『君のことがすきです!』


今日も、顔を真っ赤に染めて、
6年生カラーの名札を 付けた男子が
叫んでいるのが 奥に見えるし。

『うん。』

そして、今日も クールに 笑顔で
答えるであろう 女子は、やっぱり
6年生カラーの名札を 付けている
のも 分かっているし。

体育館の裏とは言え、道路に 面しているサクごしには、 けっこうな数の生徒の顔がのぞいているし。

『これが、うわさのシンギ君の
放課後🖤 告白かあ?!』

『うちの子が 言ってたけど、
本当なのね!』

『1年からでしょ?シンギ君の
根性がすごいけど、ユリヤちゃん
もすごいよね。』


と、全然周りに 聞こえる声で、
やじ馬?している『プール当番』の
お母さん達の 後ろ頭が
いくつも見えるし。

今日は、なんだか セミの声が
うるさい。


「ハアー。」

5年生のユキノジョウは、
体育館の裏が見える日影の位置で、
息を大きくついて 今日も
ユリヤを 待っている。

暑いから ランドセルを下ろして、
水筒のお茶をのんだ。

午前で 終業おわり。

だから、まだお茶が冷たいっ。

体育館の前には、
体育委員会の お母さん達が、
プール当番の机を 体育館から
出しているのに、
一部の お母さん達は、公開告白の
やじ馬だ。

『はあーい、じゃあ、とっとと、
終わらせましょー!!』

などと、言いながら 体育館に、
ワックスモップをかけている
『総合女委員長』が、
バレーボール部のお母さん達に
何か 言っているのが
開けた壁のドアから 見える。

バレーボール部の お母さん達も、
体育館の裏にも 開けた扉から、
公開告白 している様子を、
チラチラ 見ているし。

「ハアー。」

もう1度、ユキノジョウは
大きく 息をつく。

セミ、うるさいな。

今日が、とにかく何もかもが
ラストの日で、ようやく
小学校は 本格、夏休みに入る。

そして、ユキノジョウは
下に置いていた ランドセルを
背負う。そろそろ 時間だから。

『うわあー!!!!!!』

恥ずかしいの だと、
顔を両手で かくした 告白男子が、
やじ馬お母さん達の 壁をぬけて、
ユキノジョウの 横をも
走りぬけて いくのも、
いつもの事で。

それを 確認した ユキノジョウは、
くるりと 回われ右をして、
体育館の玄関に ゆっくりゆっくり
と歩き始める。
そうすると、後ろから 声をかけてくるのを ユキノジョウは、
知っている からだ。

