雑談をしながら、少女が落ち着いたところを見計らって、叔父が切り出した。

「なぜあのような場所にいたのかな」
「わかりません。『移動石』を使用したら、魔物の巣の中にいて、次から次へと繭の中に……」
「それは災難だったね。ここがダンジョンであるのはわかるかい」
「そのようですね」
「『移動石』は、どこで購入したものかわかるかい?」
「わかりません」
「そうか、私たちも、同じようにダンジョンに飛ばされたんだよ。何かヒントがあればと思ってね」
「そうなのですか! お力になれず、申し訳ございません」

 少女は申し訳なさそうな表情をし、耳と尻尾が下がっている。うん。ハクと同じだ。
 その様子から少女が、嘘を言っているようには、みえない。それに叔父、少女の同情をさそうように、話を盛りましたね。俺たちは、実験の失敗で、ここに飛ばされたのであって、少女たちのように、故意に飛ばされてはいない。なにか考えがあっての発言だと思うので、黙っておきますが。

 少女の後方から大きな影が近づいてくる。スキンヘッドの騎士だ。俺たちが雑談している間に、目が覚めたようで、丸太から下り、静かに状況を確認していた。俺と叔父は、気づいてはいたが、あえて無視をした。
 少女は影に気づくと、後ろを振り向き「パル!」と声を上げる。その声は、喜色に溢れていた。
 パルと呼ばれたスキンヘッドの騎士は、少女に対し力強く頷くと、叔父に向かい頭を下げた。

「貴殿が助けてくれたのか。お礼を申し上げる」
「貴方がたを発見したのは、この子だよ。助けたのもね。私は手伝っただけさ……。お行儀が悪いね!『守り』」

 直後、丸太から火の玉と剣を抜いた男騎士が奇襲をするが、叔父の『守り』でひれ伏した。
「グッ」と男騎士の声が漏れる。

「さて、助けた恩人に対しての暴挙は、いくら頭が混乱していても、褒められたものじゃないね」

 叔父の周辺から冷気が漂っている。ゴクリと喉が鳴る、すげー威圧だ。
 威圧対象外の俺でも息をのむほどだ。直接威圧を受けている男騎士は、玉の汗をかき、顔色は白くなっている。

「このまま君たちをここで見放しても構わないんだよ。エスタニア王国のご一行殿」
「貴様‼︎」
「あれ違ったかい? 白狼と剣の紋章は、エスタニア王国だよね」

 叔父のあからさまな挑発に、あっさりと乗る男騎士。這いつくばった状態で抵抗しようとするが、スキンヘッドの騎士が制した。

「貴殿のおしゃる通り、我々はエスタニア王国の者です。この者にはあとで強く言い聞かせますので、貴殿の怒りをおさめては頂けないだろうか」

 叔父とスキンヘッドの騎士の視線が交差する。
 しばらくして、叔父の威圧が緩和されていく。ほっと、安堵の息を吐き、俺は叔父のそばに寄る。万が一、交戦となった時に、邪魔をしないように、叔父が逃走することはないと思うが、逃走がしやすいようにだ。
 俺の行動に、叔父の眉が上がり、俺の頭に手を置いた。満足いく行動だったようだ。