「……クロエ、あれ、見える?」
「あれって……うん、見えるよ。弓使いは伊達じゃないからね」
フォンが指差した先を見て、クロエは頷いた。
遥か向こうの岩に、鳥が一羽、佇んでいる。フォンほど大きいそれは、嘴が異様に捻れている鷹で、鋭い目でこちらを確かに睨んでいた。
「相手もこっちを見てるね。ドリルホーク、螺旋状の嘴で獲物の肉を貫く魔物だ。殺気も感じるし、放っておいたら襲ってくるかもしれないね」
相手は間合いにはいないと、ドリルホークは踏んでいるのだろう。
こちらが隙を見せれば、向こうは飛んでくる。敵と判断して、良いだろう。フォンが眉間にしわを寄せている辺り、クロエは一応聞いてみるが、彼でも対処は難しそうだ。
「この距離から、あの魔物をやれる?」
「迎撃は出来るけど、この距離だとちょっと難しいかも」
「だったら、あたしの出番だね。見てて」
クロエはにやりと笑うと、背負った巨大な弓をしならせ、矢筒から矢を一本抜き、矢を番える。ドリルホークも、こちらの動きに気付いて翼を揺らしたが、もう遅い。
ひゅん、と。
指を離すと同時に、矢は空を切って放たれた。
ドリルホークが空を飛ぼうと岩から離れるより先に、鏃が鷹の瞳に吸い込まれるように突き刺さった。眼球を抉り抜かれた鷹は、たちまち絶命し、岩の下に滑り落ちた。
一発で確実に仕留める矢の腕前は、フォンから見ても、自分以上であると確信できた。
「御見事」
フォンがそう言うと、弓を仕舞いながら、クロエが一層微笑む。
「弓はあたしの専売特許だからね。目の届く範囲でも、見えてないところでもなんでもござれ。百発百中で撃ち抜いてみせるよ」
「凄いなあ、ソロで活動できるだけあるね」
「そりゃそうよ、伊達に一人じゃ――」
だが、クロエの顔が、急に驚愕で歪んだ。
彼女の実力に感心するフォンのすぐ傍の木、そこから縞模様の蛇が顔を覗かせているのだ。しかも、明らかに彼の喉元に噛み付こうとしている。
「フォン、危ないッ!」
蛇の動きが早すぎる。助けようにも届かない。
いよいよ蛇が鎌首をもたげ、フォンに襲いかかろうとした時。
「――っと」
パーカーの袖から黒い刃物を取り出したフォンは、一瞥すらせずに蛇の頭を木に突き刺し、縫い付けた。
頭を串刺しにされた蛇は、暫くのたうっていたが、やがて大人しくなった。腕ほどの太さがある蛇の気配は、フォンには既に見透かされていたのだ。
「御見事。その武器は?」
「苦無って言って、掘削用なんだけど、こうして使えるんだ。それにしてもオオシマヘビか。食用だね……うん、陽も落ちてきたから、もう少し進んで野宿にしようか?」
黒い刃物――苦無を袖に仕舞って、フォンは言った。いつの間にか太陽は大分傾いていて、これ以上無謀に進むと、思わぬ弊害が起きそうでもある。
「そうだね、思ってた以上に歩いてるし、お腹もすいたしね」
どこからか取り出した袋に蛇を入れて、二人はまた歩き出した。
予定通り進んでいるようで、一度か二度、五色米をまた置いてから、陽が相当傾いてきた。フォンは相変わらず、足元を見たり、鼻をひくひくと動かしたりして、クロエの前を歩いている。今や彼は荷物持ちではなく、先導役だ。
「フォン、どう? 狼の巣には近づいてる?」
「足跡や臭いからして、順調に近づいてはいるよ。でも、ここまで暗くなってきたらリスクの方が大きくなるから、さっき言ったとおり、野宿にした方がいいね」
周囲も暗く、見え辛くなったといって良いだろう。二人はここを野宿地とした。
