『君のことがすきです!』
今日も、顔を真っ赤に染めて、
6年生カラーの名札を 付けた男子が
叫んでいるのが 奥に見えるし。
『うん。』
そして、今日も クールに 笑顔で
答えるであろう 女子は、やっぱり
6年生カラーの名札を 付けている
のも 分かっているし。
体育館の裏とは言え、道路に 面しているサクごしには、 けっこうな数の生徒の顔がのぞいているし。
『これが、うわさのシンギ君の
放課後🖤 告白かあ?!』
『うちの子が 言ってたけど、
本当なのね!』
『1年からでしょ?シンギ君の
根性がすごいけど、ユリヤちゃん
もすごいよね。』
と、全然周りに 聞こえる声で、
やじ馬?している『プール当番』の
お母さん達の 後ろ頭が
いくつも見えるし。
今日は、なんだか セミの声が
うるさい。
「ハアー。」
5年生のユキノジョウは、
体育館の裏が見える日影の位置で、
息を大きくついて 今日も
ユリヤを 待っている。
暑いから ランドセルを下ろして、
水筒のお茶をのんだ。
午前で 終業おわり。
だから、まだお茶が冷たいっ。
体育館の前には、
体育委員会の お母さん達が、
プール当番の机を 体育館から
出しているのに、
一部の お母さん達は、公開告白の
やじ馬だ。
『はあーい、じゃあ、とっとと、
終わらせましょー!!』
などと、言いながら 体育館に、
ワックスモップをかけている
『総合女委員長』が、
バレーボール部のお母さん達に
何か 言っているのが
開けた壁のドアから 見える。
バレーボール部の お母さん達も、
体育館の裏にも 開けた扉から、
公開告白 している様子を、
チラチラ 見ているし。
「ハアー。」
もう1度、ユキノジョウは
大きく 息をつく。
セミ、うるさいな。
今日が、とにかく何もかもが
ラストの日で、ようやく
小学校は 本格、夏休みに入る。
そして、ユキノジョウは
下に置いていた ランドセルを
背負う。そろそろ 時間だから。
『うわあー!!!!!!』
恥ずかしいの だと、
顔を両手で かくした 告白男子が、
やじ馬お母さん達の 壁をぬけて、
ユキノジョウの 横をも
走りぬけて いくのも、
いつもの事で。
それを 確認した ユキノジョウは、
くるりと 回われ右をして、
体育館の玄関に ゆっくりゆっくり
と歩き始める。
そうすると、後ろから 声をかけてくるのを ユキノジョウは、
知っている からだ。
「ユキ君。」
ユキノジョウが 後ろを向くと、
ユリヤが やじ馬お母さん達の
目を気にもしないで、
スタスタと 歩いて来る。
さっきまで、告白されていた事が
嘘っぱちみたいだ。
体育館の 玄関には、
プール当番の やじ馬 お母さん達を
呼びもどす『総合男委員長』が
ユリヤに、
「ユリヤちゃん、今日もお疲れ様。
2人は今日はプール組かい?」
と、ついでにユキノジョウにも
聞いてきた。
今日は、予備プール日。
休んだ生徒や、再テストの生徒が
プールに入る。
「ユリも、オレも 昨日でプール
終わりー。」
ビシッと、親指を立てて
ユキノジョウは 笑って見せた。
「お、そりゃそうか?!じゃあ、
祭までは上の部屋で宿題か。
宿題終わったら、運動場に
来てくれるか?!」
「ハーイ!!」
ユリヤは、ピョコっと会釈。
ユキノジョウは、返事をして
体育館玄関を 入った。
今度は 体育館で ワックスモップを
かけていた、お母さん達が
ユリヤを それとなく 見ている。
「ユリ、スリッパ。」
ユキノジョウは 玄関の 靴箱の
前で、靴を脱いだユリヤに、
スリッパを 出して ユリヤに渡す。
「ありがとう。」
ユリヤは いつもと 同じ様に、
ユキノジョウに 礼を言って、
渡された スリッパに替える。
そうすると ユキノジョウは
自分の靴と ユリヤの靴を
一気に持って、靴箱に 入れる。
セミの声は 消えて、
体育館の コンクリートが
空気を ヒンヤリさせる。
ユリヤは、ピョコっと
ユキノジョウに 頭を下げる。
そうして、2人は並んで
体育館の上に 続く階段を
登るのが、公開告白の ある時の
『いつも』だ。
体育館の 階段は いつも静かだ。
まるで、ユキノジョウと、
ユリヤしかいない世界。
と思っていたら、
「ユリヤちゃん、ユキノジョウ
くん、お帰りなさい。」
意外な階で 声が ひびいた。
階段を 2階に上がると、
体育館の 吹き抜け2階。
広い踊り場の、いつもは
開いてない アルミドア。
今日は そのドアが 開いていて、
そこから 声がひびく。
「会計男さん、そこ何ー?」
ユキノジョウは、開いている
アルミドアから 顔を出している、
1人の男性に 寄って行く。
その後ろにユリヤも続く。
「防災用の 倉庫ですよ。賞味期限
の近いモノを入れ換えしてます。
2人は初めてですか?
