「今野さん、今野杏さん、何時も仕事遅いわよ。簡単な部品にしたのだからもっとスピードを上げてくれないかしら」

上司が私の方へ来て、しばらく横に立って仕事の様子を見てから呆れた様に言う。私にも解っている。しかしどうする事もできない。
同じ時期に入社した武田さんという女の子は仕事が早くていつも上司に褒められている。武田さんは私と同じ年位。二十代半ばであろう。仕事のスピードは私の倍位早い。それを考えると嫌でも毎日落ち込んでしまう。

「今野さん、武田さんみたいに出来ない?同時に入社したとは思えないわよ」

私は泣きたくなる。

誰が悪い訳でもない。上司だってやらねばならない仕事なんだろう。だが気がつくと目の端に涙が滲んでくる。

私は武田さんと違って、この仕事が合わないのかもしれないと思う。

いつか誰かから聞いた記憶がある。
どうせなら好きな仕事で御飯を食べていけるようにした方が良いと。
本当にその通りだ。
私は思いつめてしまう癖があり、悲しい事にこんな事で毎日のように悩んでしまうのだ。
また仕事を辞めるべきかと考える。

だが親元を離れて一人暮らしで生活をしているので簡単に転職をする訳にもいかないのが現実でもある。それでなくても長続きする職につけた事がないのだ。