真っ白砂浜に、紺碧の海。
地中海のリゾート島にいるような
緩やかな 時間。
瀬戸内の海、島時間。

風も凪いで、
日差しも照らす。

プチ廃墟の テラスに、
放置されたままの ビーチチェア。
朽ち始めた ウッドテーブル。
千切れた リゾートパラソル。

砂浜に残された杭に、
ボロパラソルを指して
禿げビーチチェアと、ウッドデッキを
引っ張ってきた

副女と会計女が
リクライニングを倒したチェアに
寝転がっている。

ユキノジョウと、ユリヤは
壊れたシャワールームで
買ったばかりの 水着に
着替えたのだろう、

2人と 浮き輪で、
誰もいない、波に入って行った。

「ライトセーバーもいない
海 だけど、大丈夫かな。
やっぱり
ちゃんとしたビーチに
行かせれば良かったかもね。」

副女が、今更気がついた事を
呟いた。

「どっちにしても、今年は、
海開きしてない 浜ばっかり
なんだから、一緒じゃない?
それより、クラゲに気を付けてる
ように 言い忘れたわー! 」

会計女が、カラッと笑う。

2人の子供達は、寄り添って
波の動きに 遊んでいる。

「もう、お盆だからね。
クラゲ出てるか。頃合いみて、
声かけないと、さされたら
やっかいだわ。
こんな廃墟ビーチで 何もない」

副女は、海を見ながら
傍らの水筒を取り出す。

ユキノジョウの頭から、
水飛沫が上がって 波に消える。

浮き輪の ユリヤが
体を 沈ませると、波に向かって
バシャッバシャッしているから

ユキノジョウが
潜って、ユリヤの足を 引っ張った
のだろう。


「お盆も過ぎたら、もう夏休みも
すぐ終わるしねー。そしたら、
卒業なんて、あっという間ね?」

副女から 渡された、
水筒のハーブウォーターを
自分の プラコップに入れて、
会計女は 口にした。

「次の役員に、挨拶行かないとね
うちと、会長は 卒業なるからね」

次の中学も引き続き、下の役員
やるから
引き継ぎしないと、と副女が
ため息をつくと、

「もう、次の会長とかって、
決まってんだー。なら、純血統
から次は、役員選出されるね。
ちょうど、いいやー。」

何?1年休憩出来るって事?
ちゃんと、迎えに行くからと、
副女が 会計女を 見る。

「そう言えば、夏祭りで 初めて
会計女さんのご主人に
挨拶されたわよ?どういう、風の
吹き回し?今まで、Pには 寄り
付きもしなかったご主人がさ?」

副女が、
揶揄するように、会計女に
何気なく 放った。

会計女は、
一瞬、言葉を切っている。

ユキノジョウの頭が
浮き上がると、
波に揺れる
浮き輪のユリヤを、
浜に向かって 引っ張り 泳ぐのが

見える。
1度浜に戻るのか。
クラゲを言っておこう。

副女は、口の前に、両手で
拡声の形を とる。

「旦那とね、正式に離婚したの。
2学期から、旦那の彼女が 、
あの子達と住む事になるのー。」

クラゲ!っと言いかけた
副女が、
会計女の 言葉に、
声を 詰まらせる。

「・・・・」

「だからさ、これからは旦那も
積極的にPに参加すると 思う。
アタシの代わりに、2学期からは
彼女を ヨロシクって意味よ。」

「・・」

「そんな訳だから、子供達の事
よろしくね。あと、今まで 、」

会計女が そういって 隣の
副女に 頭を下げようとして、

「会計女さん。何?子供達も
Pの仕事も、そのまま 次の
彼女さんに スライドするから、
ヨロシクって、意味なの?」

冷ややかな、副女の声に
遮られた。

「ねぇ、子供達は それ、
知ってるの?まだ言ってないよね
先に、子供達に まずは 話てよ。
会計女さんに、子供達だって、
付いていきたいに 決まってる」

何で、先に 私に言うかなー。
副女が、やれやれと
頼むよと セリフにした。

「この旅行が、終わったら
ちゃんと、ご主人も 交えて
1度話し合いは した方が いい
別れるにしても、子供達と」

副女は、浜に上がってきた
ユキノジョウと、ユリヤに

「ごめん、お盆だから クラゲいる
だろうし、波の流れにも
気を付けてよ。ユキノジョウくん
スイミングで 泳ぎかなり出来る
だろうけど。ユリヤ気を付けて」

ハーブウォーターを、
渡しながら 注意する。

ユキノジョウは、水中めがねを
頭にあげて、
プラコップを、後ろのユリヤに
渡した。

「さきいってよ!クラゲいる!」

やっぱりかー。ごめんねー。
副女が、もう1つプラコップを
ユキノジョウに渡した。

波に濡れて、
子供達の髪から キラキラ
雫が 落ちている。

「あれさ、あのサンバシって、
ユリと見に行っていい?!」

ユキノジョウと、ユリヤが
コップを 禿げウッドテーブルに
戻して そのまま 向かう。

「ユキノジョウ!ビーサン履きな
足、焦げるから!」

会計女が、
裸足で 走り出した ユキノジョウを
引き留めた。

「ユキくん、ビーサン、テラス」

ユリヤは、
ユキノジョウに テラスの荷物に
ビーチサンダルが
入ったままなのを 指さした。

子供達は、
熱くなり始めた 砂浜を
裸足で 渡って
廃墟テラスを 目指して
また 消える。

子供達が
離れるのを 見送り 会計女が
口を開いた。

「けっこう長い付き合いやのに
初めてよねー、こんな風に旅行。
ちょうど、良かったよ。
ユキノジョウも、アコも、
いい 思い出になると 思うし。」

会計女の言葉に、

「まあ、いつもならこの季節、
夏休みでも 忙しいもんね。
本当ならさ、
次の委員長さんとか、役員の
補充に、声かけとか、根回しに
フル回転だしね。
今年みたい
に、次の会長が決まってると、
次期会長が、組織固めするから。
お盆が休みなんて、
もう、何年ぶりかしらよね。」

ユキノジョウと、ユリヤが
連れだって
サンダルを履いて、
朽ち始めた 桟橋へ
走っていくのが見える。

沖には、ヨットが見えてきた。
もしかしたら、
このビーチが 閉鎖ビーチだと
知らないのかもしれない。

副女は、ふと
沖のヨットを 確認して思う。

「ねぇ、桟橋、行っといた方が」

船から 人が降りてくれば、
子供達も ややこしいだろう。

会計女に副女が 提案しようと
腰を 上げた。

すると 会計女は、
チラリと、海側を見る。

そして、悪戯顔で

「ごめんねー。アタシ、今日で
あの子達の母親やめる。彼氏の
両親に挨拶して、すぐ結婚する」

立ち上がった副女に
座ったまま 会計女が、そう
軽やかに 言い放つと

『バシャッ』

会計女の 顔に
容赦なく ハーブウォーターが
浴びせられた。

副女の震える手 には
空になった 水筒が
ぶら下がる。

ヨットの姿は どんどん 桟橋に
近寄っていた。