シドウさんの表情から、鋭利さが消えた。

 その目から感じられるのは哀愁。初めてシドウさんのことが弱く脆く儚く見える。

「僕はね、ペットとしてある家族に飼われたんだ。そこの息子がどうしてもペットが欲しいと駄々をこねて選ばれたのが僕さ。でもね……僕は家の中でいつも1人だった。初めの2、3日だけさ。皆が僕を見ていたのは。きっと直ぐに飽きたんだろう。僕はずっと家族を見つめていた。その輪の中に入りたいって、僕も家族の一員にして欲しいって心の底から願った。でも、叶わなかった。体が大きくなると、いよいよ僕を邪魔だと思ったんだろう。家族は僕を山に捨てた。僕は完全に1人になった。その瞬間、心が死んでいくのが分かった。そこからは覚えていない。多分死んだんだろう。人間は冷たい。酷く冷たい。それが僕の頭の中から消えなくなった。……でも、真由さんは違った。あんな家族とは比べ物にならないほどに優しい心を持っている」

 シドウさんの目から、一筋の涙が溢れる。

「……寂しかったんですね?」

「そうだね、僕は、ずっと寂しかったんだ」

 大きなシドウさんの体が、細かく震えている。小さな子供みたいに。

「ごめんなさい」

その家族の代わりに、私がシドウさんに謝りたい。

「寂しい思いさせて、ごめんなさい」

 謝らなければと心の中の自分が叫んでいる。

「真由さん……ありがとう。さあ、行って」

 柔らかい笑顔をシドウさんはむけてくれる。

「真由さん。祠に行こう」

「はいっ。シドウさん、ありがとうございます」

「……真由さん、今度またハーブティを飲ませてくれる?」

 何度でも。

「もちろんですっ」