「……人間だね?」

「は、はい」

「待っていたよ。ここに、三つの玉がある。見てご覧」

 水晶のようなガラス玉、見ると中で黒い霧のようなものが渦巻いている。

 ずっと見ていると、頭の中までその霧が入り込んできそうだ。

「憎しみ、悲しみ、痛み、動物たちが人間から受けたものが凝縮されてこの玉の中にある。この短刀で玉を壊せたその時、これらは昇華して妖付きから憎悪が消える」

 お婆さんは私に短刀を渡してきた。

 早速思いっきり腕を振りかざし、その玉目掛けて刀の先を落とす。

「痛っ」

 ガラスには傷一つ付かず、逆に力の衝撃が手に波打つように伝わってきて麻痺する。

 体が、吹き飛ばされる。

「妖付きから認められた時にその短刀が光る。その時がこの玉を壊せる時」

「でも、どうやって……?」

「それくらい自分で考えなさい。甘えるな。お前が妖付きのものにできることはなんだ? それを精一杯やるしかない」

 お婆さんの言葉はきつい。でも、確かにそうだ。なんでも人に頼っているだけじゃダメなんだ。

 風が止んだ。窓から光が差す。

「せいぜい力を尽くすことじゃな」

 その言葉と同時に、建物もおばあさんも三つの玉も、短刀以外の全てが、最初から無かったかのように目の前から消えた。