もう一度言おう。『高校生くらいまで成長した』シルヴィ似の人間がシルヴィの部屋から出てきた。シルヴィの姉? いや違う。姉は胸がかなりあるが目の前にいる子は控えめに言って「普通にあるね」と言われる程度でしかない。
しかも普通に俺の隣にマリアさんはいる。
「シルヴィ……シルヴィなの? ど、どうしてそんなに大きく」
マリアさんが困惑している。今までの会話からこのJKみたいなシルヴィは間違いなく本物のシルヴィだと判断はできるが……
「シルヴィだよな?」
主人を見つけた飼い犬のように笑顔で俺に抱き着いてくるシルヴィ、胸当たってます。顔が胸に埋もれています。
「すごい! エルビスよくわかったね! 早く私の部屋来て!」
そう言ってシルヴィの部屋に引きずりこまれた。シルヴィの部屋は甘い匂いで満ちている、そしてそんな部屋の真ん中には大きな鏡が一つ。並々ならぬ気配を醸し出す鏡だ。
「この鏡ね、未来身の鏡っていうんだって、黒錬金術で作られた最新作! すごいでしょ!」
大人の体に幼い心が入っているせいで酷くちぐはぐな行動をとるシルヴィ。未来見ではなく未来の姿にするから未来身の鏡という事か……
「これ戻るのか? 大丈夫か?」
「大丈夫! 時間たつと戻るから! それよりエルビスも使ってみてよ!」
大人のシルヴィが俺にベタベタするのは何となく興奮する。だってストライクすぎて鼻血でそうだもん。
「そうだね! じゃあ使ってみるか!」
俺は未来身の鏡に姿をさらす。俺の体は光に包まれぐんぐん大きくなる。そして光が消える頃には高校生くらいまで成長したオレがいた。
シルヴィの方を見ると恍惚とした表情をしている。なんだ? おかしいのか?
「か、かっこいい……結婚して!」
そう言って抱き着いてくるシルヴィ、く、苦しいです。首締まってる体力がゴリゴリと減っていき体力自動回復 (極大)が発動するのを感じた。
その間シルヴィは俺に顔をうずめたり、匂いを嗅いだりめちゃくちゃしていた。
つかの間の地獄から解放されシルヴィの渡した手鏡を見ると中の上か上の下くらいの顔立ちをしていた俺の姿が映し出される。かっこええ。
「じゃあこの姿で大人ごっこしよ!私はお姉ちゃんの服着るからエルビスはそこのお父さんの服着てね」
……いやすぎるんですけど下で酔いつぶれたおっさんの服着るとか何の拷問だよ。
だがシルヴィがキラキラとした目でこちらを見るので諦めて着た。そんな俺の周りをドレスを着たシルヴィがくるくる回り品定めしている。
「ここ、いやここかな? あ、エルビス動かないで! ……ここだ! このポジションが一番かっこいい!」
何か知らんが俺のベストポジションを見つけたようだ。
「じゃあ大人ごっこ開始ね、そこの殿方、私と踊っていただけませんか?」
そう言ってスカートの裾を掴み、軽く持ち上げるシルヴィ、貴族は子供の頃からこういうのを学ぶんだなと考えながら躍り始めるが躍ること自体が初めてなのでちぐはぐなダンスになってしまう。
シルヴィのダンスがうまく、手を引かれて俺は躍った。
その次に村へ出る。というか魔物退治の時間だ、シルヴィは門の中から俺を見ている。ああ、なんか大人のシルヴィいいなぁ可愛い。
そして既にカインさんはいた。俺が近づくとぎょっとした顔をするカインさん。
「お、お前……エルビスか? また変なスキルでも獲得したのか? イケメンじゃねーかしね!」
カインさんが俺に大剣を振り回す。体の感覚が違うせいで頭の側頭部に剣が直撃した。
「いてー剣を振る相手が違うだろカインさん!」
「うるせぇイケメンは敵だ」
「俺より背後にいるオークを倒せよ」
カインさんの背後には通常のオークや、黒魔種のオークより大きい黒魔種オークがいた。
「ううぉおおお! 何だこいつでっか! おい、エルビス俺達の戦いは後だ! 共闘するぞ!」
初めからカインさんと戦って無いのだがこんなに大きいんだ絶対に強い。
剣圧に光属性と破壊属性を付与して斬撃波として飛ばした。光り輝く斬撃がオークに直撃した。そのまま吹き飛んで木に激突して絶命した。えっよわ
「なんだよ見かけ倒しかよ。なら、あの奥にいるオークみたいな大きさのゴブリンも弱そうだな!」
カインさんが魔術石を剣にぶつける。その剣はあっという間に真っ赤に染まって炎が付いた。そのまま接近して肩から大剣を巨大ゴブリンに叩き込んだ。
「チョロかったな……見かけ倒しだったな……エルビス今日の報告は頼んだ」
カインさんに報告を頼まれたので今日の依頼をゼオンに報告しに行くことにした。いつも通り平気な顔をしてローレン宅に入った。
「誰だ! 貴様! 勝手に貴族の家に入るなど極刑ものだぞ。うちに勝手に入っていいのはあのくそガキだけだ。死ね!」
ゼオンが飛び掛かってきたのでそのまま地面に叩きつけた。
「がふっ!……貴様何かエルビスに似ているが知り合いか?」
その質問をするのが遅い、そう思いながら質問に答える。
「知り合いも何もない、本人だ。シルヴィの部屋にあった未来身の鏡で成長したんだ。ちなみに後ろにいるのがシルヴィだ」
そう言うとゼオンがシルヴィに視線を向け、涙を流す。
「亡き妻にそっくりだ。シルヴィもう少しこちらに来てくれ」
よろよろとシルヴィに抱き着くゼオン
「お父さん、お酒臭いから近づかないで」
シルヴィが空気を読まず、言葉のナイフをゼオンの脳天に突き刺した。ゼオンは死んだ。というのは嘘で亡き妻に似たシルヴィにそんなことを言われショックだったのだろう、見たこともない顔で泣いて走っていった。
「あの……シルヴィさん体が戻りませんが? いつ戻るんでしょう?」
「う~んもうすぐ戻ると思うんだけどな? あ、ほら体が小さくなっていく!」
シルヴィの体がどんどんと小さくなり着ていたドレスが脱げた。思わず顔を背けたが見えてしまった。小さくなったシルヴィが、オレをぽかぽか殴るが所詮子供の攻撃、今の俺には効かない。
子供なシルヴィが可愛いので頭を撫でたり抱き着いたりしてみた。完全な犯罪現場だ。
そこから2時間後ようやく俺も元の姿に戻った。俺が来る前の2時間シルヴィは何をしていたんだろうか?