「先祖返りですか」
「はいそうです。お恥ずかしい話、まだ制御ができないのです」

「姫様」と、バルシュミーデ伯爵が嗜めるが、ディアーナ王女は、首を横に振り、反論する。

「パル、魔道具が壊れて見えているのです。隠したところでどうしようもありません」
「ですが、王家の秘密を他国に易々と答えるなど……」

 魔道具って、あの胸にあるペンダントのことかな。華美な装飾はないが、丸い紫の宝石がついている。残念ながら魔力の波動は感じられない。
 チート叔父ならと期待をこめて「叔父さん」と、うかがった。

「ジーク、いくら私でも壊れた魔道具を修復する技術はないよ。コアンの中に腕のいい魔道具職人がいるから、踏破したら紹介しよう」
「ありがとうございます」

 ニコニコと笑顔で応じる王女に、自然と周りの雰囲気も明るくなる。なかば強引に誓約魔書へサインをさせたのに、とても好意的だ。
 俺は着ていたマントを脱ぐと、ディアーナ王女へ渡す。王女はキョトンとした顔をする。

「耳を隠すならフード付きがいいですよね? ぼくが所持しているマントでフード付きなのは、それしかないんです。着用しているもので、悪いんですが……」
「いいえ、ジークベルト様、ありがとうございます」

 王女は頭を横に振り否定すると、マントを嬉しそうに羽織る。王女と俺の背丈は、ほとんど変わらないため、ピッタリだ。
 俺も『収納』から予備のマントをだし、装着する。

 王女の耳と尻尾は、エスタニア王国内でも極僅かしか知らない極秘情報だった。
 王女付きの侍女見習いのエマは知っていたが、男女の騎士は知らなかった。
 昨日、互いの挨拶を終えた後、それは起きた。

「姫様、その耳と尻尾は、どうされたのです?」

 俺と叔父が詮索しなかったのに、男騎士が率直に問うたのだ。
「カミル!」と伯爵が慌てたが、王女が男騎士に説明をする。
 生まれながらにしてあるが、種族は人間であること、普段は隠していること、極僅かな人物しか知らない情報であることを伝えていた。
 男騎士は「そうなのですね」と納得しつつも、耳と尻尾が気になっているようで、チラチラと盗み見ていた。
 その気持ちわかる。美少女に耳と尻尾は、萌えるよね。うんうん、男だものつい見てしまう気持ちはわかるけれど、あまり見過ぎるのもどうかと思う。ほら、女性陣の冷たい視線。その視線に気づいた男騎士は、ばつの悪そうな顔して、王女から距離をとった。
 男騎士の態度に、ほんの少し親近感を覚えた。

 この世界にも差別はある。特に亜人に対して、迫害がある国が多い。
 人種至上主義の代表国である帝国は、亜人は生まれながらに奴隷だ。
 マンジェスタ王国では、迫害はないが、人種の国であるため、田舎などでは、亜人への差別があったりする。コアンなど都心部に近い町は、ほぼないと信じたいが、奴隷落ちする人の多くは、亜人だったりする。亜人の人権が著しく低いのは、否めない。
 エスタニア王国が、どのような状況かは分からないが、王女の説明と騎士の態度をみて伯爵が安堵している点からして、亜人に対してあまり良い環境ではないのであろうと推測ができた。