ああ、今年は いろいろ行事が
変更してるから ですね。いつも、
夏前に 入れ換えしますから。」
ユキノジョウと、ユリヤが中に
入ると、壁いっぱいに 段ボールが
置かれた 棚が並んでいる。
「ユリヤちゃんは、5年3ヶ月の
公開告白ですか。トータル何回に
なりますか?しかも シンギくんは
そのまま 逃げるというお約束、」
ユリヤが 困った様に 笑って、
段ボールを なでたから、
ユキノジョウが 代わりに
質問をする。
「これって、どんだけあるの?」
人の良い顔を、ユキノジョウに
返して 会計男さんは、
「児童の数です。学校は 地域の
避難所ですが、児童の数で、
いろんなモノを そろえてます。
だから、十分足りているわけでは
ありません。でも、場所もないですしね。今は、仕方ありません。」
そう言って 少し
『気にするような顔』を
しながらも、
「今日は 夜に祭ですから、宿題が
終わったら 2人とも運動場に
手伝いですね。ユキノジョウくん、
アコちゃんは どうしました?」
会計男さんは、1つの段ボールを
かかえて、ユキノジョウに聞いた。
「アコは、プール、再テスト。
じゃ、上に行きます!」
そう ユキノジョウは言って、
階段を 登ろうとして、ユリヤが
後に 続こうとする。
「じゃあ、ユリヤちゃん。この
リストを『副女さん』に、
持って行ってくれますか?」
ユリヤは、会計男から1枚の表を
もらった。ユリヤが、軽く表を
見る 横から、ユキノジョウも
見ると、ユリヤは ユキノジョウ
に、表を預ける。
そのまま 2人が、階段を 3階に
登れば 子供達の 声がしてきた。
「今日も ユリは、上の部屋で
宿題だよね?」
「うん。」
ユキノジョウが 聞くと、
いつもの様に ユリヤが返事を
するので、そのまま階段を登る。
学童のある 3階をぬけて、
コーヒーの香りが してくると 、
ようやく4階だ。
今日は、4階も人が多い。
図書委員の お母さん達の声が
聞こえるし、多目的室からも
声がする。
『多目的室1』の教室前をぬけて、『多目的室2』の向かいが
2人の 目的場所。
『PTA室』
職員室みたいな 部屋のドアを
ユキノジョウが 引くと、
「お帰りなさい。手を洗って消毒
したら、まず宿題、よろしく。」
副女会長の、ユリヤの母親が
机から2人を 迎える。
見れば、裏手の窓は 全開。
きっと、ユリヤが シンギに
恒例の 公開告白 される声も
聞こえてる。
ユキノジョウが、
『カリスマ』と言われる
副女会長を
『食えないオバサン』って
この人だなと 思って、
見つめていると、
「ユキくん、今日もありがとう。」
と、ニッコリ お礼を 言われた。
開けている 窓から、
また セミの声が
ミーンミーンとうるさいと、
ユキノジョウは 思った。
★作者、さいけ みか です。
前回の『喪主する君~』から
はじまる《旅すれば恋はある》
本編season2夏作品。
↓
『夏休みは境界~公開告白される君と3日間の旅』を読み初めて
下さり、ありがとうございます。
日本の風景を四季を織り交ぜ
恋愛と旅をテーマに seasonを
1春、2夏、3秋、4冬 として
作品を投稿。season本編後に、短編を入れて、1年執筆を 目標にしてます。
今回は、
60話完結予定。
10話ごとに、
サイドストーリーを書く予定です。
これまでのキャラクター、
ハジメも
少しずつ登場。
シオンとヨミも少し。
(レンとルイ、カスガはお休み)
なので、
前短編「喪主する君と青い春」を読むと わかる キャラクターも
今後出てくるので、
今回作品からの方様は、
よろしければそちらも
是非とも。
今回も、夏の瀬戸内海は、
小豆島、豊島の風景が
伝わるといいなあと、
思ってます。
毎度 私の旅体験を軸に
恋愛に、歴史、モノの話を
再びと 思ってます。
では、今回も 自分の挑戦も
しつつ、読者さまと共に、
格闘しつつ またスタートです。
では、宜しくお願いします。
部屋の入口 横には、
小さな 洗面台があるから、
ユキノジョウと ユリヤは
手を まず洗う。
「ユキ君、ハンカチいる?」
先に 洗い 終わって、
手を ブラブラしている
ユキノジョウに、ユリヤが
ポケットから ハンカチを 渡した。
「いるー。ありがとう。」
春に入る前に、 新型ウイルスが
大流行してから、特に除菌が
言われるように なった。
体験した事のない 新型ウイルス
出現で、日本中で 会社や学校が
休みになったからだ。
ユキノジョウは、ユリヤに
ハンカチを返して、除菌の薬を
ぐりぐり 手にもみこんだ。
『副女さん、コーヒー出来ました。』
図書委員のお母さんが、
コーヒーカップと フレッシュと
シュガーを盆にのせて、
ユキノジョウの前を 通りすぎる。
「ありがとうございます。
よければ、会計男さんの手土産、
みなさんも食べてください。」
『キャー!ここのバターサンド、
可愛いやんね!雑誌よく出てる
とこやん。』
『プール当番より、役得ー』
出されたスイーツ箱に、
わらわらと 図書委員のお母さん達
