた小さな暗闇に吸い取られていく。
にやり、笑みを浮かべたローグは赤龍に向けてその赤みがかっていた炎・闇が混合する魔法玉を空中へ放り投げ、魔法力付与を施した剣をバット代わりにして――。
「よ……っと」
魔法力付与したエネルギーを炎・闇混合の魔法玉に打ち込むと同時に、莫大なエネルギーを保有した魔法玉が赤龍の側頭部に激突。
ふらりと翼の挙動がずれると共に、ふらふらと赤龍は地面に落ちていく。
その様子を、ただぽかーんと眺めていたその場の一同だったが、最後の標的である黒龍だけが、翼を翻して逃げるようにして空へと上がっていく。
口に咥えていたゴルドーをポイ捨てするのを、忘れずに。
「うぉぉぉぉぉ死ぬぅぅぅぅぅぅぅ!?」
真っ逆さまに落ちていくゴルドーをキャッチして、ローグはラグルドの剣に硬化魔法力付与を施した。
「寝てるところを起こしたのは悪かったよ。出来れば、春までゆっくり寝ておいてくれ」
ラグルドの剣を投擲して、黒龍の側頭にヒットさせると同時にその巨体は再び地に落ちた。
ローグが辺りを見回したとき、そこには既にバルラ帝国の魔法術師達はおらず、ラグルド、グランがぽかんと口を開けてミカエラがしきりに感動して拍手を送っているだけだった。
後の任務達成報告書には、このように記されている。
『ローグ・クセル
スライム討伐時間、25分(うち、エルフ族ミカエラ・シークレットの所要時間23分)
冬眠から異常起床をしたSSレート級赤龍・白龍・黒龍討伐時間、30秒
備考
国際ギルド連合ヨリ通達アリ
龍殺しの称号を与えると共に、SSSレート冒険者への昇級を強く推薦するものとする。』
――と。