たき火のパチッパチッとした音が聞こえる中、夕食のオークの肉が焼けるのを待つ。
 手持ち無沙汰だったのか、叔父は『収納』から何かを出し、忙しく手を動かしている。どうやら魔道具を作っているようだ。
 普段の俺なら、その行動を凝視するのだが、心ここに在らずで、じっと、たき火の炎を見つめて、不安な気持ちを落ち着かせていた。

 ひとつ、心配ごとがある。
 外部へ連絡する『報告』が、使えないのだ。正確にいえば、使用できないのではなく、ダンジョン内での魔法の効力が、限定されているのだ。
 そのため、ハクや父上たちと、連絡が取れていない。いま屋敷の中は、騒然としているのではないかと、暗に想像がつく。
 特にハクが、心配だ。
 ハクとは、魔契約を結んでから、このように長く離れたことがないからだ。
 部屋の中で、すごく心配しているんじゃないかと、その姿を想像して、心が締めつけられる。
 ふと魔道具を作っていた叔父と目が合う。叔父が、驚いた顔して、その手を止め、俺の頭を撫でた。

「ジーク、心配しないでも大丈夫だよ。研究施設にいる他の隊員が、私たちのことを報告していると思うし、私からもフラウに、兄さんへ状況説明するようお願いしたからね」
「えっ? フラウと連絡が取れるんですか⁈」
「魔契約しているからね。念話はできるよ」
「えっ? 魔契約すると念話ができるんですか⁈」
「絶対ではないけどね。ある程度の信頼をお互いもっていれば、できるはずだよ」
「そうなんですね!」
「でもねジーク、ハクとは魔契約をしていないから、念話はできな……聞いてないね」

 叔父の情報に、沈んでいた心が浮上する。
 魔契約に念話機能があるとは!
 さっそく『ハク』『ハク』『ハク』……と、心の中で、呼び続ける。
 俺とハクは、固い絆で結ばれている。絶対に念話ができるはずだ。根気強く呼び続けていると、ハクの声が聞こえた。

『ジークベルト!』
『ハク聞こえるかい?』
『ジークベルト!』
『よかった……』
『ジークベルトいまどこ? すごく心配した。マリアンネもテオバルトもみんな心配してる。ハクもすごくすごく心配した』
『心配かけてごめんね。いろいろあってね、コアンの下級ダンジョンなんだ』
『ダンジョン? 危ない! ハクも行く! すぐに行く!』
『ハク、ありがとう。大丈夫だよ。ヴィリー叔父さんがいるから、心配しないで、家で待っていてほしいんだ』
『ヴィリバルトが一緒?』
『うん。ヴィリー叔父さんが一緒だよ』
『…………わかった。ハクまつ』
『ありがとう』
『あした帰ってくる?』
『それが……数日掛かりそうなんだ』
『‼︎ やっぱりハクも行く!』
『ありがとう。俺は、必ず帰るから待っていてほしい』
『ジークベルトいないの寂しい……。ハクひとりいやだ……』
『ごめんね、ハク。寂しい思いさせて……。帰ったらいっぱい遊ぼうね』
『…………わかった。ジークベルト帰ってくるのまつ』
『ありがとう。明日、また連絡するね』
『うん。ジークベルト、はやく帰ってきて』

 ハクとの念話がきれる。ハクの声を聞いて安心したが、寂しい思いをさせている現実に気持ちが沈む。
 そんな俺の表情を見て、叔父が「魔契約は難しいができないこともないよ」と励ましてくれた。
 ん? なんで魔契約なんだ? よくわからないが、すごく心配している叔父を安心させるため、ここは素直に頷いておいた。

 オークの肉が、いい感じに焼け、少し早い夕食をとる。ダンジョンで、たくさん動いたので、お腹はペコペコだ。
 野営なので、カトラリーが用意されているわけでもなく、俺の『収納』には、あるけどね。そのままオークの肉にかぶりつく。
 うまいっ!
 オーク肉の丸焼きは、美味でした。今生はじめてのB級グルメ? に、舌鼓をうつ。躊躇なく、オークの肉にかぶりついた俺を見て、叔父が、肩を下げて、申し訳なさそうに謝る。

「悪いね、ジーク。料理は凝ったものが、作れないんだよ」
「おいしいです」
「アンナが見たら、卒倒しそうだね」
「ん? あー、そうですね。でも、場面場面ではないですか? それに、おいしいです」
「そうだね」

 叔父は苦笑いしつつ、オークの肉にかぶりつく。ただ肉にかぶりついているだけなのに、この人の所作は、なにをしても、優雅だ。見習わないといけないが、努力してできるものだろうかと、疑問に思う。
 まあ、考えても無駄だと、これからの成長しだいと、棚上げしつつ、オークの肉を堪能した。ただ、毎日これはキツイよね。
『収納』に、料理長特製の唐揚げなどの揚げもの類や俺が所望した料理を忍ばせている。果物やお菓子などもあるんだけど、出したほうがいいよね。
 数日分の食糧を『魔法袋』に移しておこうと、ダンジョン踏破にむけて、前向きに動くことにした。