その後、残りの二名も目覚めるが、女騎士も男騎士と同じ暴挙を働き、叔父にひれ伏した。叔父の機嫌はすこぶる悪く、男女の騎士をゴミのような眼で見ている。

「さて、全員目が覚めたようだね。正直、私はこれ以上、関わりたくないね」

 叔父が、七人分の髪の毛と遺品を出すと「「収納魔法!」」と、男女の騎士の驚いた声が聞こえる。
 空気を読めよ。空気を! 騎士だよね? 無能なの? ほら、叔父の機嫌が、一段と下がった。
 すかさずスキンヘッドの騎士が、感謝を述べ、腰にある魔法袋にそれらを収納する。

「ありがとうございます。お礼はまた後日」
「いらないよ」
「ですが、しかし……。ダンジョン内での所持品は発見した者に利権があります」
「いるかい?」

 叔父が俺に問いてきたため、首を横に振る。
 確かにダンジョン内で、所持品を発見した場合、発見者の物になる。そもそも遺品として渡すつもりだったのだ。お礼は不要だ。
 叔父の態度に、男騎士が不満気な声を出す。

「そのチビは関係ないだろう」
「エスタニア王国の騎士は、レベルが低すぎる」
「なんだと!」
「やめなさい。失礼した。未熟者のうえ、お許し頂きたく」

 再びスキンヘッドの騎士が、頭を下げる。
 男騎士はグッと感情を抑えた顔をして、それ以上言葉を発しない。手綱は、しっかり握れているようだ。

 若い上の暴走ですね。自分よりもはるかに強い相手を認めることができないんだよね。
 うんうん、嫉妬だね。まぁ叔父、年齢よりかなり若く見えるもんね。たぶん同じ年ぐらいと勘違いされてるんだよね。で、態度が大きく生意気に見えるんだろうな。スキンヘッドの騎士の態度を見れば、一目瞭然なのに、若いねぇー。
 女騎士は我関せずといった態度で腰を落とし、少女と侍女は、不安そうに様子を見ている。

「叔父さん」
「はぁーー。君たちを発見したのも、助けたのもこの子だからだよ。命の危険があるにも関わらず、七名の遺体を丁重に埋葬したのもこの子だからね」

 叔父が俺の頭をポンポンと叩く。
 ああ、ほんとズルイよなぁー。決定権を俺に委ねるなんて、マジ男前!
 そう俺たちは、互いにまだ名を名乗っていないのだ。この意味は、至極簡単だ。名乗れば、踏破するまで共に行動をする。名乗らなければ、一夜のみ共にし、別行動だ。
 はぁー。この面子での踏破は難しいだろうな……。
 戦闘能力は問題ないけれど、ダンジョンでの野営準備は万全ではない。広範囲の『索敵』が、できそうな人物は……いないよね。このまま別行動をすれば、野垂れ死にはしないけれど、いい結果にはならないことが目に見えている。
 んー……。結論は出ているのに、行動に移せない理由がある。俺の魔法だ。異常性が国外に露呈するのだ。守秘を約束させても、五人の内、二人にかなりの不安がある。

 あぁーー。どうするかな。
 悩んでいると、琥珀の瞳が優しく笑う。
 ここで笑うのか……。
 悩んでいた俺が、すごく小さく思えてしまう。
 聡明だ。俺の決断で、自身の運命が決まるのに……器が、デカ過ぎるだろ。

 パンと膝を叩いて気合を入れ立ち上がると、四人の主の前に立ち、片膝をつく。

「わたくしは、ジークベルト・フォン・アーベルと申します。名乗りが遅くなり大変失礼を致しました」

 高貴な身分の方への挨拶をした。格式も時には大事だ。
 一瞬静寂が包むが、外野からアーベル家! と驚愕の声が聞こえる。他国でも、アーベル家は、有名なのだ。彼らの反応から、それだけ影響力があるのもわかる。
 琥珀の瞳と視線が交わる。次は君だろと合図を送ると小さく頷き、少女がそれを返す。

「エスタニア王国、第三王女ディアーナ・フォン・エスタニアと申します。命の恩人に対し挨拶もせず、申し訳ございません」

 ディアーナ王女は、躊躇なく頭を下げる。
 うん。素直な謝罪は心証が良い。
 まぁ高貴な身分であるとは予想してたが、王女様ですかーー⁉︎ しかも、耳・尻尾付きの王女様! うぉーー。テンプレすぎて言葉が、でてこない。
 俺が、心の中で悶絶していると、叔父が挨拶をした。

「マンジェスタ王国、第三魔術団副団長、ヴィリバルト・フォン・アーベルです。エスタニア王国、第三王女ディアーナ様とは知らず、ご無礼を致しました」

 さすが叔父! 見習うべき、所作がここにある。
 ディアーナ王女が、見惚れるほどの気品と優雅さだ。叔父、王子に見えるわ! なんでここにいるのまじで‼︎

「「赤の魔術師!!」」

 あぁー、外野二人がうるさい。
 せっかく叔父が、イケメンフルパワーをだしたのに、もう少し静かに観察させてよ。雰囲気がだいなしだ。あぁ、もう普段の叔父に戻っているし、貴重な瞬間だったのに。

「これはまた大物ですなぁ。失礼。エスタニア王国、パスカル・フォン・バルシュミーデです。恐れながら伯爵の位を授かっています」
「やはり、バルシュミーデ伯爵でしたか。このような出会いでなければ、一度手合せをしてみたかった」
「私もです」

 スキンヘッドの騎士がそれに続き、叔父とバルシュミーデ伯爵は固く握手をした。