が集まって、色とりどりの カラー
シールの丸いサンドを見比べ始めた。
「2人のは、こっちの 箱から
どうぞ。宿題 し ながらで。」
もう1つ出された 箱にも、
バターサンドが 20個入っていて、
パッケージは 外国のチーズ
みたいだ。うまそう。
「会計男さん、いつも手土産持って
来てくれるし、どれも うまいし、
なんか、オシャレな。
ユリ、それ 半分 替っこして。」
ユキノジョウは、早速
チョコオレンジ味のアルミを
外して、真ん中で割る。
「チョコカシス味だよ。」
と、ユリヤも 手にしたサンドを
割って、ユキノジョウに
半分渡した。
モグモグさせながら、
2人は 長机の島の1つに
ランドセルを 広げ、宿題を する。
部屋の 後ろは 1面本棚に
なっていて、寄贈の 本が並ぶ。
それを 使って、PTA図書 として
開いている。
学校の 図書室と ちがって、
大人なタイトルが 並んでいるし、
映像も並んでいる。
予算内で、リクエストした
タイトルが 毎月 増えるから、
図書解放は いつも 大人気だ。
そして、今日は運動場で
子供会がする夏祭りに、
レンタルする 浴衣もあって、
部屋は いつもより カラフル。
『あー、もう 本当 今日から
夏休み。お昼 ご飯、どうしよ。』
『本当!今日は、夜ごはんは、
祭で 食べとって 言っといたわ。
子供会で 屋台 あるし。』
『あそこん とこ、
フランクフルトやるん?』
『あ、これ。貸してくれる浴衣!』
図書解放 も、お母さん達の
しゃべり会な だけどな。
ユキノジョウは、となりの
ユリヤを ソッと わからないよう
にして 見てる。
まだ、モグモグしとんな。
「多かったら、おいとったら?」
「うん。美味しい。」
ユリヤは、頭がいい。
6年 だから、きっと 学校で
1番頭がいい。
運動は 苦手。でも、努力する。
食べるのも 早くない。←それが、
多く かむから、頭が いい事になる
らしいって、会計男さんは言う。
会計男さんは、弁護士だから、
オレは 信用できる。
ついでに言うと、
奥さんは 検事で、怒ると、
ピアノをめちゃくちゃひく。
こわい。 ドラマみたい。
あと ユリヤは、色が白い。
いやされる。だから、
モテルはず。
あ、サンド 飲みこんだな。
でも、ユリヤは 1年生の時から、
同学の シンギに 毎週、告白されて
きたから、他の男子はユリヤには
あまり、しゃべらないから、
ほんとのとこ、わからない。
『ガラガラガラ~』
『図書の本返しまーす。』
開いたドアから、またお母さん達と、けっこう 子供達が 入ってきた。
それに、
「暑っつー。夏場の階段、4階は
きっつー。副女さん!管理職さん、
教職員さん、用務員さん、
給食調理師さん、学童の 先生に、
挨拶品は 渡しましたー。あ、
これ 保健の 先生から。」
大きく 開いた ドアの最後に、
入ってきたのは、事務さん。
この ベリーショートの 熟女は
学校の 生き字引?だ。
昔は、ゴリゴリ ヤンキーだって。
出した 手には紙袋を さげている。
それを、開けつつ 聞くのは
ユリヤの母親、副女さん。
「ありがとうございます。
して、下は 問題なく?」
ユリヤの母、副女さんは
事務さんを、『オンミツ』にして
いる。大切な 任務だ。
「問題 なしかな。言うても、
こんだけ 夏休みが 少ないのも、
祭が 今年は 1日なんも、
プール学習も ギリギリ、
サプライズ花火の噂もあるし、
もう!バタバタ やけどね!」
事務さんには、
副女さんが コーヒーを入れて
いつも 大事そうに 渡す。
このコーヒーも、京都の専門店。
これも、大事だとか。
香りが違うって。
オレでも わかる。だって、この
コーヒーの香りしたら、
部屋に 誰かいてる 合図だ。
「お疲れ様。あと、祭で使う、
挨拶品も 確認しました。さすが。
なんで、そろそろ、私も 浴衣に
着替えて、会長と1度合流します。
あ、事務さん、これ会計男さん
から 差し入れの バターサンド。」
高そうーと、言いながら
事務さんは 箱のサンドを
探っている。
ユキノジョウは 壁の時計を 見た。
もうすぐしたら、
役員が 集合する時間だ。
『ガラガラガラ~』
「お疲れ様 です。防災品の入れ
替え終わりましたよ。
あ!事務さん、差し入れ食べて
くれてますね。」
勝負スーツの上着を 片手に、
会計男さんは ユキノジョウと
ユリヤの 机島に 来て 座る。
「2人とも、ちゃんと宿題して
ますね。他の子達も 上がって
きます?差し入れ 足りるかな。」
事務さんが、コーヒーとバター
サンドを 会計男さんの 前に
コトリと 置く。
『会計男さんー、バターサンド
美味しく頂いてますー。』
後ろの 図書委員さん達が
声を かけてきた。イケオジ
会計男さん、今日も 人気だ。
会計男さんも、
『どーいたし まして。』
と手を 振っている。
ユキノジョウは、事務さんが
言った『花火』が 気になって
いたから、向かいに 座る
会計男さん に聞く。
「花火って あるの?」
「自粛で出来なかった 花火大会の