「ユキ君。」

ユキノジョウが 後ろを向くと、
ユリヤが やじ馬お母さん達の
目を気にもしないで、
スタスタと 歩いて来る。
さっきまで、告白されていた事が

嘘っぱちみたいだ。

体育館の 玄関には、
プール当番の やじ馬 お母さん達を
呼びもどす『総合男委員長』が
ユリヤに、

「ユリヤちゃん、今日もお疲れ様。
2人は今日はプール組かい?」

と、ついでにユキノジョウにも
聞いてきた。
今日は、予備プール日。
休んだ生徒や、再テストの生徒が
プールに入る。

「ユリも、オレも 昨日でプール
終わりー。」

ビシッと、親指を立てて
ユキノジョウは 笑って見せた。

「お、そりゃそうか?!じゃあ、
祭までは上の部屋で宿題か。
宿題終わったら、運動場に
来てくれるか?!」

「ハーイ!!」

ユリヤは、ピョコっと会釈。
ユキノジョウは、返事をして
体育館玄関を 入った。

今度は 体育館で ワックスモップを
かけていた、お母さん達が

ユリヤを それとなく 見ている。

「ユリ、スリッパ。」

ユキノジョウは 玄関の 靴箱の
前で、靴を脱いだユリヤに、
スリッパを 出して ユリヤに渡す。

「ありがとう。」

ユリヤは いつもと 同じ様に、
ユキノジョウに 礼を言って、
渡された スリッパに替える。

そうすると ユキノジョウは
自分の靴と ユリヤの靴を
一気に持って、靴箱に 入れる。

セミの声は 消えて、
体育館の コンクリートが
空気を ヒンヤリさせる。

ユリヤは、ピョコっと
ユキノジョウに 頭を下げる。

そうして、2人は並んで
体育館の上に 続く階段を
登るのが、公開告白の ある時の
『いつも』だ。

体育館の 階段は いつも静かだ。
まるで、ユキノジョウと、
ユリヤしかいない世界。

と思っていたら、

「ユリヤちゃん、ユキノジョウ
くん、お帰りなさい。」

意外な階で 声が ひびいた。

階段を 2階に上がると、
体育館の 吹き抜け2階。

広い踊り場の、いつもは
開いてない アルミドア。
今日は そのドアが 開いていて、
そこから 声がひびく。

「会計男さん、そこ何ー?」

ユキノジョウは、開いている
アルミドアから 顔を出している、
1人の男性に 寄って行く。

その後ろにユリヤも続く。

「防災用の 倉庫ですよ。賞味期限
の近いモノを入れ換えしてます。
2人は初めてですか?
ああ、今年は いろいろ行事が
変更してるから ですね。いつも、
夏前に 入れ換えしますから。」

ユキノジョウと、ユリヤが中に
入ると、壁いっぱいに 段ボールが
置かれた 棚が並んでいる。

「ユリヤちゃんは、5年3ヶ月の
公開告白ですか。トータル何回に
なりますか?しかも シンギくんは
そのまま 逃げるというお約束、」

ユリヤが 困った様に 笑って、
段ボールを なでたから、
ユキノジョウが 代わりに
質問をする。

「これって、どんだけあるの?」

人の良い顔を、ユキノジョウに
返して 会計男さんは、

「児童の数です。学校は 地域の
避難所ですが、児童の数で、
いろんなモノを そろえてます。
だから、十分足りているわけでは
ありません。でも、場所もないですしね。今は、仕方ありません。」

そう言って 少し
『気にするような顔』を
しながらも、

「今日は 夜に祭ですから、宿題が
終わったら 2人とも運動場に
手伝いですね。ユキノジョウくん、
アコちゃんは どうしました?」

会計男さんは、1つの段ボールを
かかえて、ユキノジョウに聞いた。

「アコは、プール、再テスト。
じゃ、上に行きます!」

そう ユキノジョウは言って、
階段を 登ろうとして、ユリヤが
後に 続こうとする。

「じゃあ、ユリヤちゃん。この
リストを『副女さん』に、
持って行ってくれますか?」

ユリヤは、会計男から1枚の表を
もらった。ユリヤが、軽く表を
見る 横から、ユキノジョウも
見ると、ユリヤは ユキノジョウ
に、表を預ける。

そのまま 2人が、階段を 3階に
登れば 子供達の 声がしてきた。

「今日も ユリは、上の部屋で
宿題だよね?」

「うん。」

ユキノジョウが 聞くと、
いつもの様に ユリヤが返事を
するので、そのまま階段を登る。

学童のある 3階をぬけて、
コーヒーの香りが してくると 、
ようやく4階だ。

今日は、4階も人が多い。
図書委員の お母さん達の声が
聞こえるし、多目的室からも
声がする。

『多目的室1』の教室前をぬけて、『多目的室2』の向かいが
2人の 目的場所。

『PTA室』

職員室みたいな 部屋のドアを
ユキノジョウが 引くと、

「お帰りなさい。手を洗って消毒
したら、まず宿題、よろしく。」

副女会長の、ユリヤの母親が
机から2人を 迎える。

見れば、裏手の窓は 全開。
きっと、ユリヤが シンギに
恒例の 公開告白 される声も
聞こえてる。

ユキノジョウが、
『カリスマ』と言われる
副女会長を

『食えないオバサン』って
この人だなと 思って、
見つめていると、

「ユキくん、今日もありがとう。」

と、ニッコリ お礼を 言われた。

開けている 窓から、

また セミの声が

ミーンミーンとうるさいと、

ユキノジョウは 思った。