「そうよねえ、ひとつ屋根の下、毎朝顔を合わせてご飯を食べて、昼は隣で働いて、夜も共にご飯を食べて。しかもあの顔。きつそうに見えて意外と優しい性格。そりゃあ、惚れちゃうわよね」

 スミレさんは、お菓子屋で買ったカボチャ餡の最中を食べながらぽつりと言った。

 惚れる、という言葉を改めて聞くと照れ臭くなってくる。顔が、紅葉と同じ赤色に染まってしまう。

「でも、私は夏になったら人間界に戻ってしまいます」

「そうね……私、聞いたことがあるのよ。この世界の災いについて」

「え……」

「って言っても、本当に少しだけ。この世界に紛れ込んだ人間が、ある祠にある花を奉納で来た時、人間界との境界線が無くなるって。境界線が無くなる、の意味が分からないのだけど。自由に行き来できるようになるのか、それともこの世界が消滅して私たちが人間になるのか」

「そうなんですね」

 それは、初めて知る事実だった。

「そう、あ、ねえ、真由ちゃん、神社行かない? おみくじ引きましょうよ」

「あ、はいっ」

 スミレさんは残りの最中を全て口の中に入れてベンチから立ち上がると、「こっちよ」と言って公園から出る。

 本当にこの世界は人間界とほとんど変わらなくて、おみくじもあるなんて驚き。