フォンにとっては、予想のできない頼みだった。

「サポーターって……まさか、シャドウ・タイガー事件について?」
「あら、もう知ってるのね! だったら、話は早いわ」

 彼女は自負や自信に満ち溢れた表情をちっとも崩すことなく、右手で鎧越しに胸を強く叩きながら、白い歯を見せて言った。

「私はアンジェラ・ヴィンセント・バルバロッサ。ご存じだとは思うけど、ネリオス王都騎士団の王族直属部隊『王の剣』の一員よ。まあ、だからってハゲみたいにへりくだらずに、気軽にアンジーって呼んで頂戴」

 アンジェラの言うハゲとは、どう考えても彼女の隣で困り顔をしているウォンディを指しているのだろう。一方で彼は彼なりの考えがあるようで、アンジェラを制そうとする。

「あの、ハゲじゃなくて、ウォンディです」
 しかし、アンジェラは彼に振り向かず、返事もせずにフォンに話し続ける。
「それで、貴方達の予想通り、私はとある任務でこのギルディアに来たの。でも、こっちの地理や状況には疎いから、現地協力員を探してたのよ」
「あの、こっちから有能な人員を選定していますので……」
「ハゲは黙ってて。フォン、貴方は私のパートナーにうってつけよ。冒険者で地理の理があるし、我が強くなさそうだし……」

 言われるがまま黙ってしまったウォンディを置いて、アンジェラは囁くように言った。

「何より、貴方、今まで何人殺してるのかしら?」

 フォンは顔を上げ、アンジェラを見つめた。仲間にすら話していない、血塗られた過去を、今しがた出会ったばかりの彼女が読み取ったのだ。
 彼女の言葉は事実だ。自分の目を見て何かを読み取っていると知っていながら、フォンはどうしても彼女の顔を見ずにはいられなくなっていた。読心術などという言葉では表現しきれない、彼女が持ち得る力に、関心を抱いてしまったのだ。

「……どうして、そんなことを……?」

 彼女はもしや、忍者ではないか。
 そう思えるほどの眼力を橙色の瞳に宿したアンジェラから、彼は目が離せなかった。

「驚いてるけど、目に映ってるわよ、自分は殺人鬼だって。誰かが望めば躊躇いなく、何人殺しても心を痛めずにいられる。私が欲しいのは、そんな冷血なパートナーなの――」

 そんな状態なのだから、恐らく彼一人だったなら、流されてパートナーに選出されてしまっていただろう。自分の闇を見抜いた謎の女性に使われていただろう。

「――ちょっといいかな? 勝手に話を進められると、仲間のあたし達は困るんだけど」

 フォンを庇うように立った、彼の仲間達がいなければ。
 アンジェラがフォンに近づくのを許さないと言わんばかりに、クロエは席から立っていた。弓に手をかけていないが、皿の上のフォークで眼球を抉りかねない顔をしている。

「はっきり言うけど、失礼ってレベルじゃないよね。彼を勝手に殺し屋に仕立て上げるような、ぽっと出の女のパートナーなんて、あたし達は許さないから」

 怒りに満ちた目でアンジェラを睨んでいるのは、クロエだけではない。既にメイスに手をかけているサーシャも、牙を見せて唸っているカレンも、等しく謎の騎士がフォンに触れようものなら腕を叩き潰すと視線で告げていた。

「サーシャ、お前、嫌い」
「拙者の師匠に雑言を吐くと、痛い目を見るでござるよ」

 三人のフォンに対する庇護的感情を読み取ったのか、アンジェラはまたも笑う。ただし、これまでの笑みと違い、少しばかりの敵意を含んだ口元の吊り上がり方だ。

「パーティの仲間ってよりは、保護者ってところかしら? 随分と過剰反応するのね」
「過保護なくらいじゃないと、変な奴が寄って来るしね。行こう、フォン」

 これ以上奇人に構っていられないと言いたげに、クロエはフォンの手を引いて、パンケーキもそのままに案内所の外へと歩いていってしまった。

「あ、ちょっと、クロエ!?」

 フォンは乱暴にも思えるほどの態度に困惑しつつ、クロエにずるずると引きずられてゆく。残りの二人も彼女について行くのを、アンジェラは名残惜しそうに見つめていた。

「……行っちゃった。あーあ、私、結構あの子は気に入ってたのになー」

 口を尖らせるアンジェラに、ようやく話す機会が与えられたと思ったのか、ウォンディが前に躍り出て、身振り手振りを加えながらこちら側の事情を話しだした。

「ええとですね、アンジェラさん。さっきから言ってますけど、こっちで実績のあるパーティを一組呼んでありますので、そちらと組んでいただけたら……」

 ウォンディがそう言うと、自分達の出番を待っていたかのように、案内所の奥からぞろぞろと組合長お墨付きの面々がやって来る。

「実績のあるパーティって、もしかして彼らのことかしら?」

 訝しげな視線を向ける彼女とは真逆で、ウォンディの顔は鍛冶屋で最も鋭く強い剣と鎧を紹介するかのような語り口調で、アンジェラの前の五人組を紹介した。

「ええ、そうです。希少な職業、勇者に就いたクラーク達。通称勇者パーティです」

 一人を除いて自信に満ち溢れた顔を見せる、組合長が紹介するに相応しい雰囲気を醸し出すメンバー。彼らがギルディアで最も有能な面々、勇者パーティ。
 そして中央に仁王立ちする男こそ、パーティのリーダー、勇者クラークである。