花火を上げる、『サプライズ花火』
は場所も時間もわかりませんよ。」
会計男さんは、自分が差し入れた、
ラムフルーツサンドを
食べてながら、ユキノジョウに
答えてくれた。
「ユリヤも、ユキノジョウくんも
宿題 できたら、上がってくる
アコちゃんと 浴衣着付け
するから、よろしく。」
そう言うと、副女さんは 浴衣を
手にして 今度は、更衣室に 消えた。
今から 浴衣を 着付けるんだろう。
『ガラガラガラ~』
また ドアが開いて、入ってきたのは、
浴衣姿の 5年男子 トウヤと、
母親の 会計女さん。
それと、
浴衣姿の 6年女子 アゲハと
弟4年 ツバサ、
母親の 総合女委員←総女さん。
体育館で ワックスモップの 指示
してた人だ。
ここらじゃ『油引き』って、
言うけど。
トウヤ、アゲハ、ツバサは
当然の 様に ユキノジョウと、
ユリヤの 机島にやって来た。
トウヤが、
「ユキノジョウ、祭あんのに、
宿題かよ!まだ 浴衣着ない のか?」
いっちょまえに 腕を組んで、
からむんだよ、こいつ。
ユキノジョウは、背が低いし、
お母さん達に 言われるのは、
アイドル 可愛い顔で、うれしくない。
トウヤは、背が高くて、
つり目のカッコいい顔。
で同学に、彼女いる。
「もう着替えるって。て、トウヤなんで、折りたたみイス持ってるん?」
トウヤの組んだ 腕のわきに、
小さな イスが見えた。
「オレ、花火組~。彼女にイス
持って行けって、母さんが うるさい。ユキノジョウ知ってるか?!中突堤で サプライズ花火、あるってよ!」
ムカつく。
そうなんだ、トウヤは彼女、
アゲハも 彼氏がいる。
うちの学校は カップル率が 高い。
それもあの、公開告白をする
シンギのせいだと
ユキノジョウは 思っている。
なんなんだ。
アゲハと 弟のツバサは、
ユリヤに浴衣が 似合っている
かを、やたら 聞いていて、
困らせているし。
てか、ツバサも モテるくせに、
なんで 年上スキ なんだよ。
せっかく、2人の宿題を
ジャマするな だし。
もう、ごちゃごちゃしていて、
うるさいしなあと、
ユキノジョウが 思っていたら、
『ガラガラガラ~』
また、ドアが開いて、
「失礼します。会長さんは、
こちらですかな?」
そう言いながら 入ってきたのは
長身の男の人、市会議員さん。
ユキノジョウは イヤな顔をする。
市会議員さんは、シンギの父親で、
その後ろに シンギが浴衣で
立っているのが 見えたから。
今まで、シンギは ここに
上がって来た 事がない。
おまえ、何しに来たんだ。
ユキノジョウは、ユリヤを探す
シンギを ジッと 見つめる。
その市会議員さんの 声に、
ユリヤの母親、副女さんが
更衣室から
「足を運んで頂き、
有り難うございます。あいにく、
会長は まだ他校の 挨拶周りに
出てますので、
よろしければ後程 本部テント
まで挨拶に参らせます。」
と言いながら、
監査女さんと 現れた。浴衣だ。
部屋の 空気が変わる。
ユキノジョウの 考えすぎかも?
うちの学校で 委員をした
お母さん達は、『監査女さんの事』
を知っているからか?
事務さんが、市会議員さんに
コーヒーとサンドを出して、
すごく話かけている。
会計男さんや、他の役員さんも、
シンギの父親に 挨拶している。
ユキノジョウは 背中が寒い。
監査女さんは
市会議員さんの斜め上を 見ている
から。
それに、
副女さんが、監査女さんに
『どう?』
『そうですね。落ちる太陽ですか?』
監査女さんが、副女さんを見つめたのが、ユキノジョウにはわかる。
『それは、こちら?』
『夢の後、血の汗ですね、
心して下さい。』
その監査女さんの言葉に、
ユリヤの母親、副女さんは 一瞬
目を大きくして。
『とうとう。か。』
ユリヤの 母親、副女さんは
そう 小さい声で 言うと、
まちがいなく
ユキノジョウに、優しく 笑った。
『ドドンガドン♪~ドンドンガ』
小学校の 運動場である 『夏祭り』は、子ども会が仕切っているから、
屋台テントは 保護者が 交代で
やってる。
「コイン落としやりませんかー!」
ユキノジョウは、ユリヤとアコの
3人で 店番。
3人とも浴衣に着替えてる。
ユリヤの母、副女さんは
会長と本部テントや、
来賓への挨拶周りに行ったし。
役員は、自分の子ども会屋台の
手伝いにまずは行くし。
事務さんは、校長と教頭の
相手に出る。
店を守りながら、ユキノジョウは、
呼び込みの係をするのも
毎年のお約束。
『うお!今年も コイン落とし
あるぞ!4回する!』
コイン落としは 毎年人気なのだ。
4年の男子が、サイフを出す。
「コイン2枚20円だから、40円
でーす。むずかしい方にする?」
ユキノジョウの妹、
4年のアコがお金の係。
子ども会が祭を、 仕切るだけ
あって、どの 屋台テントも
値段が安い。
周辺の学校や公園、神社でも祭は
あるけど、うちの学校が1番安い。
『決まってっだろ。
むずかしい方 やる!』
4年男子が、張り切ってるなあ。
あれ?こいつ、アコのクラスの
男子か?
