ローグ達の泊まった宿は、王都でも数少ない超格安宿泊所として有名な場所だ。
だが、治安が悪く命の保証をされないことでも有名である。
朝に弱いニーズヘッグが、新たに加わった弟子を呼びに飛び去ったのと同時にローグとイネスも宿で受付を済ませて外に出た、その時だった。
「よう、優面の兄ちゃんよ。今から帰りかい? こんなボロ宿でランデブーたぁ、寂しいじゃねぇか」
受付婆に金銭を渡したローグが道に出た瞬間に、6人の男がすぐさま2人を囲んだ。
「こんなボロっちい宿にいるってこたぁ、新人かそこらだろう。Bランク冒険者のゴルドーってもんだ。お前さんもステータスでも見せてみろや。拒否ると……ロクな目には遭わねぇからオススメしねぇぜ?」
取り囲んで、男達は小刀を突きつける。
安い宿に寝泊まりしなくてはならないという財政状況と、この街のことをまだあまり知らずにきょろきょろと興味深く辺りを見回していること。そして先ほど階上から聞こえてきた初々しい初心表明を聞いたことを合わせて、新人冒険者がやって来たと言わんばかりに盗賊達は徒党を組んでいたのだった。
もし、普通の冒険者だったらこの徒党に畏れを為して、怯えながらステータス開示をしていたことだろう。
実際、前の盗賊達も長年の経験からそう感じ取っていたのだが。
「声を掛けられた……! これがカツアゲというやつだな! 先輩冒険者の指示には従うのが、新人のマナーということならば、もちろん率先して提示させてもらおう。これが、俺のステータスだ」
冒険者生活の第一歩、『先輩からのカツアゲ』にワクワクしているとでも言わんばかりに、意気揚々としてステータス開示をするローグ。死霊術師ということでステータス開示拒否を続けていたのだが、こうして正々堂々と色々な人間の前で開示出来ると言うことが、何より嬉しいのだから。そして、これから始まる未知の人間関係構築が楽しみで楽しみで仕方が無い。
だが、そのあまりのキラキラとした目つきと勢いに、盗賊達の間に一瞬だけ「こいつ、もしかしてとんでもねぇ実力者なんじゃ……」という空気が流れたのだが、それもあくまで一瞬のことで――。
【名前】ローグ・クセル
【種族】人間
【職業】冒険者
【所属】サルディア皇国ギルド本部《アスカロン》
【クラス】新人(G)
ローグの提示したクラスを見て、思わず「ぷっ……っはははは!!」と笑いを我慢できずに盗賊は笑みを浮かべた。
「そうか、やっぱり新人か。それならここから出るには俺たちにみかじめ料払わねぇといけねぇことは覚えておくといい。銀貨1枚で許してやるよ。銅貨10枚分だ。さっさと出せば痛い目は見ないと思うぜ?」
イネスが即座にそれらを葬り去ろうと極大量の魔法力を錬成し始めようかという頃、ローグは努めて笑顔でイネスを諫める。
「申し訳ない。俺たちもそんなに金を持っているわけじゃないんだ。これで、手を打ってくれないか?」
ローグは、ポケットの中から残った銅貨3枚を賊の頭であるゴルドーに手渡そうとする。
「ろ、ローグ様よろしいのですか? こんな薄汚い奴等にローグ様の血と汗の結晶を渡すなど」
「今から稼ぎに稼いでくことを考えれば、安いもんだろう? それに、無闇に敵を作ってばかりだとお友達なんて100年経っても作れない。出来れば、穏便に済ませたい」
「で、ですが――」
「そうだぞ、ローグゥ。俺たちはもう、友達だからな! 友達が困ってたらちょっと金貸すのが友情ってもんだぞ!」
困惑するイネスを傍目に、「なはははは」と声を張って迫るゴルドー。
スキンヘッドと厳つい顔つき。ガタイのいい身体と手に持った、少し高価な短刀。
ラグルド達が着るものよりも少しだけ頑強そうな鎧を纏ったゴルドーは、下卑た笑いを浮かべながらローグの襟首をガシと掴んだ。
「金がなければどこかで借りてくればいいさ。それか、お前の手持ちの女をこっちに寄越すんだ。そうすればまぁ、見逃してやらんこともないぞ? 案外上玉じゃないか?」
「…………ほぅ」
メラッと、イネスの左目に紅が走った途端だった。
「おいおい待て待てイネス、頼むからお前は手を出すな、頼むから死人を作るな」
イネスの一撃があれば、この6人などあっという間に消し炭になってしまうのだから。
「あぁ、ローグは賢いじゃないか。勝てない相手に戦いを挑むのはやめておいた方が良い。この包囲を見れば分かるだろうに」
ゴルドーが笑うのにつられて、ローグも「あっはっは」と笑みを浮かべた。
「まぁ、それでもウチの配下に手出ししようとするような輩とは、ちょっとお友達にはなれないな」
