『仕方がない』

 私の頭の中に浮かんだ文字はそれだった。人間の残酷さは人間である私が1番知っているから。誰だってきっと、目の前に憎むものがあれば衝動的に体が動いてしまうかもしれない。

 自分が受けた傷の分を、相手にも負わせたくなるかもしれない。

 それくらい、きっと動物に対して冷酷なことをした。

 私……無謀なことをしているのかな? 少しでも分かってもらえたと思っていた自分が恥ずかしい。シドウさんだって本当は、何1つ人間のことを許していないのかもしれない……。

「真由さんっ」

 大好きな人の声。

「キキョウ、さん」

「よかった。もし、目が覚めなかったらどうしようかと」

 自分のために涙を流してくれる人がこんなにいる。それは決して当たり前じゃない。

「シドウさんが、真由さんを刺した人を今探してる」

「その人は、どうなるんですか?」

「分からないけど、ただでは済まないと思うよ」

「私……シドウさんの所に行かないと」

 その人がもし傷を負うことになったら、より人間を憎む気持ちが膨れ上がる。それは絶対にあってはいけない。