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 王城の両側に、魔術団と騎士団の棟がある。
 騎士団には、テオ兄さん同伴で何度か訪問したことがあるが、魔術団を訪問するのは、初めてである。
 しかも今回は、一人での外出だ。
 よくマリー姉様の許可が下りたなぁとも思うが、行き先が魔術団の叔父の部屋で、行き帰りが馬車での移動で、護衛も侍女も伴っている。この状況で許可が下りなければ、逆にマリー姉様を疑うレベルだ。

 そびえ立つ棟の高さに圧倒されつつも、まずは、主である叔父へ先に挨拶をしようと、第三魔術団の執務室を訪問すると研究施設に通された。
 そこは窓がない一本の暗い廊下で、等間隔で燭台が配置され、蝋燭の灯りが不気味に揺れている。

 施設内には、一部の魔術団員と特別な許可がある者しか入れず、護衛と侍女が、俺一人で行動することに抗議をした。ただ団員は淡々と「許可がなければ、物理的に入れません」「ご一緒されてもいいですが、強制排除されます」「安全性は、保証されています」と、数十分の押し問答が終わり、結果、渋々だが護衛も侍女も、執務室で待機となった。

 いやそれ以前にさ、研究施設に入れる許可が俺にあるのって、おかしくないかなぁ。誰も突っ込まないけど、俺まだ七歳だからね。まぁ叔父の血縁ってだけで、許可が下りてそうだけどね。
 団員は、俺に叔父の居場所を簡単に説明すると、職務に戻っていった。
 えっ? 案内してくれないのと、眼で訴えてみたけれど、通じなかったようだ。
 正直、すっげぇー怪しくて、一人でこの廊下を歩きたくなかった。
 叔父への挨拶は不要ではと、頭を過ぎるが、不義理は人としてだめだと、すぐにあきらめ廊下を見る。蝋燭の灯りが、俺の心をうつすかのように揺れていた。
 暗い廊下は長く、まっすぐに見えるが若干曲がっており、途中で上がったり下ったりしていた。
 慣れとはこわいもので、少し歩いただけで、先ほどの不安は消え、長く続く廊下に経費削減のためとはいえ、この演出はどうなんだろうと、歩きながら失礼なことを思っていた。
 五分ほど歩くと、団員の説明通り、大きな黒い重厚な扉が現れた。黒い扉にはノブがなく、事細かな曲線が描かれている。

「えっと……。扉の左側に青の石があるはず……。あった! この石に魔力を込めればいいんだよな」

 魔力を手に込め、青の石にそっと触れる。
 青い石が魔力に反応し光ると、扉に描かれている曲線が流れるように光っていき、扉全体を覆うと、重厚な扉がゆっくりと開いていく。
 大がかりな仕掛けに関心する。
 あとで聞いた話だが、あの重厚な扉は『移動門』といい、希少な古代魔道具なんだそうだ。
 現在の技術では作れないものらしい。移動先を指定できるが、登録できる移動先は四か所と少ない。
 ただ、重要施設を守るための侵入者対策には、役に立っており、予め登録している魔力以外は、牢屋へ直行らしい。許可のある俺はもちろん、アーベル家の魔力は全員登録済みだそうだ。

 扉の中へ進むと、廊下とは一変し、明るく開放感がある場所に出る。

「おぉー、怪しい施設から高級施設にランクアップ!」

 声が反響する。
 ドーム型の天井に、ステンドグラスが張り巡らされており、足元は白の大理石である。
 ステンドグラスからの光が、大理石に反射してキラキラしている。
 魔術団の棟内にこのような場所があるとは、予想できないものだ。

 さて目の前には、赤・青・緑・黄・黒の五つの扉がある。
 団員の説明だと青い扉に叔父がいるとのことだった。

 青の扉の前に立つと、なぜか嫌な予感がした。
 なんとなくだけど、いま扉を開けないほうがいいような気がする。
 んー……。悩んだあげく、ここまで来て挨拶しないなんてない。
 男は度胸だ!
 勢いよく青の扉を開けた瞬間、眩い光に包まれ「あっ! やっぱり……」と、瞬時に理解して、あきらめた。
「ジーク!」と、叔父が慌てて俺の腕を掴み、気がつくと二人でここにいた。