『君のことがすきです!』

顔を 真っ赤に 染めて、
6年生カラーの名札を 付けた
シンギが 叫んでるのを、

いつも ユキノジョウは、
見ていた。

「ユリヤちゃんは、5年3ヶ月の
公開告白ですか。トータル何回に
なりますか?しかも
シンギくんは
そのまま 逃げるというお約束、」

そんなこと
階段の とちゅうで、
非常用の 何かを 数えてた
会計男さんが、いってたっけ。

「ハアー。」

セミ、うるさいなって、
この島にきて、
はじめて 思ったかも。

いつもならと、
ユキノジョウは ボンヤリ
思い出す。


『うわあー!!!!!!』

恥ずかしいの だと、
顔を両手で かくした シンギが、
やじ馬達の 壁をぬけて、

告白された ユリヤを
ほったらかして、
走りぬけて いくのが、
いつもの事。

「ハアー。」

暑いから なのか
思わず ゴクリって 息のんだ。


ユキノジョウは、
1人
さっきから 優しい黄色の 縁側。
実を 取った 枝が そのままの
レモンの木が 見える。

日影で、ため息を大きく つく。
ユキノジョウが かくした、
レモンの やぶけたヤツ

かくせてねーじゃん。

アレ、ちゃんと言わなきゃ
いけないんだろうか?
どの 大人に?

こわしたから、
ベンショーなのか?

いまごろ、なんだか セミの声が
うるさいって 思う。

もう1度、ユキノジョウは
大きく 息をついた。


『ユキ君。』

そう言った まま

ユリヤは 困ったみたいに 、
2つの レモンを かごに
おいて
行ってしまった。

いつもの 『公開告白』
ルールなら、
ユキノジョウが 叫んで
逃げて、ここから消える。
そしたら、

ユリヤが やじ馬達の
目を気にもしないで、
後から スタスタと 歩いて
来るんだ

さっきまで、告白されていた事が
嘘っぱちみたいに。

そうして、
体育館の上に 続く
階段を登るのが、
公開告白の ある時の 『いつも』だ。

体育館じゃなくて、受付か。

セミの声は 消えて、
夕方の まだ明るい太陽が
動いたのか
空気が ヒンヤリした。

レモンのホテルは
まだ 人もなくて
静かだった。

まるで、ユキノジョウと、
ユリヤしかいない世界。
と思っていた。

それで
母親達のもとに 帰った
ユリヤと 同じところに
もう1度 戻ろうと 思う。

ユキノジョウは、くるりと
回われ右をして、
受付にのある スタートに、
ゆっくりゆっくりと歩き始めた。


そうすると、前から
声をかけてくるのは
ハジメで、

こいつ、もしかして
知っているんだろうか?
と、ユキノジョウは
軽く にらむ。

「ユキノジョウくん~、
お帰りなさいだねん~。」

思ったより、受付で その声が
イヤミに ひびいた。

ユキノジョウは 受付の
ボランティアさんに、
ユリヤと 使った 音声ガイドを
出して わたす。

『ありがとうございました。』

お礼を、言われて アート体験完了
ダイニングテーブルに
ユリヤが 座ってるのは
なんとなく わかった。

まだ、さっき もらった
レモンサワーの香りが
残ってる。

立ったままの ユキノジョウに、
副女さんが

「ユキくん、今日も いろいろ
ありがとうね。」

ニッコリ お礼を 言ってきた。

また セミの声が
ミーンミーンとうるさいと、
ユキノジョウは 思う。

ほっといて くれよな。

つい、
思った 時

「わ!!仕事のスタッフがぁ~
いい加減に 戻ってこいってぇ
怒ってるよん!!怖い!!」

どうしよう!!と ハジメが
電話の表示に 気がついて、
さわぎ まくった。

「じゃあ、今度こそ お土産持って
スタッフさん達に、あやまる
しかないですよ?イケメンさん」

ユキノジョウの母親が、
ニッコリして、ハジメを
これは、いじめてるよなあ。

ユキノジョウは、大人達を
観察だ。

「はあぁん、やっぱり~。じゃあ
みかんパウンドケーキ焼いて
もらわないと~。今から お願い
するしかないよねん~。」

この ひとことに、
全員で 『はあ?』ってなる。

この人。
もしかして、、神戸で ゴネてた
あの 大人じゃないか?マジ?

「ハジメさん!パウンドケーキは
売り切れだって!ダメだよ。」

アコが ハジメに 大人対応をみせる
さすがに、起きたんだな 妹よ。

アコ、グッジョブ!
ユキノジョウは、
アコを見て 合図を 送っといた。

「え~。だって、島にスイーツ
他にまだ 残ってるかなぁ?
ほら~、カフェも テイクアウト
出来ないスイーツも 多いのに」

ハジメは、子どもみたいに、
このまま じゃ、怒られるよんと、
真っ青になる。

この人、大人じゃないなぁ。

そんな風に
まだ 立ったまま、ハジメを見てた ユキノジョウの服が
ひっぱられた。

「ユキくん、あのチラシ。」

ユリヤが いつの間にか
となりにいて、
指で 四角の形を 作る。

「あ!ハジメさん。オープンカー
乗せてもらったから、
これ あげるよ。ここ 行ってよ」

そう言って
ポケットに しまってた
チラシを テーブルに 広げた。

島のキッチンで、
『まくわうり』のおばあちゃんに
近くのアートを 書いてもらった
地図のチラシだ。

レモンのホテルに 戻って
ユキノジョウ達で、
他に 行けないか 相談して
裏を 見ていたのを、
ユリヤは 覚えて いたんだろう。

そこには、

『夕方 ミサ。教会には、牧師さま
お手製のケーキが たくさん。
カフェだけでも、気軽に 来て』

の 文字が 並んでる。

ハジメの目が キラキラと開いた。
そして、
何故か
副女さんを 見ている?

その視線を 受けて、
副女さんは、カバンをガサゴソ
し始めて、

「これ、持って いきなよ。
持ち帰りの 入れ物が あるか
わからない でしょ?ほら。」

ハジメの前に、
昼の お弁当の容器。
キレイに 消毒。
洗って、水気も ふいた
その時の 容器を 2つ出したのだ。

さすがだ、
子供会とかでも、お祭りには
段ボールの お盆を 作って、
屋台のテントに 並んだりする。

こーゆーとこでは、
ゴミを 出さないよう、
使えるものは リサイクルなのだ。

ユキノジョウは、
やっぱり 副女さんは、
食えない 大人だと 感心する。

ハジメも、それを 喜んで
手にしている。

と、
いきなり ハジメが、

「副女さん~。
幻のグリーンチャペルの話ぃ
もしかしてぇ何か知ってる?」

ユキノジョウ達には
ちんぷんかんぷんな セリフを
言ってきた。

何言ってんだ?

そんな
よくわからない ハジメの
言葉に、副女さんが

テーブルに 広げられた
シワシワのチラシを
指で コツコツしながら、

「島の『ゲッセマネの園』って、
ここで 聞いたら
いいんじゃない かしら?」

と ハジメを まっすぐ
見つめて 答えてる。

「あたしも、探してたの」

副女さんが言うと、
ユキノジョウは 思い出した。

そういえば
ハジメは、言っていたのだ。

『到着~。ピンポンピンポン♪!

さすがぁ、副女さん~。
ど~ゆ~つもりでぇ、
この島に
来たんだろうねぇ?
ねぇ~ 君たちの 大人はさぁ?』

あの時のは、
こーゆー事 だったのか。

副女さんの 言葉で、
また 大きく開いた
ハジメの タレた目を
ユキノジョウは 見つけた。