まだ、
夏の日の高い夕方は
真昼のように
明るい 港。

現れた メガヨットに、
埠頭の人は
写真を撮っている。

その閃光の中、
ヨットのデッキが
開いて、
人が降りて来る。

白いスーツの男性が、
レディファーストで
デッキハッチを
開けて、
片手を次に降りてきた
修道女に
手を差し出した。

いや、
グレーのワンピースの女だ。


「じゃあ~、お嬢様ぁ。
お手をどうぞ。いよいよだねぇ」

ハジメの言葉に、
副女は 笑顔を
返す。

「気障だね、有り難うハジメさん
あと、ヨミさんとシオンさんも」

副女の後からは、
会計女が続き
ユキノジョウとユリヤ、アコと
並んで 下船する。

「会計は、アタシなんだし、
アタシも、一緒に行っていい?」

会計女の
そんな 言葉には、
副女は
頭を振って

「もともと、会長と私が 対象。
会計女さんの気持ちは 嬉しい
けど、今回は 私だけだよ。」

それよりと、
会計女の
手を握り

「どんなに嫌でも、血が繋がる
者同士って、切れないんだから
何処にいても、
親だってこと、肝にしとけ!」

っといって笑う。
そんな副女に、
泣き顔の 会計女が
白い幅広の 帽子を
かぶせた。

「行きのホテルで買ったやつ。」

副女は、会計女の言葉に 無言で
頷く。

そして、
ユキノジョウに、

握手を求め

「ユキノジョウくんの お蔭で
服を調達できたよ。サンキュ
これから先、何かあれば また
島で合流しよう。約束はしない
けど、また ね。」

と、出された
ユキノジョウの
右手を 掴んで、ブンブンとして
離した。

副女が 前に 向き直ると、
港に

黒い車が 留まっている。

中から、スーツ姿の会長が
出てきたのが、
ユキノジョウには
見えた。

その奥には、ユリヤの父親が
いる。

副女が、
連絡をして 唯一の
お盆休みで
帰省した所に、
ユリヤを迎えにと、呼んだのだ。

ユリヤは、1度
ユキノジョウに
振り返り、その口が動いたけど、
父親に走る。

また、学校でと
言った気が、したのに、
ユキノジョウには、
ユリヤが 遠くに 感じた。


再び、
ハジメに 副女が向き合うと、

「まるでぇ、その帽子~、
コルネットみたいだねん。」

笑って

ハジメが
揶揄しながら、右手を
差し出している。

その手を、
握ったまま 意を決した様に

「ハジメさん。私は、、、、
『パルム・ドール』をきっと
手にしたよ。演じるべき、
役が もうすぐ終わるってね。
だから 今、全てが 、、昇華
された。ありがとう。」

それでいて 静かに
副女が
宣言をした。

「『パルムドール』、、て、」

ハジメのタレた目が
副女を
射ぬく。

そんな ハジメの手を
放して、

副女は、黒い車に歩く。

横を通り
すぎながら、

「家族を見つけな。神様は、
大丈夫な貴方を 待ってくれる。
その時はじめて、
貴方も 目の前に、
『パルム・ドール』をその手に」

ハジメに囁いたのが、
風にのって
ユキノジョウにも

聞こえた。
それは、呪文のようで、
副女の
後ろ姿は、
まるで 主演女優の ようで、

「それは~?!シスターグレー!
断罪人の予言~?!」

と、ハジメが
叫ぶ姿は やっぱり子どもだと、
ユキノジョウは 思った。

なのに、
副女は
振り返らずに、

「それが、最終の答え➰」
って
手を ヒラヒラと

振っただけだった。

ドアが閉まる 黒い車。

それが、
ユキノジョウと ユリヤの

最初で最後の
夏休み3日間の旅の

終演。

メガヨットに、佇むの家族達の、
その心を知らずに、
港の他人が
まだ船を撮る、
写真閃光が
続く。