「そういえば、今野さん、席が変わってたね」
「うん。仕事が遅いからだって」
「酷いなー。丁寧なんだよ。きっと」
武田さんは同じ年位なのにお姉さんみたいに優しい。武田さんがいなかったらこんな辛い仕事、とっくに辞めていたに違いない。

「パワハラで訴えてやれば?」
「そこまでじゃあないよー」
顔を合わせて笑い合う。私の一日は泣いたり笑ったり忙しいのだ。

そうだ武田さんに声が出なくなる事を相談してみよう。
「武田さん、実は最近声がでないことがあるの」
「声が?喉の調子が悪いの?」
「うーん。良く解らないけれど上手く喋れなくて」
「喉って怖いよ。病院に行ってみた方がいいんじゃない?」
「そうだね。病院行きたいけれどこの前休んだばっかりだから、そんなに仕事休めないよね」
「確かにー」
そう言って武田さんはお弁当箱を閉じた。そうして思いたったように
「今野さんが面接受かって辞めっちゃたら寂しいな。誰とお昼食べようか考えちゃう。どうしたらいいと思う?私も辞めようかな」と言った。

「まだ、受かるなんて解らないよ」
「でも今野さん、仕事辞めたいんでしょ。仕事そんなに辛い?」
「やっぱりねーしんどいよ」
「事務の仕事も大変だと思うよ」
「うん。けれどね、今のまま続けていても、私なんて皆の足手まといでしょ。居ない方がいんだよきっと」
「そんな事ないよ。今野さんって皆を癒してくれるもの」
「私が?少しポッチャリしてるからかな」
「そうじゃあなくて。優しいもの」

「有難う。私も武田さんと離れ離れになるのは寂しいかな」
そうだ。事務の仕事に着いたらまた新しい人間関係をつくらなくてはならないのだ。こんな私に出来るだろうか。