私が
副女に なった日。

『とうとう、号数が住所につくような 家が 会長、副会長になる時代になったのか。嘆かわしい。』

開口一番に放たれた
挨拶への 返事が、これだった。

いや、
それは こちらが 言いたい。
そんな本音を 飲み込んで
会長の 後ろで、
頭を 垂れるのみ。

そもそも、
このような状態が 真しやかに
行われている事実を、
普通と言われる
家庭の 人間は
知らないだろうが。

なんの因果か、
私みたいなモノが、
この PTA役員をやるのが、
非常事態なのだと

うちは、転勤族の主人が
借りてる マンション親だ。

目の前の 地域の重鎮達に
叫んでやりたい。
なんなら、
お宅達の親族が
本来なるべき役だろうが!

それを、やりたがらない
事に、なったのを
重く肝に命じろよ。


この国で1番大きな組織とは?

その間違いない1つは
PTAだろう。

しかも、生きた動脈を持つ組織だ。100%ボランティアでだ。
これは 驚くべき事じゃないか。

そして、
この力は 非常に見えにくい。
故に、一般なら やりたがらない。
普通なら。

にも関わらず、
『Pの家』という家がある。
代々役付きに入る家は、里子を
とってまで その役に持ち回りで
入ってくる。

私達の校区のように、
各県には Pの目からみて、
勢力の強い校区がある。

これは、セレブとか、政治的とか
純粋に マウントの天辺に
ある校区だけではない。

福祉区、裏商業区、歴史的差区、寺社区、公務区、外国区。

社会的な パワーバランスを担う
ような人が 集まりやすい区も
確固たる長の元で住み所ごと
統治されている。

『子供』という キーパーソンだけ
その世界は、横並びに連携
されるのだから、恐るべし。

ともすれば、
有名私立学校が 注目のされるが、
そんなグループ程度の組織に
なんの意味もない。

公立学校の組織は、
国内隅々まで連携されるのだから

『子供』の後ろには、
世界への扉が ある。
その『子供』の親は、あらゆる
親がいるのだ。
テレビ局の親?裁判官の親?
組の頭をしていたり、
刑期を過ごす親もいる。
開発をする親、原子力を動かす親、漁船を持つ親、戦闘機に乗る親。
ごく普通の親なら 五万といる。
それは大きな力を持つ。

貴方は、まだまだ この日本は
学力社会だというけど、
偏差値のない県だって あるのだ。

当たり前が、
じつは当たり前ではない。
『子供』がいれば、
必ずやらなくては いけない
PTA。
貴方は、まだ ほんの一面しか
しらない。

私は、普通の親だった この日、
女性副会長になった。

ちょうど、
全国で 学級崩壊が 社会現象に
なっていた。

我が1人娘が、小学校に入学する
時、誰がそんな 憂き目に
あうと考える?

夏休みに入る頃、
見事に 学校の半分以上の
クラスが、
学級崩壊を 起こして、
娘のクラスも それになる。

あげく、
臨時教員に、
スクールハラスメント疑惑。

「あの、ユリヤちゃんと うちの
娘って、いつも 放課後 先生に
呼ばれるって、知ってます?」

プール当番で、
トイレに 立った私に、1人の
お母さんが 話かけてきた。

あの時に、声をかけてきた
お母さんと、
それから 毎日教室まで
ユリヤを迎えに行く事にした。

本当に忌々しい 出来事だ。

あの頃は、
私達だけじゃなかった。

放課後に、教室へ行けば
他の学年の保護者が、
録音機を片手に、
廊下に 潜んでいるのを
見かけて、驚いたものだ。

保護者と 学校の 信頼は
破綻していて、
そりゃ 学級崩壊するだろう。

毎日学校へ 迎えにいく。
そんな1年の終わりに、
今の会長に 声を 掛けられた。
全然、知り合いじゃなかった。


悩んだが、
PTA役員の了承をした。
そしたら、副会長だ。
せいぜい、書記か、監査だと
勝手に思っていたから。

私は、
副会長の話をされた時、
自分の兄の事情を
会長に 伝えた。

兄は、何度も刑務所に
入っているような 人間だ。
よりによって 薬の売人として。

そのせいで、結婚するまでは、
近所からも白い目を投げられ、
刑期を終えて 出て来ても
すぐに売人にもどる為、
刑事が 家を張り込むのも
普通だった。

早く家を出たかったから、
転勤族の主人と 出会ってすぐ
結婚で、ユリヤが 小学校に
なるまで、全国を転々とした。

この学校は 地元ではないけど、
同じ県。
どんな風かして、
知れてしまうか わからないと、
伝えた。

会長は、兄の名前を 知っていた。
驚いていたが、
それでもと、副会長に
名前を連ねる事を、お願いされた

それからは、
PTAの本丸たる世界を
見せられ、驚きの2年だった。

会長は、地域の重鎮達からは、
非常事態時に、学校へ入れられる 危機回避専門の役員として
遣わされる人物だった。

今回は上手く、
外の子供を 認知したばかりで、
小学校へ 入れれるという
人としては どうか?
な タイミングで、会長派遣。

こうして、
県内一流校区に、
『Pの家』からどころか、
アウトサイダーな 人物が
役員組織を 作る事になり、
5年を過ぎる。

Pに入るにあたり、
会長からは、
「やるからには、日Pまで行く。
小学で、市P。中学で県Pで、
高校で日Pのつもりでな。」

お分かりか?
要するに 11年PTAコースだ。

会長を PTA外交に出す間は、
学校の内向きを守るのが
副会長だ。

特に女性副会長は
大奥と同じ。

保護者は、もちろん、
校長、教頭、教職員、管理員、保健員、給食員を 預り、多数の地域組織と円滑な 信頼を築く。

学校の中には、多数の派もあり、
敷地の管理も 派がある。

自分の学校だけでなく、
近隣と上下学年学校ともだ。

さらに、行事があり、行政も
絡む。
365日総動員で、
将棋をさすように 駒を 進める。

その先にあるのは?

学校の平和で、
住む町の 平和なのだ。

当たり前の平和を 維持する為。

一流校区が、一流校区である為
それが、地域重鎮の願いだが、
私みたいな 『普通』を
全うする為の人間には、

ユリヤが
今日も 平和に
学校生活を過ごせる

それだけだ。

そんな 3年目。
監査に声をかけたのが、
彼女だった。

私は基本、占いとか、信じない。
いや、兄のせいで
祈る事さえ 意味があるのか
と 思っていた人間だ。
兄の事で、結婚するまで
社会を ずっと呪っていた。

そんな 私が まっとうな
フリヲシテ
副女をしている。

その心の汚泥を、
会って初めての彼女が、
見事に 暴いたのだ。

「副女さんて、こんなに世を呪っ
ていたんですね。お兄さんで、
苦労したのは 分かります。
でも、必ず、人の思いは、
積もります。いつか、掃除して
下さいね。その方が未来がある」

彼女の言葉を、聞いた時

ストンと 肩から荷物が
落ちたような 感覚がした。

それまで、
何かあれば、兄の影に怯え
人に 心で 毒を吐く。
そのくせ、
出来た 副女の皮を 被り着る。
絶対、誰にも 明かした事ない
真の自分。

一目で、見抜いた彼女は
本当にスピリチュアルな
力のある 人間だと 確信した。

この駒は、
必要だ。

どうせ、この悪腹も 見抜かれて
いるなら、引き込もう。

彼女は、その日から
監査女になった。