「ハクを視たよ」
「どうだった」
「変異種だけあって、基本値は高いけど、標準内ではある。ただ、魔属性が雷・氷だったよ」
「上級属性を二個所持しているとは……」
「問題はないと思うよ。ハク自身、素直だし、可愛いし、人への敵意もない。それにジークにすごく懐いている。魔契約しなくとも害はないと判断するよ。ただ、魔法色が残るほどの攻撃を受けたようだ」
「魔法色だと?!」

 思わずギルベルトは、机をドンッと叩き、立ち上がる。
 茶器がカチャと、その振動で動く。

「落ち着いて、兄さん」
「あぁ悪い。ジークベルトの話になるとついな」

 ギルベルトは、ソファにドカッと座り直し、一呼吸おく。

「ジークは愛されているね。だけど、過保護すぎるのはダメだよ。義姉さんに怒られてしまうよ」
「わかっている」
「ならいいんだ。話を戻すけど、ハクに攻撃をした術者は、相当な手練れだね。魔法色だけではなく、術者以外が回復魔法を掛けると体内に魔法色を残すように呪魔法を掛けている。また僅かに『追跡』の魔法が残っていた。ハクを屋敷に入れて四日目だったね」
「あぁ、そうだ」
「ジークがどこで助けたかは知らないけれど、あと二、三日遅かったら、見つかっていたね。ハクの首から胸にかけて『追跡』が残っていた。おそらく『追跡』の魔道具が壊れた時に、身体に微弱だけど『追跡』がつくようにしたんだね。普通の魔術師なら後を追うことが難しいけどね。術者は、どうしてもハクを手に入れたかったと考えられる。もちろん解除はしたから安心してくれていいよ」
「そうか、助かった。で、何をした?」

 話の最中、ヴィリバルトの笑顔が一段と濃くなった。
 ギルベルトがそれを見過ごすはずもない。

「少しね……。ハクについていた『追跡』を『沈黙の森』深くに落としてきたよ。突然、真逆からターゲットの反応がしたら驚くよね。今頃、混乱しているよ。赤子にあのような手段をとるんだ、反省するべきだよ」
「まさかとは思うが『最奥』ではなかろうな」
「どうだろうね」

 ヴィリバルトの笑顔に、あぁー『最奥』に落としたなと確信する。
 その術者がハクにしたことを考えれば同情はできないが、だがだがだが、目をつけられる相手が悪すぎた。
 俺の実弟だが、世界最強の魔術師になる男だぞ。腹黒さもピカイチだ。
 その術師終わったなと、ギルベルトは思った。

「用心するに越した事はない。早急にアーベル家のペットである印をハクに着けるべきだね」
「わかった。用意しよう」
「兄さん、それ私が用意してもいいかな」
「いいが、どうした」
「ハクがせっかく身に着ける物だし、デザインは重視したいよね。それに『守り』の魔法を付与させたいからね」
「ヴィリバルト、お前もか!」

 ギルベルトは、ソファにもたれ掛かると額に手をあてた。
 ハク信者が増えている。
 この数日で、ほぼ屋敷の者が落とされた。
 悪いことではないが、冷静に判断する人も必要なのだ。
 幸いハンスやアンナ、極一部の使用人は、まだ信者ではない。だだ甘くはあるがな。
 ジークベルトが拾ってきた魔獣だ。
 遅かれ早かれそうなると予想はしていた。悪いことではないのだ、諦めよう。

「あぁ、そうだ。フラウを今度連れて来るよ」
「大丈夫なのか」
「あれから四年経つからね。影響もないようだし、なによりフラウがジークに興味を持っているんだよ」
「ジークベルトにか?! 一度も対面をしていないだろう」

 ギルベルトの声が一際大きくなる。
 何故、ジークベルトなのだ。
 フラウは気分屋だが、一度興味を持つと頑なまでに貫き通す。
 来ることは確定だ。なにか起こりそうな嫌な汗が湧き出る。

「そうなんだけどね。お友達が噂をしていたそうでね。会いに行くと言ってきかないんだよ」
「それは……。大変だな」
「今日もついて来ると言ってね。ハクの件もあったし、なんとか説得して、兄さんの許可を取ってからだと言い聞かせたよ」
「そうか。では明日は、魔術団には近づかないでおこう」
「それがいいと思うよ」

 ヴィリバルトは、笑顔で答えると片手を上げ「じゃ」と、執務室から姿を消す。
 最後に大きな爆弾を落としていったなと、先ほどまでヴィリバルトが座っていたソファを見つめる。
 今夜も長くなりそうだと深いため息を吐いた。