『疾風』

 突然の魔法攻撃に魔物たちは混乱し、キラーバットがバタバタと落ちていく。
 その中には、目的のガーゴイルもいたが、数匹、羽を落とせなかった。
 叔父が素早く突入し、ゴーレムの前にいるオークを次々と瞬殺する。
 伯爵と男騎士もそれに続き、中に突入する。
 最後に俺も部屋に入り、うしろの扉を閉じる間際「お気をつけて」との王女の声が聞こえた。

『倍速』で、羽がないガーゴイルのもとに赴くと、首を狙い威力が強い『灯火』を放つ。
 ガーゴイルの口もとから、白い光が消えていく。
 危なかった。あと数秒遅ければ『石化』を使用されていた。
 ホッと、安心したのもつかの間、足もとにはスライムの大群だ。
 単体では、プルンプルンしてかわいらしい印象だが、団体だとドブ川のようだ。
『熱火』をドブ川へ放つ。
 炎の川に変わり、あっけなくスライムはドロップ品となる。
 サイクロプスは、部屋の中心に二匹、右側に一匹、左側に一匹いる。
 左側の一匹は、ゴーレムと一緒にいるため、叔父が仕留めるだろうと判断する。
 先に中心の二匹だな。
『倍速』で距離を縮め、魔法袋から黒い剣を取り出す。
 鞘から剣を抜き、刃先まで黒い剣を構え、サイクロプスに一太刀浴びせる。
 しかし攻撃を受けたはずのサイクロプスは、平然としている。
 Cランクの魔物に剣スキルがない攻撃は効かないかと、落胆しつつ、黒い剣に『灯火』を施す。
 いわゆる、魔法剣だ。
 これならどうだと、再度切りつけると「ギャィ(イタイ)」と、悲鳴をあげる。

 おぉーー。効いてる!

 初めて試してみたが、なかなかいいんじゃないか。
 次の攻撃をけしかける前に、サイクロプスの大きな手が俺に向かってくるが、やすやすと避け、その手が地面と激突する。
 地面には手形の陥没ができていた。さすがの攻撃力だ。
 サイクロプスは、ひとつ目の巨人で攻撃力はあるが、動きが全体的に鈍い。
 鈍いといっても普通の魔物より、少し鈍い程度だが、俺は『倍速』を使用しているので、瞬間的に攻撃を避けられる。
 まぁ普通の冒険者からしたら、あり得ない動きなのだが、いかんせん、剣の修練には持ってこいだと思った。
 黒い剣を再び構え、『灯火』を施す。
 やはり魔法に耐えられるのかと、黒い剣を見つめる。見た目が黒くなければ、どこにでもある普通の剣だ。
 ただし、黒い剣(封印中)と記載がなければね。

 半年前、父上とアル兄さん、テオ兄さんの模擬戦を観戦していたら、そろそろ真剣での修練も始めようとの提案があった。兄さんたちも、七歳を過ぎた頃には、真剣で修練を始めたとのことだった。
 俺は六歳から、剣術の稽古を始めて一年以上経っていたが、それまで使用していた剣は、刃がない模擬剣だった。稽古の内容は、基本動作と体力作りが主であり、模擬剣で十分事が足りていた。
 しかし、ついにそれを真剣に変える時がやってきたのだ。

 そこで俺に合う武器を探すため、我が家の保管庫に赴き、この剣と出会う。
 吸い込まれるように近づき、手に取ると、黒く光って短くなり、俺のサイズとなっていた。
 父上たちも驚いていたが、一番驚いたのは俺だ。
 その後、父上たちが触っても、もとのサイズには戻らず、鞘から剣を抜くことさえできなかった。
 だが俺は、いとも簡単に鞘から剣が抜けたのだ。
 俺は嫌な予感がして、すぐに鑑定をした。


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 黒い剣(封印中)
 効果:封印中
 説明:???を素材に作られた剣。剣が認めた者のみ使用できる。
 所有者:ジークベルト・フォン・アーベル
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 肝心なとこわからへんがなーー!
 ヘルプ機能いわく、封印されてなんの素材で作成されたのかも不明らしい。
 いつの間にか、剣の所有者になっていた。
 呪いの武器ではないよね。


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 おそらく違います。封印中のため詳細がわかりません。
 クッ、不覚!