ローグは、笑みを浮かべたまま瞬間的に拳に魔法力を込めて、眼前の男の鳩尾目がけて思いっきり打ち込んだ。
「ゴフッ……!?」
あまりの速さに、ゴルドーは全く反応できずにいた。
何が起きているのか、何をされたのか分からないままに痛みだけが波打つように広がり、気付けば身体をくの字に曲げて倒れ伏していた。
泡を吹いてゴルドーが倒れると共に、異様な雰囲気が場に流れた。
「お、お頭!? ってめぇ新人だからって大目に見てれば舐めた真似しやがって! 少々痛い目見て貰うぜ正義の味方気取りさんよ!」
ゴルドーが泡を吹いて地面に伏せるのを契機に、包囲網を敷いていた他の男達が一斉にローグに向けて魔力攻撃をしかける。
「イネス、手は出すなよ。先輩を死なせたらそれこそ元も子もないんだからな」
ローグは冷静に言い放つと、四方八方からやってくる魔法攻撃から一切逃げようとせずに手を広げた。
「無属性魔法、魔力解除」
すると、ローグに魔力攻撃が当たると思われていたものは全て粉々に蒸気化して消えていってしまった。
「――くぺぇっ!?」
自身の魔法攻撃自体を解除されたこともない盗賊達が目の前の現象に驚いているのも束の間、ローグは脚力強化の魔法を使って、残りの5人をほとんど同時に手刀で気絶せしめていた。
その美技には、思わずイネスも素で拍手を送るしかないほどだ。
「聞こえてるか分かんないけど、お頭さん。銅貨3枚だけだけど、置いていくよ。何ていうか、せっかくのお友達勧誘に答えられずに悲しいよ。次会うときは、別の形だといいな」
ローグは、持っていた小包を伸びてしまっていたゴルドーの頭の横にポンと置いた。
「さ、流石です、ローグ様! 格好良くて不肖イネス、思わず見入ってしまっていました!」
「いや、イネスがやったら確実に殺しちゃうからな……。新人冒険者になった途端同業者殺しで追われるのなんてまっぴらごめんだぞ……」
きゃっきゃうふふとイネスがローグの腕に絡まりつくのを、薄れ行く意識でゴルドーは眺めていた。
砂利を掴みながら、未だ一つも衰えぬ痛みでローグが置いていった小包を握る。
「あのクソガキ……ぜってぇ許さねぇ……! 俺の縄張りを荒らしてまわって、好き勝手生きていけると思うんじゃねぇぞ……ローグ・クセル……ッ!!」
痛みと共に意識が遠のいていくゴルドーの呟きは、前を悠然と歩くローグ達には聞こえるはずもなかったのだった。
だが、治安が悪く命の保証をされないことでも有名である。
朝に弱いニーズヘッグが、新たに加わった弟子を呼びに飛び去ったのと同時にローグとイネスも宿で受付を済ませて外に出た、その時だった。
「よう、優面の兄ちゃんよ。今から帰りかい? こんなボロ宿でランデブーたぁ、寂しいじゃねぇか」
受付婆に金銭を渡したローグが道に出た瞬間に、6人の男がすぐさま2人を囲んだ。
「こんなボロっちい宿にいるってこたぁ、新人かそこらだろう。Bランク冒険者のゴルドーってもんだ。お前さんもステータスでも見せてみろや。拒否ると……ロクな目には遭わねぇからオススメしねぇぜ?」
取り囲んで、男達は小刀を突きつける。
安い宿に寝泊まりしなくてはならないという財政状況と、この街のことをまだあまり知らずにきょろきょろと興味深く辺りを見回していること。そして先ほど階上から聞こえてきた初々しい初心表明を聞いたことを合わせて、新人冒険者がやって来たと言わんばかりに盗賊達は徒党を組んでいたのだった。
もし、普通の冒険者だったらこの徒党に畏れを為して、怯えながらステータス開示をしていたことだろう。
実際、前の盗賊達も長年の経験からそう感じ取っていたのだが。
「声を掛けられた……! これがカツアゲというやつだな! 先輩冒険者の指示には従うのが、新人のマナーということならば、もちろん率先して提示させてもらおう。これが、俺のステータスだ」
冒険者生活の第一歩、『先輩からのカツアゲ』にワクワクしているとでも言わんばかりに、意気揚々としてステータス開示をするローグ。死霊術師ということでステータス開示拒否を続けていたのだが、こうして正々堂々と色々な人間の前で開示出来ると言うことが、何より嬉しいのだから。そして、これから始まる未知の人間関係構築が楽しみで楽しみで仕方が無い。
だが、そのあまりのキラキラとした目つきと勢いに、盗賊達の間に一瞬だけ「こいつ、もしかしてとんでもねぇ実力者なんじゃ……」という空気が流れたのだが、それもあくまで一瞬のことで――。
【名前】ローグ・クセル
【種族】人間
【職業】冒険者
【所属】サルディア皇国ギルド本部《アスカロン》
【クラス】新人(G)
