最初の１週間は慌ただしく過ぎた。仕事はゆっくりだったが、榎本さんも林さんも、特に何も言わなかった。

そうして嫌な土曜日が来た。土日は工場に仕事に行かないといけない。私は洗濯した作業着を鞄の中に入れて重い足取りで工場に行った。土日はアルバイトが多くて、初めて会う人が沢山いた。

「今野です。今迄平日働いていたのですが、アルバイトになりました。宜しくお願いします」
私は仕事が始まる前の時間、４人で集まっている若者のグループに挨拶をした。

「あー、今野さん、リーダーが言っていた人だ」
「リーダーが？何か言っていました？」
私はキョトンとした。

「仕事の出来ない人が来るから宜しくねって」
「桜、黙って！。」
隣の女の子が話を遮る。

「御免なさい、この子お喋りで」
「いいんです。気にしてませんから」
どうやら上司が皆に私の事を喋ったらしい。どうやら良い情報ではなさそうだ。私は家に帰りたくなった。
「ほらほら皆仕事が始まるわよ」
厳しい顔をして上司がやってきた。

「すみませーん」
「今野さんも、ホラ、席について」
「はい。すみ……」
あれっ。治ったと思っていたのにまた声がでない。
私はその日、一日声が出なかった。

日曜日の朝、目を覚ましてから、自分に「おはよう」と言ってみる。
「おはよう」
すらりと出た。どうやら今日は声が出る様だ。一体どうしたのだろう。