まだまだ料理話は尽きないが、話が一段落したところで、料理人の一人がプリンを持ってきた。
 あっ、忘れていた! ハクたちを待たせているんだった!
 料理人たちに挨拶をし、また来ることを伝え、調理場を急いで後にする。
 少し熱くなりすぎたかと反省するが、食事が充実するだろうとの満足感に胸が踊る。
 今日の夕食が楽しみだ! 唐揚げを試すと言っていたな。ワクワクする気持ちを抑え、足早に自室へ向かう。
 自室の扉の前で深呼吸をする。
 ハクたち、すごく怒っているだろうな。プリンで機嫌がなおるほど単純ではないよね。
 俺が悪いんだし、ここはあえて受け入れよう。
 覚悟を決めて扉を開けた瞬間、顔面と胸にダブルタックを受け「うわぁ」と、その場で沈み込む。

「遅い! 遅すぎるわ!」
「ガルゥ!(遅い!)」
「ごめんね。新レシピを教えていたら、話が広がってしまったんだ。気が付いたら時間が経っちゃって……」
「新レシピ? ポテトチップス?」
「他もね、たくさん教えたから、今日の夕食は豪華になると思うよ」
「他ってなに? 美味しいの?」
「ガルゥ?(おいしいの?)」
「とりあえず、ぼくの上から降りてくれるかな?」

 ハクたちは、怒りを忘れ、素直に俺の上から降りる。
 そして促すかのように、テーブルの前まで行くと、俺を無言で見つめる。
 はい。すぐにご所望の物を用意します。
 空間魔法から、プリン、ポテトチップス、ポテトフライを取り出し、机に置く。
 フラウは、プリンをパッと掴むと「うふふ」と笑いだした。

「これがプリン。ヴィリバルトが美味しいって、自慢していたものね。うふふ」

 ハクは、ポテトチップス、ポテトフライに興味津々だ。
 ちょこんとお座りしながら、俺の許可を待っている。
 うちの子、賢いんですよ。待てができるんです。
 その上、かわいいし、モフモフだし、かわいいし。
 俺が悶絶していると、ハクがたまらず伺いをたてた。

「ガルゥ?(食べていい?)」
「いいよ」

 美味しそうに食べるハクの姿に、頬がゆるみっぱなしだ。
 うん。俺の決断は間違っていなかった。
 これから、アーベル家だけでも食改革をしよう。
 俺の前世の知識をフル活用するのだ。
 あぁー楽しみだ。
 父上にお願いして、ラピスが手に入らないかお願いしてみよう。
 ラピスは、白米に似た穀物であることを確認している。
 やはり元日本人は、お米が欲しいのだ。
 想像しただけで、涎が口にわいてくる。

「ガルゥ!(おいしい!)」

 ハクの歓喜の声をきいて、さらに決意を固くする。
 こうして、アーベル家の食改革が始まったのだ。