「じゃあ、ここがとりあえずお前の部屋な。そういえば、名前」

「あ、えっと、堺真由です」

「真由か。ところで、お前どうやってここの世界に来たんだ?」

「おじいちゃんの家にある井戸を覗き込んだら吸い込まれてしまいまして……」

 言葉にすると、非現実感が強まって、ますますこの今いる自分の状況が不思議で堪らなくなってくる。

 どうして、こんなことになってしまったのだろう。

 でも、今はきっとそんなことを思っている余裕はなくてとにかくこの環境を受け入れるしかない。そうしないと、同じ場所で足踏みをしているままになってしまう。
 
「そうか……、まあ、1年我慢することだな」

「1年?」

「ああ、こっちの世界と人間界の境界線の扉は1年に1度しか開かない」

「で、でも高校が」

「大丈夫、こっちの1年は人間界の1日くらいだ。帰ってもほぼ時間は経過していない。ああ、ついでに言うと、時間の経過はさっき話した通りだが、歳を取ることについては、人間界と同じスピードになる。つまり、真由がここに1年いようが1歳分の歳を取ることはない」

 私はどうやら、とんでもない世界に来てしまったようで、しかも1年間はここに居なければということ。

「仕方ないから、1年くらいはここに居させてやるよ。まあ、さっきも言った通り畑仕事を手伝ってもらうけどな」

「はい、それは大丈夫です」

「まあ、とりあえず今日はハトリにこの街の案内でもしてもらいな。いろいろと不便だろ?」

「そうですね」

「じゃあ、戻るか」