「んー、遠いな。このメンバーで、今日中に二十一階層まで到着するのは難しいかな。ちなみに私とジークなら余裕で着くけど、君たち『倍速』は、使えないでしょう。先に伝えておくけど、全員に『倍速』をかけて移動なんて、嫌だからね」

 男騎士が口を開く前に、叔父が先手をうつ。
 叔父の『索敵』の範囲は、最大二百キロ。その範囲に正しい階段があったことに、ほっとした。

「アーベル殿。どのような隊列で進みますか?」
「隊列は……。ジーク、前方にホルスタインの団体。数は二十弱だ」
「はい」

 叔父の指示に、素早く『倍速』を使い、ホルスタインの団体との距離を詰める。魔力循環を高め、ホルスタインとの距離を確認しながら魔法を放つ。

『疾風』

 ホルスタインの団体は、瞬時にドロップ品へと変わったが、その場所には、百メートルほどのくぼんだ地形ができていた。
 チッと、思わず舌打ちをしてしまう。
 また魔法が拡散した。ホルスタインを狙ったつもりが、地面にまで魔法が到達している。

「ホルスタインは、単体ではEランクですが、団体はDランク。それを一瞬で殲滅する魔力とは……。アーベル殿が、誓約魔書を強く要望した理由がわかりました」
「見ての通り、戦闘に関しては、手出し無用でお願いするよ。ジークの修練を兼ねているんだ。ドロップ品が必要なら、半分そちらに渡すよ」
「いえ、結構です」
「そう。なら王女の護衛に務めてください」

 俺は戦闘の反省をしたあと、テキパキと魔法袋にドロップ品を納めていた。
 牛肉、牛乳、チーズ。いつも思うが、加工品のチーズがドロップされるなら、バターやヨーグルト、アイスなども、ドロップしてもよくないと思ってしまう。
 牛肉は部位でドロップされ、ロースが多いが、ヒレやサーロイン、バラ等の部位もドロップされる。また、ホルスタインには上位種があり、その肉は最高級品として取り扱われる。
 今日は焼き肉かなと、思っていると、叔父が隣にいた。

「ジーク、『疾風』の制御が上手くできていないね。『熱火』のほうが難しいはずなんだけどね」
「どうしてもヴィリー叔父さんのイメージが払拭できなくて。無意識に力が入っているようです。回数を熟せばなんとかなると思います」
「問題点が分かっているならいいよ『疾風』を上手く扱えるようになれば、その上の『狂風』『暴風』を教えよう」
「えっ」
「何を驚いているんだい。このダンジョンで相当レベルが上がるだろう。魔力値はおそらく足りるよ。まぁ『狂風』『暴風』もそうかわらない魔法だからね。どちらかを重点的に覚えるのがいいかもね」

 たしかにダンジョンに入って三日。すでにレベルが、2上がった。ダンジョンに入る前はLv7で、なかなかLv8に上がらず、難儀していた。
 Lv5までは比較的簡単にレベルが上がったのだが、レベルの壁があるのか、そこからが長かった。
 Lv6に上がるのに、Lv5までに取得したスキルポイントの倍以上かかったのだ。
 簡単に説明すると、Lv5までにホワイトラビットを計100匹倒したとしよう。Lv6に上がるには、そこから200匹以上倒す必要があったのだ。
 実際はLv5で、スキルポイントが200、Lv6では426、Lv7では824だった。ダンジョン前は1200弱までポイントがあり、現在Lv9で2328なのだ。おそらくLv10になるには、3000を超える必要がある。
 三日で大体1000を超えているので、踏破するまでに、Lv11にはなる計算だ。

「そうだジーク! 魔力を枯渇してもいいよ。ただ気絶するまでは使わないでね」
「いいんですか⁈」
「戦闘はジーク。私はサポートで温存。王女の護衛は三名いる。特に伯爵は桁外れに強い。まぁ兄さんのほうが強いけどね。だから後方を心配する必要はないよ。全力で戦闘しなさい」

 叔父の言葉を真に受け、その後、俺は無双した。
 そのおかげで『疾風』を自由に扱えるようにまでなった。制御が完璧だった『疾風』を見て、叔父は満足そうに頷いていた。
 後方のエスタニア王国の騎士たちの顔が、ひきつっていたのは、気にしないでおこう。
 残念ながら、レベルは上がらなかったが、明日以降『狂風』『暴風』を実戦で使用することにした。
 まずは叔父が手本を示してくれる。
 今度は、叔父の魔法に引きずらないように、客観的に魔法を分析しよう。