ローグの提示したクラスを見て、思わず「ぷっ……っはははは!!」と笑いを我慢できずに盗賊は笑みを浮かべた。
「そうか、やっぱり新人か。それならここから出るには俺たちにみかじめ料払わねぇといけねぇことは覚えておくといい。銀貨1枚で許してやるよ。銅貨10枚分だ。さっさと出せば痛い目は見ないと思うぜ?」
イネスが即座にそれらを葬り去ろうと極大量の魔法力を錬成し始めようかという頃、ローグは努めて笑顔でイネスを諫める。
「申し訳ない。俺たちもそんなに金を持っているわけじゃないんだ。これで、手を打ってくれないか?」
ローグは、ポケットの中から残った銅貨3枚を賊の頭であるゴルドーに手渡そうとする。
「ろ、ローグ様よろしいのですか? こんな薄汚い奴等にローグ様の血と汗の結晶を渡すなど」
「今から稼ぎに稼いでくことを考えれば、安いもんだろう? それに、無闇に敵を作ってばかりだとお友達なんて100年経っても作れない。出来れば、穏便に済ませたい」
「で、ですが――」
「そうだぞ、ローグゥ。俺たちはもう、友達だからな! 友達が困ってたらちょっと金貸すのが友情ってもんだぞ!」
困惑するイネスを傍目に、「なはははは」と声を張って迫るゴルドー。
スキンヘッドと厳つい顔つき。ガタイのいい身体と手に持った、少し高価な短刀。
ラグルド達が着るものよりも少しだけ頑強そうな鎧を纏ったゴルドーは、下卑た笑いを浮かべながらローグの襟首をガシと掴んだ。
「金がなければどこかで借りてくればいいさ。それか、お前の手持ちの女をこっちに寄越すんだ。そうすればまぁ、見逃してやらんこともないぞ? 案外上玉じゃないか?」
「…………ほぅ」
メラッと、イネスの左目に紅が走った途端だった。
「おいおい待て待てイネス、頼むからお前は手を出すな、頼むから死人を作るな」
イネスの一撃があれば、この6人などあっという間に消し炭になってしまうのだから。
「あぁ、ローグは賢いじゃないか。勝てない相手に戦いを挑むのはやめておいた方が良い。この包囲を見れば分かるだろうに」
ゴルドーが笑うのにつられて、ローグも「あっはっは」と笑みを浮かべた。
「まぁ、それでもウチの配下に手出ししようとするような輩とは、ちょっとお友達にはなれないな」
ローグは、笑みを浮かべたまま瞬間的に拳に魔法力を込めて、眼前の男の鳩尾目がけて思いっきり打ち込んだ。
「ゴフッ……!?」
あまりの速さに、ゴルドーは全く反応できずにいた。
何が起きているのか、何をされたのか分からないままに痛みだけが波打つように広がり、気付けば身体をくの字に曲げて倒れ伏していた。
泡を吹いてゴルドーが倒れると共に、異様な雰囲気が場に流れた。
「お、お頭!? ってめぇ新人だからって大目に見てれば舐めた真似しやがって! 少々痛い目見て貰うぜ正義の味方気取りさんよ!」
ゴルドーが泡を吹いて地面に伏せるのを契機に、包囲網を敷いていた他の男達が一斉にローグに向けて魔力攻撃をしかける。
「イネス、手は出すなよ。先輩を死なせたらそれこそ元も子もないんだからな」
ローグは冷静に言い放つと、四方八方からやってくる魔法攻撃から一切逃げようとせずに手を広げた。
「無属性魔法、魔力解除」
すると、ローグに魔力攻撃が当たると思われていたものは全て粉々に蒸気化して消えていってしまった。
「――くぺぇっ!?」
自身の魔法攻撃自体を解除されたこともない盗賊達が目の前の現象に驚いているのも束の間、ローグは脚力強化の魔法を使って、残りの5人をほとんど同時に手刀で気絶せしめていた。
その美技には、思わずイネスも素で拍手を送るしかないほどだ。
「聞こえてるか分かんないけど、お頭さん。銅貨3枚だけだけど、置いていくよ。何ていうか、せっかくのお友達勧誘に答えられずに悲しいよ。次会うときは、別の形だといいな」
ローグは、持っていた小包を伸びてしまっていたゴルドーの頭の横にポンと置いた。
「さ、流石です、ローグ様! 格好良くて不肖イネス、思わず見入ってしまっていました!」
「いや、イネスがやったら確実に殺しちゃうからな……。新人冒険者になった途端同業者殺しで追われるのなんてまっぴらごめんだぞ……」
きゃっきゃうふふとイネスがローグの腕に絡まりつくのを、薄れ行く意識でゴルドーは眺めていた。
砂利を掴みながら、未だ一つも衰えぬ痛みでローグが置いていった小包を握る。
「あのクソガキ……ぜってぇ許さねぇ……! 俺の縄張りを荒らしてまわって、好き勝手生きていけると思うんじゃねぇぞ……ローグ・クセル……ッ!!」
痛みと共に意識が遠のいていくゴルドーの呟きは、前を悠然と歩くローグ達には聞こえるはずもなかったのだった。