「さっきの方って」

「さっきの人はあの屋敷の息子。……地主よりも厄介だがな。実質あの屋敷に関してはあいつに全ての決定権があるらしい」

「そう、なんですね」

 とういうことは、私が信頼を得なければならないのはあの人に、ということで……。

 一見そんなに癖のない人に見えたけれど、さっきのたった数十分という短い時間でさえふとした瞬間の目や声に深くて暗いものを感じた。

 あの人に信頼を得るって……本当に出来るの?

「私のこと、人間だって分かってるんですかね?」

「そうとも言えるし、そうでないとも言える。さっきの態度からはちゃんと判断できないな。……まあ、そんなに深く考え込むな。それより、お前のさっきの志、胸に響いたぞ」

「あ、はい……」

 そういえばと、あの言葉を思い出すと今更ながら顔が熱くなってきてそれを隠すように目の前にある野菜に集中する。

 でも本当にあれは本心で、今までなんとなくふわっと生きてきた人生に、ここに来て軸になる柱を立てることが出来た。

 妖とか、人間とか、そういうのは関係なくて、全ての人が美味しいと思える料理を、ハーブティーを提供したい。

 この思いがあの人にも届けばと、窓から見える水色の秋空を見て願う。