「あれって……うん、見えるよ。弓使いは伊達じゃないからね」
フォンが指差した先を見て、クロエは頷いた。
遥か向こうの岩に、鳥が一羽、佇んでいる。フォンほど大きいそれは、嘴が異様に捻れている鷹で、鋭い目でこちらを確かに睨んでいた。
「相手もこっちを見てるね。ドリルホーク、螺旋状の嘴で獲物の肉を貫く魔物だ。殺気も感じるし、放っておいたら襲ってくるかもしれないね」
相手は間合いにはいないと、ドリルホークは踏んでいるのだろう。
こちらが隙を見せれば、向こうは飛んでくる。敵と判断して、良いだろう。フォンが眉間にしわを寄せている辺り、クロエは一応聞いてみるが、彼でも対処は難しそうだ。
「この距離から、あの魔物をやれる?」
「迎撃は出来るけど、この距離だとちょっと難しいかも」
「だったら、あたしの出番だね。見てて」
クロエはにやりと笑うと、背負った巨大な弓をしならせ、矢筒から矢を一本抜き、矢を番える。ドリルホークも、こちらの動きに気付いて翼を揺らしたが、もう遅い。
ひゅん、と。
指を離すと同時に、矢は空を切って放たれた。
ドリルホークが空を飛ぼうと岩から離れるより先に、鏃が鷹の瞳に吸い込まれるように突き刺さった。眼球を抉り抜かれた鷹は、たちまち絶命し、岩の下に滑り落ちた。
一発で確実に仕留める矢の腕前は、フォンから見ても、自分以上であると確信できた。
「御見事」
フォンがそう言うと、弓を仕舞いながら、クロエが一層微笑む。
「弓はあたしの専売特許だからね。目の届く範囲でも、見えてないところでもなんでもござれ。百発百中で撃ち抜いてみせるよ」
「凄いなあ、ソロで活動できるだけあるね」
「そりゃそうよ、伊達に一人じゃ――」
だが、クロエの顔が、急に驚愕で歪んだ。
彼女の実力に感心するフォンのすぐ傍の木、そこから縞模様の蛇が顔を覗かせているのだ。しかも、明らかに彼の喉元に噛み付こうとしている。
「フォン、危ないッ!」
蛇の動きが早すぎる。助けようにも届かない。
いよいよ蛇が鎌首をもたげ、フォンに襲いかかろうとした時。
「――っと」
パーカーの袖から黒い刃物を取り出したフォンは、一瞥すらせずに蛇の頭を木に突き刺し、縫い付けた。
頭を串刺しにされた蛇は、暫くのたうっていたが、やがて大人しくなった。腕ほどの太さがある蛇の気配は、フォンには既に見透かされていたのだ。
「御見事。その武器は?」
「苦無って言って、掘削用なんだけど、こうして使えるんだ。それにしてもオオシマヘビか。食用だね……うん、陽も落ちてきたから、もう少し進んで野宿にしようか?」
黒い刃物――苦無を袖に仕舞って、フォンは言った。いつの間にか太陽は大分傾いていて、これ以上無謀に進むと、思わぬ弊害が起きそうでもある。
「そうだね、思ってた以上に歩いてるし、お腹もすいたしね」
どこからか取り出した袋に蛇を入れて、二人はまた歩き出した。
予定通り進んでいるようで、一度か二度、五色米をまた置いてから、陽が相当傾いてきた。フォンは相変わらず、足元を見たり、鼻をひくひくと動かしたりして、クロエの前を歩いている。今や彼は荷物持ちではなく、先導役だ。
「フォン、どう? 狼の巣には近づいてる?」
「足跡や臭いからして、順調に近づいてはいるよ。でも、ここまで暗くなってきたらリスクの方が大きくなるから、さっき言ったとおり、野宿にした方がいいね」
周囲も暗く、見え辛くなったといって良いだろう。二人はここを野宿地とした。