「とりあえず、お茶でも飲む? そこに椅子あるからさ」

「あ、はい。ありがとうございます」

 アヤメさんは奥の方にいる誰かに目配せをすると、数分後同じ顔をした人がお茶を持ってきてくれた。そのお茶からは、玄米の香ばしい香りが漂ってくる。

「こんにちは、アヤメの妹のモミジです」

「モミジさん」

 奇麗な名前。

「私が洋菓子担当、モミジが和菓子担当なの。双子でここの店をやってるんだ」

「そうだったんですね」

 双子でお菓子屋なんて、憧れてしまう。

「それで、聞きたいことって?」

「あ、その……。今度、十五夜の宴でお屋敷を尋ねることになったのですが、事前にそこの人たちのこと聞いておきたいなって」

「ああ、カイさんに頼んだって言ってたの、本当だったんだ」

「はい」

「そうだな……まあ、世間離れしてるというか、どこか掴めないところがあるというか、食に関しては相当こだわっていて……元洋食レストラン経営の専属の料理人がいたような……。それでもカイさんのところに頼むってことは相当あそこの料理気に入ったんだね。とにかく美味しいものが好きなんだよ、あそこの人たちは」

「そうなんですね。あそこの人たちには……その……人間に虐められていた動物の妖が付いているって聞いたんですけど、それで人間が嫌いだとか」

「そうだね、まあ……仕方ないよ。あの人たちだって好きでその妖を選んだわけじゃないし、時々可哀そうに思える。嫌なものって、心に残りやすいじゃない? まあ、あの中でも人間に対して多少の好意を持っている人もいるけどね、ほら、動物だった頃に捨てられたあと心優しい人に引き取られたりしてさ。キキョウっていう真由と同い年くらいの男の子とか」

「アヤメ、喋りすぎよ」

「あ、ごめんごめん。まあ、普通にしてれば別に何ともない人たちだから、いつも通りしてれば大丈夫だよ」

「そうなんですね。教えてくれてありがとうございます」