「そう言えば、今野さんに話があったんだ」
「そうだ。メールに書いてあったね。何?」
「単刀直入に言っちゃうけれど、工場の若い女の子に聞いたんだ。今野さん、工場で全然喋らないんだって?」
私はドキッとした。その話には触れて欲しくない。だが武田さんは真剣な顔をしている。

「うん。知っていたの?」
「皆知ってるよ。何か噂になっちゃってる。」
「そう……」
「お昼も誘っても無視されるって皆言ってるよ。どうして?私とは普通に話すのに、工場では喋らないの?」

「声が出ないの」
私は正直に打ち明けた。工場へ行くと喋れなくなってしまうのである。
「えっ?」
武田さんが驚いたように聞き返す。

「工場へ行くとね。声が出なくなってしまうの」
私は悲しくなって、泣きそうになってしまった。まさか噂になっているとは思わなかった。武田さんが知っているだなんて。

「そう。知らなかった。全然出ないの?」
「うん」
「病院に行ったほうが……」
「うん。私もそう思ってる」
「工場だけなの?」
「そういう訳でもないみたい。最初は時々だったのが、工場だけになって、今は土日は家でも全く喋れないの」
「精神的なものかな」
武田さんが難しい顔をする。