カタコト、カタコト――。
 規則正しい音を鳴らして、コアンの白い町並みを進む。
 馬車内では、叔父が父上に、俺とレッドソードキングの戦闘の様子を事細かに、そして大袈裟なほど俺を褒めて伝えていた。
 父上は、その一つ一つに相槌を打ち、表情は崩さないが、とても満足そうではある。
 横でそれを聞いている俺は、とても居心地が悪いんだけどね。
 いたたまれない気持ちを惑わすように、膝の上にいるハクの柔らかい毛をなでる。

 先行した王女たちは宿に着いただろうか。
 ふと馬車に乗りこむ二人の不安気な様子を思い出した。

 ――馬車に乗る前。
 ダンジョンの外では、マンジェスタ王国の騎士たちがダンジョン入口を囲んでいた。
 厳重な警備体制に驚きもしたが、一国の王女を警備するには当然のことである。
 だけど、ピリピリとした肌にも感じる緊張感と国の精鋭部隊での護衛。
 エスタニア王国の王女でも、ここまでの体制はありえない。何かあったのは明確だった。
 俺たちに気づいたひとりの騎士が、父上のそばにより声をかけた。

「団長、馬車の用意はできています。道中の警備も問題ありません」
「王女殿下を先にお通しする」
「承知しました」

 父上の指示に、騎士は素早く返事をすると後方へ下がった。
 すると横にいた王女が、父上に問うた。

「アーベル侯爵、わたくしどもはジークベルト様と同伴でしょうか?」
「いいえ、王女殿下。ジークベルトとは別の馬車をご用意しております」

 父上が否定すると、すぐさま王女が難色を示す。

「ジークベルト様との同伴をお願いしたいのですが」
「それはできません」

 父上がはっきりと拒否した。
 なおも父上に縋ろうとした王女を伯爵がたしなめる。

「姫様、アーベル侯爵を困らせてはなりません」

「ですが……」と声を王女はあげるが言葉は続かず、マントをギュッと握りしめる。
 しばらくして「わかりました」と言い、下を向いた。
 その様子に周囲も気遣わしげに王女を見ていた。
 まぁ無理もない。ほんの先ほど、王女は自国の騎士に裏切られ、命を狙われたのだ。
 精神的に考えても、ダンジョン踏破した俺たちと一緒に行動したいのはわかる。
 それに他国の騎士たちに囲まれて、気が休まないのだろう。
 そして促されるまま、王女たちは馬車に乗り込んだ――。

 車輪の音が止まった。どうやら宿に着いたようだ。


 一目で格式ある宿だとわかる佇まいに、多くの魔法の痕跡。精密な魔道具が多数使用されている。
 その精度に俺は、言葉を失くしてしばらく呆けた。

「コアンの技術が詰まっている宿だからね。安全は保障するよ」
「ヴィリー叔父さん、あとで魔道具を見せてもらえるでしょか?」
「それは交渉しだいだね」

 叔父が面白そうに俺を見て答え、宿の中に先導すると、先に大部屋へ行くよう促された。
 ハクと一緒に大部屋の中に入ると、そこには王女とエマが二人、ソファに座っていた。

「「ジークベルト様!」」

 二人の声が部屋に響く。
 すると王女が素早い動きで立ち上がり、俺の手をとると二人の間に座らされた。
 王女の早業に、俺は言葉を失くしていると王女が「ジークベルト様、手を繋いだままでもよろしいでしょうか」と、かわいらしくお願いされた。
 あざとすぎる。ほんの数分で性格変わっていませんか。
 王女の行動に唖然としていると横にいるエマが「では、私もお願いします」と、手を差し出された。
 えっ、これ。断れないよね。
 困惑する俺にハクが「ガウッ?(どうした? ジークベルト?)」と小首を傾げた。