太陽が沈みかけ、広大な草原がオレンジに染まる。本当にダンジョンにいるのかと、目を疑う景色である。
 十七階層は、洞窟だったので、時間経過がわからなかったが、十八階層の草原は地上と同じで、昼夜が、はっきりとわかる。
 現在、俺たちは、コアンの下級ダンジョン、十八階層の中間地点にいる。

「さて今日は、ここで野営の準備だね」

 叔父が、収納から『魔テント』をだし、野営の準備を始めた。俺もたき火ができるように、草を抜き、小枝を集めながら、自主的にお手伝いをする。
 前世では、活躍の場がなかったサバイバル知識が、少し生かされたのが、地味に嬉しい。不幸体質だったので、キャンプなど、トラブルの原因になりそうなものは、常に回避していた。
 本音を言えば、友人たちと一緒に経験して、遊びたかったが、迷惑はかけられない。だから、本や写真などで知識をえて、行った気分を味わっていた。
 そんな俺を見兼ねた前世の両親が、家の敷地内にテントを張り、疑似体験をさせてくれた。家族みんなで、寝袋に入り、テントに一泊した経験は、前世の俺の行動を変えたきっかけだった。

 パッキンと、小枝が折れた音がして、思考が現実に戻る。
 ああ、またかと、止まっていた手を動かし、たき火の準備を再開する。
 成長とともに、前世の記憶を思い出すことが、多くなった。おそらく実体験が、過去の経験や記憶を思い出させるきっかけになっているのだろう。
 前世の俺は、何をするにも、あきらめの境地にいたので、その分、反動が大きいようだ。

 すっかり日が暮れ、辺り一面、暗闇に覆われる。吸い込まれそうな闇を前に、ダンジョンは甘くなかったと、反省する。数日で帰宅できると、軽い気持ちで挑んだが、コアンの下級ダンジョンは、広大だった。
 一階層辺りの面積の平均が、二千平方キロメートル。十七階層は、洞窟エリアのため、規模は小さかったが、草原エリアは二千平方を超える。その中で、下層に繋がる正しい階段を探さないといけない。階層によっては、階段が複数あり、偽物も存在する。偽の階段を降りると、だいたいの場合は、その階層の初めの位置に戻る。そう振り出しに戻るのだ。しかも『索敵』の範囲が小さいと、全体の把握が難しく、階段の発見さえ困難である。
 広大なダンジョンほど、難易度が上がる。コアンは下級ダンジョンではあるが、踏破した冒険者は少ない。現に今日は、ひと組の冒険者にも会わなかった。
 認識の甘さを再確認した。俺ひとりでダンジョン踏破は、辛うじてできても、数ヶ月はかかる計算だ。本での知識と実体験は、まったく違うのだ。
 だが、心配は無用だ。俺には、チート叔父がいる。叔父の『索敵』は、範囲が広く、階段を間違えることもない。『何階層の階段』と示されるようだ。さすが、チート叔父!
 最短で踏破することはできるが、チート叔父の能力でも、数日での踏破は、難しいようだ。