「4回出来るもんね。
がんばれー。」
アコが 4年男子を応援してる。
そーだ。こいつ、アコのクラスだ。
もう、見たことない生徒いるし。
他校生が 多くなってきたな。
ユキノジョウは、運動場をみる。
『あー!ダメか!』
社協さんや、テキヤさんが
屋台をすると、値段は こんなに
安くないから、
他の小学校からも 祭だけは、
学校をまたいで来るぐらいの
安さなのだ。
だけど、今年は多い。
「ザーンネン。あと3枚!
がんばれー」
ユリヤから、
コインを4枚 渡された男子は、
ブクブクが入った 水槽を横から
にらんで、コインを上から
ドンドン落とす。
『くそー!!ぜってー入れる。』
ブクブクに あおられて、
コインは目指す グラスから
またも外れて落ちた。
そんな中で、別の男子の声がする。
『おー、あったあった』
『ここのテントから 回るのが
ツウだよなー』
1人並び始めたら、
次の白線に 子ども達が並ぶ。
今回から、並ぶ地面に、
白線を引いた。近寄らないで、
並べるように。
「大人気!コイン落とし、
やりませんかー!!」
いつもPTAの屋台テントは、
『コイン落とし』。
残念賞は、駄菓子。
グラスにコインが入ると、
1枚タコセンと クイズが
渡される。
このクイズ宝探しが、
みんな目当てなのだ。
『屋台まわりながら、クイズ
やるのが、効率いいよな。』
うちの夏祭りの名物に
なっているクイズは、
ユリヤが作ったやつ。
1問解く答えが、
次のクイズがある場所。
夏祭りの 学校を
宝探しみたいに、クイズで回ると、
景品が早い者勝ちで
10人だけ もらえる。
お化け屋しきの 時間もあるから、
それまでに 半分まわるのが、
クリアの条件になる。
「おめでとーございまーす!!
タコセンと、宝探しクイズの
1問目でーす。」
最後で 4年男子は、
とうとう成功したみたいだ。
ユリヤが クイズの紙を渡した。
そしたら、後ろから浴衣姿の
監査女さんの声した。
「店番交代しますよー。
3人とも有り難うね。」
すると、
今 成功の景品になる
クイズの紙を手にした 4年男子が
アコに、それを見せて、誘った。
「監査女さんて、いい感じに
くるねー!じゃあ アタシ
行ってくるー。」
アコがサイフを持って、
さっきの4年男子と
一緒に出ていく。
遊びは、最高 50円まで。
食べ物は 高くても 300円まで。
野球部のお父さん達屋台が、
焼き鳥で1番高い300円。
くじ引きは、アイドル屋台が
1番高い300円。
『ドンドンガドン♪~ドドンガ』
「監査女さん。アコとさっきの
男子のこと、」
ユキノジョウは、ニコニコする
監査女さんに探りを入れてみる。
「ユキノジョウくんの助け
にもなるでしょ?」
監査女さんが、
コインを次の子に渡しながら、
目でユリヤを指した。
ユリヤは、アコの代わりに
お金の係を始めている。
「・・・」
ユキノジョウは、だまって
駄菓子を 目の前で残念がる、
子どもに 渡しつけた。
「それに、あんまり自分のとこ
の屋台いるのも疲れるんよ。
まあ、今年は 鼻血は出さなくて、
いいみたいやけどね。」
そう 運動場や、本部テントを
見て、監査女さんは肩をすかした。
でも そういいながらも、
監査女さんが、ユキノジョウの
斜め上を見ているのを、
ユキノジョウは見つけてしまう。
「何?」
「そろそろ お母さんくるな。
そしたら、アコちゃん捕まえて、
先に3人で屋台回っとけば?