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 ヘルプ機能がとても悔しそう……ふっ。


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 ご主人様、いま笑いませんでしたか。

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 気のせいじゃない?


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 ……たしかに、いま笑ったような気がしたのですが。

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 俺の性格が陰湿だってこと?
 ヘルプ機能がいてくれてとても感謝してるのに?


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 いえ、私の気のせいのようです。
 ご主人様が、かげでコソコソ笑うような人ではないことは認識しております。

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 ヘルプ機能を切り、俺はホッと息を吐く。
 あぶない。あぶない。ついつい笑っちゃったよ。
 だって『クッ、不覚!』なんていつの時代?
 はぁーばれなくて、安心した。ヘルプ機能がヘソを曲げたら、機嫌を直すのが大変なんだから、注意しないと。
 さてと、呪いはなさそうなので、黒い剣を何度か振ってみる。
 うん。手になじんで、しっくりくるな。
「この剣にします」と宣言するが、アル兄さんが猛反対した。
 得体の知れない武器を所持するのは危ないとのもっともな意見を述べている。
 でも、アル兄さん。この黒い剣は、我が家の保管庫にあったのだ。貴重な剣の可能性はあっても、危険はないだろう。
「本当に危険なものなら、手の届く場所に保管はしませんよ」とのテオ兄さんの援護射撃に「そうですよ」と、俺も乗っかる。父上にも同意を得ようとうかがい見るが、浮かない顔をしていた。
「父上?」と、声をかけると、その声にハッとするが「手になじむならそれにしなさい」と、同意してくれたのだ。

 そんな経緯で、真剣を手に入れたわけだが、この戦闘で、剣スキルが獲得できれば御の字だ。
 父上から出された難題をクリアできるチャンスがきたのだ。
 これでダメだったら、もう無理だ。あきらめる。
 サイクロプスに何度も切りかかるが、浅い傷しかできない。
 魔力を徐々に上げて挑むが、少し傷が深くなっていく程度である。
 あと二匹いるのだ。ここで時間を取りすぎるのもよくない。
「チッ」と舌打ちして、黒い剣を鞘に納め、『疾風』を放つ。
 急所を狙った一撃は、サイクロプスを瞬殺した。

「魔法で一撃。剣では傷だけ……。剣スキル遠いな」

 渇いた笑みを浮かべ、もう一匹のサイクロプスに近づく。
 そばで戦闘をしていた男騎士が、俺の手に剣があることに気づき、なにかを言っているが無視だ。
 ここでも修練を積みたいが、まだ敵はいる。
 上位の『猛火』を放つ。サイクロプスは一瞬にして、火に包まれ、周りにいたスライムも一緒に焼けている。
 ドロップ品となる頃には、鎮火しているだろうと予想して、右側に移動する。
 すると、右側のサイクロプスが伯爵に襲いかかっていたが、伯爵が攻撃を避け、綺麗なカウンターで切り上げる。
 太刀筋にぶれがなく、両断とはいかないが、致命的な攻撃を与えたようだ。
 後ずさるサイクロプスを逃がすまいと距離を詰め、胸部を中心に乱れ刺して体力を奪った後、首をスパッと切り落とした。
 近くで戦闘を見ていた俺は、その剣さばきに圧倒された。
 叔父が伯爵を強いと言ったのは、伊達ではない。
 感心していると左側から轟音が響き、強い風が駆け抜ける。
「何事だ!」と、伯爵が叫ぶ。
 左側は、砂埃が立ち上がっていたが、少しずつ、全貌があきらかになる。
 そこには、数多のドロップ品があり、叔父が立っていた。

「やりすぎたかな」

 これをしでかした当事者は、右頬をかきながら、苦笑いしている。
 前方には、巨大な丸い穴ができていた。
 俺に加減しろと言ってこれですか……。
 いつもおいしいところは、全部持っていくんですから。