いやぁ~、あれはさぁ、ビックリ
だよねん~。本気でぇ奪衣婆って
思っちゃったよぉ。

ハジメが今 運転しているのは、
白いオープンカーではなく

副女から強奪した、軽自動車だ。
副女達の 荷物も そのままに
積みながらで、
後部座席には、
浮き輪やら、
ごちゃごちゃしている。

『はっ!!その 船のケツんとこ
載せてんのは、アンタの
たいそーなVIPカーだろーが!
それ乗ってけや!!』

って副女さん。あれはないよぉ。
かなりご機嫌ななめだったね?
アハハ。

もちろん、
船の底辺デッキには、
白いオープンカーを登載して
いたが、
ハジメは 下ろすのを
面倒がったのだ。

何かあったのかなん?

「あっちが、副女さんの素なんだ
ろうねぇ。まあ~いいんだけど」

廃墟テラスハウスの
横に停めていた
レンタルの軽自動車を、
ハジメは 副女から借りて、

手入れされていない
海岸線の道を
少し走る。

前職の経験から、山の中も
平原でも、
衛星マップの航空景色で、
頭に入れるから、道をみるのに
迷いはない。

『ユリ!すげー!ジャグジー
ある!これ入っていい?!』

朽ちた桟橋から
手を振る 子供達と、
鬼の形相の母親達を

ハジメは、
船に迎えて、
見学をさせた。

「そろそろ、左手に道だろね~」

たまに、石に乗り上げるのか、
アスファルトでも
軽自動車が バウンドする。

『昔はね、長老がいたから、
挨拶したら 案内してくれたけ
ど、今は 家と畑も
半移住っての?人に貸して
島にいないよ。まあ。
上手く、貸してる人に
会えたらさ、声かけたら?』

副女は、そう言って
会計女から 車のキーを もらい
ハジメに 投げつけた。

『さっき、変な誤解して、ごめんね。拉致られると 思ったから』

と、言葉を付け足して。

ほんと~、何怒ってるんだかぁ。
あれは、僕のせいじゃないよん。


「せっかく?シャワーと水着ぃ
貸してあげたのにさぁ。
扱いが、酷いよぉねぇ~!!」

何故か
砂でドロドロになった、母親達は
不振な 船から、子供達を
守るため、猛ダシュで
走ってきた。

笑えたぁ。
そして、羨ましい。

ハジメ達が、船をチャーター
しているのを 知るのは
ユキノジョウだけだから、
副女の様子は仕方なしだ。


でも、もし、
ハジメ達が 拉致船だとしたら、
あの 母親達は
やっぱり
死に物狂いで 子供達を
守るのだろう。

親ってねぇ。いろいろでも~、

「すごいよお、ねぇ、、」

『どうせ、あそこに
行くんでしょ?荷物に 虫除け
積んでるから、使いな。』

バックミラーで、
後部座席のカラフルな
荷物を チラリと 確認する。
と、
突然、左手に 畦道のような
農道が 見えた。

畑や、果樹の植えた畝も
見える。

ここだろうねぇ。
ハジメは、ハンドルを切る。

『アタシが行った時でも、
もう 荒れ果てた建物だったし、
ゲッセマネの園も、
笹とか木が 覆ってきてたけど、
目印があるから、わかるはず。』

行ける所まで、
車を走らせて、道がなくなれば
車から 降りるつもりだ。

「しかしねぇ、副女さんは
どうして ここに来たんだろう」

先に、
会計女にシャワーを 譲って
待ちながら、
ハジメのゲストに レンタル
する水着を 借りると、
選らぶ 副女。

『それにしても、どうして
ハジメさんは、ゲッセマネに
行くの?もう 誰もいないし、
サナトリウムも 廃墟だよ。』

ハジメは、その時の
副女の目を 思い出して
笑う。

「そんなの!!自分はどうなのさ
ってさ。言えなかったねぇ。」

この僕がさぁ。

道が途切れる頃、
目の前には 家が 出てきた。
どうやら、
今は留守のようだと、
ハジメは 車を停めた。

頭の中に、
航空地図の画面を 拡大
展開して、
家とは 反対を 伺う。

更に細い 畝の奥。
目星をつけていた辺りに
建物らしいモノが
見えた。

かつて、この島にあった
賢人がいた『サナトリウム』
というモノ。

ハジメのタレた目が 大きく
光る。

「どうしてぇ、僕は ここに来た
のかなんてぇ。僕にも、わから
ないなんてぇ、
あの人には 言えないなぁ。」

まずはぁ、
行ってみる。

「それからだよ。」