朝食の用意をエマが、一人でしていた。
 あたりを見回すが、人の気配がない。昨日の様子から期待はしていなかったが、七人分の食事を一人で作るのは、とても大変だ。配慮が足りなすぎる。王女や伯爵は、別としても、男女の騎士のフォローがあってもいい状況だ。
 手際よく朝食の準備をしているエマをみて、感心する。たしかエマは、侍女見習いだったはず。王族の侍女候補は、原則、身元の保証がある貴族の子女がほとんどのはずだ。エマの所作は、綺麗ではあるが、洗練された貴族の教育を受けていないように、見受けられる。なにか事情があるのかもしれない。
 エマの年齢は十二歳。成長が早いのだろう、女性らしい身体つきで、ほぼ完成されている。笑うと年相応の顔になり、えくぼが、大変可愛らしい。

「ぼくも手伝うよ」
「ジークベルト様! あの、その、もっ、もう、そっ、そのぉー、よろしいのでしょうか」
「ん? これはスープかい?」

 エマの質問をあっさりスルーし、矛先を朝食のスープにかえる。

「あっ、はい。昨日のオーク肉の骨から出汁を取り、塩で味付けをしました」
「そうなんだ」
「昨日、ジークベルト様から頂いた食材を勝手に使ってしまいましたが、よろしかったでしょうか」
「そのために出したからね。問題ないよ」

 そこには、焼いたオーク肉と野菜スープがあった。昨日は、オーク肉の丸焼きだったので、その余りで作ったのだろう。少ない材料でここまで作ったのかと関心する。
 スープからは、とてもいい匂いが漂っている。
 これは、期待できると、朝食に胸を弾ませ、魔法袋からパンと野菜、チーズと果物を出し、エマに指示する。

「エマ、焼いたオーク肉を薄く切って。野菜とチーズをパンで挟んでサンドイッチにしよう」
「はい!」
「ぼくは果物を切るね」
「よろしいのですか?」
「んー。野営はみんなが協力するものだよ。一人でこの人数分を作らせてごめんね」
「いえ、とんでもないです。私の仕事です。それに料理を作るのが、好きなんです」
「そうなんだ。それは楽しみだね」

 エマと雑談をしながら、朝食の準備をしていると、叔父が調理場に顔をだした。

「いい匂いだね」
「えっ⁈ あっ、はい。アーベル様、さっ、さきほどは、お邪魔をしてすみません」
「ん? あぁー、ジークとのことだね。内緒でお願いするよ」
「はいっ!」

 叔父が口に人差し指をあて、エマに近づくと、再度「内緒だよ」と、耳元で囁いていた。
 エマは、赤い顔して、勢いよく頭を振り返事をする。
 あざとい。無駄に色気をだして、遊んでいる叔父に、俺が呆れた口調で窘めた。

「ヴィリー叔父さん……」
「まぁ、私がジークを愛しているのは、嘘ではないからね」
「そんなに深く……。私、誰にも言いません!」
「ありがとう。ではそこにテーブルを用意するから朝食を運んでくれるかい」
「はい!」

 この状況を楽しんでいますね。さきほどの叔父の焦りは何だったのか……。エマをいいように翻弄する姿は、さすがです。もぅ好きに遊んでください。
 はぁーーと、大きな溜息を吐き、叔父の用意したテーブルに朝食を運んでいく。
 朝食の準備が整ったところで、タイミングよく伯爵が顔をだした。

「アーベル殿が、ご準備を?」
「いえ、エマとジークが用意してくれました」
「ほぼエマだよ。ぼくは果物を切ったにすぎないよ」
「カミルとダニエラは何をしているだ」

 伯爵の顔が、みるみる険しくなっていく。
 いまここにいない男女の騎士の名をだし、言葉にならない憤りを感じているようだ。
 伯爵の怒りはもっともで、他国であっても、侯爵家の二人が、朝食の準備をしていて、自国の一般騎士が、未だに姿を現さないのだ。
 昨日の醜態もしかり、これ以上、自国の騎士の評価を下げたくないのは、わかるけど、あの二人に期待するのは、難しいじゃないかなと思う。
 おそらく、事前に伝えてさえいれば、朝食の準備をしているだろう。自ら率先して、気が利いたことをするタイプにはみえない。それに騎士のプライドだけは、高そうだしね。
 ほんのすこしだけ、伯爵に同情してしまうのだった。