花火も見るんならね。」
「花火、見れるん?!」
ユキノジョウの問いに、
監査女さんが、しまった顔を
して、次の女子にコインを渡す。
「ナイショやよ。」
口に指を立てて、シーっのポーズ
をされてしまった。
でも 相変わらず、たまに並ぶ
子どもの 斜め上を見ていて、
こわい。
『ドドンガドン♪~ドドンガ』
「おう、オカルト娘。今日は
鼻血出してへんかー?」
後ろから声がして、
見たら 事務さんだった。
事務さんは、ユリヤに 交代する
からと、ユキノジョウとユリヤに
たこ焼きをくれる。
まとめて10パックはある。
「ユリ、たこ焼き 食べようぜ。」
ユキノジョウは 除菌薬を手に
もんで、事務さんから渡された 、
たこ焼きの1パックを開ける。
そして、フタに半分だけ
たこ焼きを入れて、 割りばしと
一緒に、ユリヤに渡した。
「ユキ君、クラスの子と回るん?」
ユリヤが 半分っこの たこ焼きを、
モグモグして聞いてくる。
ユキノジョウは、
浴衣で モグモグしとるなあと、
見ながら
「そろそろ、母さん来るみたい
やからな、アコと先に回ってから
クラスのやつらと回る。
ユリは、クラスの女子が
迎えに来たら、回るんやろ。」
ユリヤは『うん』と、
うなずいて、
もう1つ たこ焼きをほおばる。
ユキノジョウもそうだけど、
ユリヤも 美味しいモノに
目がない。
母親が役員をするようになって、
挨拶周り品の あまったのや、
差し入れで、
確実に 美味しいモノセンサーが
スキルアップしているて思う。
『おう!やったやん。成功したから、タコセンと クイズな!』
『おめでとー』
『あそこ』に行けば、
珍しいモノがあると、
思われるのは 大事だと、
事務さんは いつも言ってる。
お手伝いの参加率になるとか。
いつもなら 他校地域の夏祭りが
日にちをずらしてあるから、
もっとたくさん 陣中見舞いの
品が 上の部屋には積まれる。
「ユキ君、クラスの子達きた
から、回ってくる。」
「ん。」
ユリヤは 同じ6年の 女子達の
後ろに、くっついて行った。
本当は、このテントにいて
くれると、
安心できるんだけどと、
ユキノジョウは思う。
今年は、ヤグラの下の
盆踊りの輪も大きい。
このあたりで、今年 夏祭りを
するのは、うちの学校ぐらいだ。
他校の やつらだと、
ユリヤとシンギの事を 知らない
から、へんなやつが 出てくる
かもしれない。
『ドドンガ♪~』
そういえば、子ども会が
仕切ってると、ウイルス対策とか、
厳しくなった
保健所のルールに合わせるのが
やりやすいからだと
会長も話てた。
「はー。ようやく休憩や。
これ、うちの焼き鳥、差し入れ。」
副男会長こと、
副男さんが 1番高い屋台の
焼き鳥を10パック持って
やってきた。
さっきまで、副男さんは
門にいてたはずだ。
今年から 門で 夜回り組が、
参加する人の体温を、
測るようにもなった。
もしも、他校からの参加が
多すぎるなら、規制すると
事務さんに、話ている。
『わあ、あんた、また鼻血出てる
やん。ちょっと、ユキノジョウ!
そこのティッシュの箱とって!』
事務さんの騒ぐ声で、
ユキノジョウは、
たこ焼きのパック横にあった、
ティッシュを持っていく。
「監査女さん、
後ろ座り。僕かわるわ。」
副男さんが、
コイン落としの係を引き継いて、
監査女さんにクーラーボックスの
保冷剤に タオルを まいた
やつを渡した。
「監査女さん、大丈夫?」
ユキノジョウが 心配で声を
かけると、監査女さんが、
鼻の血をティッシュで
ぬぐいながら、
「ありがとう。ユキノジョウくん、
お父さんて、彼女いるやろ?
今、その女人、来てるわ。」
監査女さんは、
保冷剤入り タオルを 頭にのせて、
ユキノジョウを 見つめる。
「彼女?仕事場でアシスタントしてるお姉さんやろ?お姉さんなら
知ってる。で、なんで来てるん?」
ユキノジョウは、最近
父親を車に乗せて来た、
女の人の事を 思い出して 答えた。
「たぶん、お母さんと話する
ため。ナイショな。」
ユキノジョウは、なんとなく
分かっている。
母親は5年になると、
父親と 別居を 始めたから。
「それで、鼻血出たん?」
「ちゃうよ。ちょっと意外な人の
子どもさんが、意外な人の子ども
やったから。びっくりして。」
監査女さんは、ゆっくり顔を
本部テントに向ける。
あそこには、お偉いさんや、
来賓がたくさんいて、
ユリヤの母、副女さんが
挨拶と接待の お手伝いを
している。
なんでも、演歌歌手さんが
有志で 音頭歌を 歌う、
といってた。
「監査女さん、なんか、
言ってる事が いつもよりへん。」
「意外な人が『フリン』して、
の子どもさんがいるって事で、
あまりわからんでいいよ。」
監査女さんは、
人が見えないモノが見える。
だから、隠し事ができない。
目の前に立てば、
校長だって、
議員だって関係ない。
「・・・うん。オレのとこも、
何か あるみたいやし、
わからんでいい。」
『残ねーん、はい、駄菓子ー』
副男さんの声がした。
『100万ドルの夜景に、
花火ー!!』
『疫病退散ーん!!』
祭の片付けでのこった、
保護者さん達が、体育館の屋上に
集まって
サプライズ花火を見ていた。
「すげー。ユリ!
