最下層には、小さな広場があり、その奥に天井まである大きな扉があった。

「ヴィリー叔父さん、これがボス部屋の入口?」

 扉の大きさに圧倒されつつ、俺は隣にいる叔父に声をかけた。

「そうだよ。なかなか立派だろ。最下層はボスしかいないからね」
「? だとしたら、この広場で、野営をすればよかったのではないですか?」

 俺が不思議そうに問うと、叔父の眉が少し下がる。

「それがね、ボス階層で野営をすると必ず別階層に転移されるという摩訶不思議な現象が起きるのだよ」
「それは……また厄介ですね」
「ほんとうにね。さてジークの心の準備ができたら行こうか。そろそろ屋敷にも帰宅したいしね」
「はい」

 叔父の言葉に同意すると、なぜか王女が心配顔で問う。

「ジークベルト様、お一人で戦闘されるのですか?」
「うん」

 俺がそれに頷くと、叔父が補足する。

「Bランクだからね、ジークだけでも大丈夫だよ」
「ですが……危なくはございませんか? ジークベルト様がお強いのは認識しております。ダンジョンボスですし、ここは協力して倒したほうがよろしいのではないでしょうか?」

 王女の意見はもっともで、安全や効率を考えても正しい。
 でも、叔父がその考えを直すことはない。
 俺ひとりでBランクの討伐ができると『赤の魔術師』である叔父が言っているのだ。
 不安気に揺れる瞳に、力強い声の援護がはいる。

「姫様、ご心配なさらずとも、ジークベルト殿の身に何かあれば、私やアーベル殿が助けに入ります。まぁジークベルト殿は、助けなどもいらないでしょうがな」

 伯爵は大声で笑いながら俺の肩をバンバンと叩く。
 痛い痛い痛い。
「痛いです。魔物討伐前に弱らせてどうするんです」と、手加減なく叩かれた俺は涙目で伯爵に訴えた。
「これは、失敬しましたな」と、高らかな伯爵の声が響く。
 王女はそのやりとりから大丈夫なのだと判断したようで、さきほど見せた不安気な様子から一転して、クスクスと静かに微笑んでいた。


 ***


 ボス部屋の扉の前に立ち、大きく深呼吸をする。
 俺の緊張が伝わったのか、周囲も静観して見守ってくれる。
「よし!」と気合いを入れ、目の前の扉を押す。
 ギッギギギーと、ゆっくり扉が開いていく。
 完全に開いた扉の先には、大きな広間があり、その中央にレッドソードキングが立っていた。
 その佇まいに、ゴクリっと喉が鳴る。
 さすがダンジョンボス。同じBランクの魔物と違い迫力があり、別格であることがわかる。
 先手必勝。
 黒い剣を右手に『狂風』を放ち『倍速』で、レッドソードキングに切りつけた。
 キンっと、小高い剣と剣がぶつかる音が聞こえると共に、俺は後方に吹き飛ばされ、ズズズッーと膝をつきながら着地した。
 やはり攻撃力が違いすぎる。力負けしてしまった。『守り』の魔法を展開していてよかったと、冷や汗をかいた。
 一方、レッドソードキングは『狂風』の影響で、身体中に切り傷ができていた。身に着けている鎧も所々穴が空いている。
 初手の攻撃が、効いている。

 倒せる。

 手応えを感じた俺は、すぐさま黒い剣に『熱火』を施す。
 黒い剣が真っ赤に燃え、一振りすると直線状上に火が舞った。
 よし! 計算通り!!
 再度『倍速』で、レッドソードキングの後方に動き、間近で剣を振る。鎧に火が舞う。
 驚いたレッドソードキングが、火を払いのけようと奮闘するが、なかなか鎮火しない。その隙に正面へ移動し、懐めがけて乱突きをする。
 慌てたレッドソードキングは、体制を立て直せないまま、剣で防御しようとするが、遅すぎた。
 黒い剣は確実に鎧の穴ができたレッドソードキングの急所を刺した。
「グッ(やるな)」と、レッドソードキングがもらす。
 しかし、急所を刺したはずのレッドソードキングは、ドロップ品に変わらない。
 まだだめかと、ザッーと後ろに下がり、レッドソードキングとの距離をとる。
 黒い剣に集中し『疾風』を施すと、剣の周りに風が舞う。
 レッドソードキングは俺の行動を警戒してか、剣を正面に構えたまま動かずにいる。
 急所に狙いを定め、地面を蹴り剣を突く。
 俺の動きに合わせレッドソードキングも剣を動かすが、僅かばかりか反応が遅い。
 剣先がレッドソードキングの剣にあたるも周りの風に防御され、レッドソードキングの剣が宙に舞う。
 無防備なレッドソードキングの急所に、先ほどよりも深く黒い剣を突き刺した。
 すると白い光がレッドソードキングを包み、赤い大きなルビーへと変わる。
 それと同時にアナウンスが流れる。


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 剣スキル・魔法剣スキルを取得しました

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 俺は「よっしゃーー!!」と声を上げ、ガッツポーズをする。
 待望の剣スキルを取得できた。
 よくやったよ、俺!