さっきまで、芸術祭で
島を回っている お客さんや、
来賓さんとか、ヘルプの
ボランティアリーダーさんとか、
ワチャワチャ居てた。

今は ここのお手伝いさん、
子ども会、青年会、保存会さん
ユキノジョウ達ボランティアと、
ここのボランティアリーダーさん

だけが、残って 作業を
終わらせてる。

『お疲れ様でしたー!
ボランティアの皆さん!
よければ地元の方が
お疲れ様会で、食事を公民館に
用意して下さってますので、
ぜひ食べて行ってくださーい!』

ボランティアリーダーさんの、
言葉に、大人の男の人達は、

おおー!!って、声をあげている。

「ユキノジョウ。大人はすぐ
公民館行くけど、オレらは
ちょっと
舞台ん裏、見てく。
ユキノジョウも来るだろ?」

ユキノジョウの肩を、後ろから
チョイチョイと呼んで、カイトが
舞台の脇へ消えた。

一瞬、副女さんや 母親の顔を
見て、舞台を指さすと、向こうも
うなずいた。言いたいことが、
わかったんだろう。

女子達といた、ユリヤの肩を
たたいて、舞台を指さすと、
やっぱり うなずいた。

『この紐を引っ張ると、
幕が降りて 場面が変わる。
どんどん、場面が来たら、
降ろす感じな。』

ユキノジョウ達が、カイト達に
合流すると、舞台の 説明を、
お兄さんが している。

『こっちの紐をゆらして、
雪とか紙吹雪の籠を動かす。
紐を引っ張るだけで、操作
できるようにしてるんな。』

舞台のそでは、ユキノジョウが
思うより広くて 驚いた。


「あの 兄さんなあ、
別んとこの人やったけど、
ボランティアでここの歌舞伎
やるようになって、そのまま
住むようになったんやぞ。」

カイトが、ユキノジョウの耳に
小さい声で 教えたけど、どうやら お兄さんには、聞こえたらしい。

『なに?カイト。お、新しい
ボランティアの子かぁー。
そう、俺は、もともと
地元の人間じゃないな。』

ちなみに、
ユキノジョウとユリヤ以外は、
ここの子ども会の子達だ。

だから、お兄さんが、
ユキノジョウ達に
声をかけてくるから、思い切って
聞いてみる。

「ここの舞台を やりたいから、
引っ越してきたんですか?」

お兄さんは、ユキノジョウを見て

『君、今日、シラサギ動かし
てた子やね。どうやった?
歌舞伎、面白かった?』

と、反対に聞いてくる。
それは、反則だぞ。
ユキノジョウは、少し考えて
ユリヤも見て

「よく、わからないです。歌舞伎も初めて見ました。カイトが出てるし、お手伝いもしたから、
オモロかったんだと思います。」

正直に言った。
ちょっと カッコ悪いけど。
仕方ない。

『それって、いつもと 違う自分や、いつもと違う世界に 何か発見があったような気がして、
ちょっとびっくりしてる?』

そーくるのか?
うーん。まあ、
そんな気がするから、
ユキノジョウは うなずいた。
でも、そうなのかな?ぐらいだぞ。

『少年時代の夏休やなぁ!!
良かった。手伝ってもらった
カイが あったなあ。
なあ、カイト。』

そう、お兄さんが カイトの頭を
なでると、カイトは よく
分からないって顔を している。
だよなー?

『あとは、奈落に降りて、
回り舞台の底を見て行って
くれるか。
みんな 身長伸びてるな、
回し棒に手が掛かるか、見とき。』

ウオーイって、男子と女子は
下へ降りて行く。
そうして、
お兄さんが ユキノジョウ達を、
ここ!って、
舞台の 真ん中に 呼んで
ドカッと座る。

『俺な、東京の小さい
劇団で役者してたんよ。』

舞台の真ん中から まっすぐ前を
見ると、神様の場所が見える。
夏だから、7時になっても
まだ明るい。

『君らと同じようにボランティアで、ここの農村歌舞伎を手伝って、そのうち舞台に出るような、
ボランティアをして。最初は、
役者の経験になれば
ぐらいでお手伝いしてたなぁ。』

お兄さんは、舞台に手を ついて、
舞台から 投げ出した足を、
ブラブラさせた。

ユキノジョウ達に話すという
より、独り言みたいに。

「東京から、島に引っ越す
のって、勇気いりませんか?」

めずらしく ユリヤが口を開いた。
しかも、引っ越すとかいう。
どういうつもりだ。


『勇気?!いった!凄くいった!
でも島にきた。へんだろ?
仕事でもないのに、島で 歌舞伎をする 為に こっちに住むなんて?』

大人達はもう、
公民館に 行ってて、
ナラクから聞こえてた
子ども達の声も

今は消えていた。

『それでも この舞台に1回立つと
思ったんよ。ずっと自分が
役者する為にバイトして、役者を
やりたい自分が 生きる意味
全部やった。でも、ここに立つ
のは 神さんに 見せる為なんよな』

涼しくなると、
虫の声が 聞こえる。
ふと、ユキノジョウは
お兄さんの声を聞きながら
思う。


『神さんと、自分。それだけに
なる。凄い 生かされてるって、
満たされるんな。あんまり、
わからんかもやけど、大人に
なって 俺の言葉、
思い出してくれたら いいよ。』

お兄さんは、そう言って笑う。
ユキノジョウは まじまじと
笑う お兄さんの 顔を 見つめた。

お兄さんの首には
まだ 姫さんの白粉が残っていて、

隣に座る
ユリヤの首は
いつもなら 赤くなるのに、
めずらしく ふつうに、

日に焼けていた。

大人になれば、
お兄さんの 言葉がわかるのか。

ユキノジョウは

まだまだ、自分の気持ちとか
思う事が、言葉にならない。
大人に なれて ないからかー。


『ユキノジョウー、
そろそろバスに乗るって!』

ユキノジョウの母親の声が聞こえて、アコが舞台に顔を出した。

「お兄ちゃん、時間だよ。」