大阪の花火も見える!」
「ほんと 見えるね。」
ユキノジョウも、
屋上に上がるのは初めてだし、
目の前に少し遠い
けど、サプライズ花火も
ちゃんと
見えるし、ユリヤもいてる。
体育館の屋上は、防災ヘリが
降りれるようになっている
けど、いつもは 入る事は
できない。
コアラみたい だと 人気がある、
副男さんが、お母さん達に
声を かけているのが
聞こえてくる。
『お疲れ様でしたー。いやぁ、
最後まで、片付け参加したかい、
あったでしょ?』
夜8時。
日本中で 5分だけ
打ち上げ場所はシークレットで
花火がいっせいに
打ち上げられた。
「淡路島の方も 花火上がって
ます?あー、もう終わりかあ。」
今日は、プール当番の後に祭と、
忙しくしていた
総合男委員長さんが、
片手をかざして 海を見る。
学校は 高台にあるから、
屋上に上がると、
夜景の街の向こうに
海と、島の明かりが見える。
「5分でも 十分ですよ。
お手伝いさん達に いい、
お礼が出来ました。」
そう、満足そうに ユリヤの母、
副女さんが 息をついていた。
体育館は 施設開放委員会の
持ち場だからと、
会長が 屋上を開けたのだ。
災害の時に、体育館を開ける
のが 会長でも ある。
きっと、どこかで
花火の話を聞いて 屋上から
花火見が出来ると、
ダシにしたんだろうと、
ユキノジョウは思った。
毎年 6時に屋台は終わって、
盆踊りも7時に終わる。
片付けが終わると 屋上から
花火が見れる。
これは、手伝うやろー!
「ISSなら、日本中で花火が
上がるのが見えてたかねー。」
事務さんが、夜空を見て言うと、
ユキノジョウが 聞き返す。
「ISS?」
答えてくれたのは、
監査男さんだ。
「国際宇宙ステーションだね。
もうすぐ廃止になるやつ。でも、
夜9時前に鹿児島の上空のはず
なんで、見えてないでしょ。」
「ほんと、あんた、
つまんないなあ。」
「いや、子どもに、間違った
情報を与えてはいけません。」
事務さんと、監査男さんの
いつものやり取りだ。
あれから、会計をしている、
ユキノジョウの母親が顔をだして、
アコとユリヤのところに
立っている。
「母さん、久しぶりに見たな。」
ユキノジョウと、アコを連れて
母親は、父親と別居をして、
仕事も始めた。
だからって、父親がいる家にも、
ユキノジョウとアコは
出入りしているのだが。
「お兄ちゃん!こっち!」
アコが、ユキノジョウを呼ぶ。
母親が、仕事で 遅くなる連絡が
あれば、父親の家に戻る。
もう 1週間は、父親の家に
ユキノジョウとアコは いてた。
『花火が終わったんでー 屋上を
閉めまーす。片付けも、
ありがとうございましたー。』
副男さんが、手を口に当てて、
お知らせをはじめる。
ユキノジョウはユリヤや、アコ、
そして母親の元へ行く。
「会計さん、仕事終わりに、
ありがとうね。」
ユリヤの母、副女さんが、
ユキノジョウの母に
声を掛けに きた。
「副女さん~。いつも仕事で手伝い
間にあわなくて ごめん!!、」
「ほんと、花火にはちゃっかり、
間に合うとこが さすがよね。」
屋上から
人がドンドン居なくなる。
屋上を副女さんが、
会長からあずかった鍵を
使っていた。
「ごめん!ごめん。でも、ようやく
アタシも盆休みもらった~。」
「うちも、この夏祭りで休み。
ユリヤと旅行だよ。」
副女さんは、ウレイそうに笑う。
それを聞いた、
ユキノジョウの母は、
「ねぇ、それ。うちのとこも
一緒に行かせてよ。」
「え?ほんき?今日 の
夜中から出るんだけど。」
「オッケー。大丈夫。行く行く。
ユキノジョウ!アコ!今日、
ユリヤちゃんと旅行に行くよー」
簡単に 母は ユリヤんとこと
旅行に行くことを
決めてしまった。
ギャラリストである、
『武久一』こと、ハジメは
自身が 企画する 夏の
クルーズギャラリー 開催の為、
夜の 神戸に バスルームに
ライムの香りを 泡立てて、
まだ いた。
「おやん?花火じゃないかぁ~」
ジャグジーに 浸かりながら
眼下の港 景色を 見ていると、
埠頭の あたりで、急に
青い花火が上がったのだ。
神戸港は。
世界初の 「AIターミナル」の
実現に向けて、
港湾 デジタル化に
取り組んで いる。
いわゆる 自働化や 遠隔操作と
いった『情報通信技術』による、
港湾の スマート化だ。
貨物を ビッグデータ管理。
AI解析で 動かして
コンテナ 置計画を 瞬時に
最適化させるという 国の政策。
今まで、渋滞していた
港湾物流の手続き、
貨物、車両、船舶を
1つの プラットフォーム上で
リアルタイムに データ連携する。
「あぁ、なんか サプライズ
花火ってやつかなあ~。
だって、全然人が集まって
なかったもん ねぇ。」
ジャグジーの淵に、両腕を掛けて
ハジメは、嬉しげタレ目の瞳に、
青い花火を 映す。
港に上がる 噴水のような青い花。
「そうかぁ、始めは 豪華客船からだったなあ。自粛 騒動とかぁ。」
複雑で多用になる 物流と、
少なくなる 人口。
『港湾の進化』がなければ、
輸出入によって もたらされる
この先もある 生活ベースの
安泰はあり得ないだろう。
港は、モノと ヒトと、
エネルギーの 集まる場所だ。
神戸港。
島国、日本の貿易の 出入り口。
山側の窓 からは
100万ドルの夜景が 広がり、
ジャグジーは 海側の窓。
ひととき サプライズ花火
なるものが 咲くのを 楽しむ。
「あ~、もう花火終わり~?
ほんのちょっと
見れただけだよん~」
ハジメは、ジャグジーから
上がって、頭からシャワーを
浴びて、ミラーを見て、ポーズ。
「あぁ、ジムいかなきゃ~」
毎年、この国における、
輸出の 金額ベースなら約70%、
重量ベース なら99.7%が
港湾を 通過して 国内に流れいく。
要するに船で、海外間の物流は
なされるわけだ。当たり前だが。
「まあ、周りを海に囲まれて
るんだからねぇ~」
ハジメは、シャワーで濡れた髪を
用意されていたタオルで 乾かす。
秋に両足骨折した足は、
ようやく、違和感がなくなった。
「でもっ、油断大敵~」
島国 日本には、
無数の港が あるが、
港湾法上で、『国際戦略港湾に
指定されている港は 5つだ。
神戸港は『スーパー中枢港湾』の
指定を 受けている港。
日本の 港湾は、
地形的に 埠頭の水深が
浅い。
「逆に、そのお陰で、
景勝ある大小の島が2000も、
あるわけ だけどねん。」
そう独り言を 言って、バスから、
バー カウンターに 裸で 出て、
ハジメは、セラーを開ける。
タワーの形をしたペットボトル。
KOBEウォーターを見つけ
キャップを開けた。
「すごいよねぇ、鼓形した
ポールアートが リアルな
タワー型だ。キラキラの
クリスタルボトルだよぉ~」
そうして、ハジメは
ペットボトルに 口を着けた。
水深14mより 深い埠頭整備で、
パナマ運河を いくような、
パナマックス船を、24時間稼働化
した拠点港に つけて、
内航コンテナ船で 地方港に輸送。
そういった、
ターミナルビジネスを拡大させて、
船社のコンテナ輸送・物流
戦略と連動した
ターミナルネットワーク化をする。
それによる
『メガターミナルオペレーター』
の出現をという構想が
この国には ある。
「たしか、神戸ウォーターって、
大航海時代からあったよねぇ?」
ハジメは、改めて
KOBEウォーターのボトルを
見つめる。
香港、シンガポール、アラブ、
オランダに
メガターミナルオペレーターが
存在するのみで、
未だ日本は 遅れている。
というより、
港湾の観点からいえば、
末端国なのだ。
かつて、
神戸港は世界トップクラスの
コンテナ港湾だったにも
かかわらず。
「世界の船乗りは、
『赤道を越えても腐らない、
奇跡の水』って、六甲山系
の水を詰めて、
帰りの船に 乗せたんだよね~。」
窓の外には、
観覧車の鮮やかな
イルミネーションが 見えた。
瀬戸内海、韓国・中国から
小型コンテナ船が 集められると、
今度は 北米・欧州方面の
大型 コンテナ母船に 積み
替える『トランシップ貨物』に
神戸港は かつてあった。
「荷物を下ろして、今度は水を
積んで、
また神戸から世界へとかあ。」
ハジメは、
タワー型のペットボトルを、
窓辺に置いて、電話で写真を撮る。と、今回の
クルーズギャラリーに連れて
来た、女社員2人に 送った。
神戸港が、
近隣港のコンテナターミナルの
拡充に押され はじめた頃、
阪神・淡路大震災に見舞われる。
またたく 間に、
韓国・釜山港が トランシップ港に
代わってしまった。
国際ハブ港湾 としての
神戸港の地位は失われた。
「震災から どれだけ
たったかなあ…」
であっても、
国内でのコンテナ保管は、
神戸は1、2位だ。
メガターミナルオペレーターに
よる 港湾経営、
スーパー中枢港湾政策港の
筆頭に なるべく
コンテナターミナルの
世界水準規模化を 目指している。
「地震にぃ、津波、、新型の
ウイルスかあ。未曾有の災害に、、
色んな事が 起こる時代だよぉ。」
まだ、世界には
AIを使って 港湾の
ターミナル運営を している国は
存在しない。
『AIターミナル』
これにより、日本の港湾は
世界一の能率性を 有する。
また エコ化の流れで、
RORO船舶という、自走コンテナ
による国内輸送の活用も
積極的に取り組まれている。
『ブーッブーッブーッ』
ハジメの電話が着信を告げ。
「ハイは~いぃ!って、あれぇ。
もう、そんな時間~?うん、
行くよ~。ホテルメイドに
来てもらうから 10分で
降りるよぉ。う~ん、
はい!切っちゃえ~!」
今度は 室内の 電話に
ハジメは手をかけて、コール。
『AIターミナル』
熟練技能者が 行っていた
作業のデータを デジタル化して、
次世代継承していく 意味もある。
港湾に関わる人間は
国民全体の ほんの1部だ。
「あ、武久で~す。悪いけど、
荷物まとめてくれるぅ?
10分でフロント降りたい
なあ。ごめんね。」
そうフロントに伝えると、
自分がいる スイートの部屋を
見回す。
部屋には、着替えや資料、
ハジメが滞在した日数分だけ、
荷物が 散乱している。
「さて、裸は不味いよねぇ~。」
ハジメは、鼻歌まじりで、
新しいスーツを取りに
クローゼットへ消える。
神戸港。
毎日使っている紙や、
今飲んでいるコーヒー1つも、
港を通って モノやエネルギーは
運ばれる。
港を通過する、私達の日常物資は
とてつもなく 多い。