空間魔法で有名なもう一つの『収納魔法』は、無事に成功した。
 収納魔法は、他の魔法と大変勝手が違った。
 魔法書にも注意事項として、大々的にかつ強調して掲載されているが、魔法が初成功した時のイメージで『収納』が固定されるのだ。
 つまり、最初の『収納』で、収納できる物や大きさ、容量等が決まってしまう。
 例えば、ダンボール箱をイメージすれば、その術者の『収納』は、一生涯ダンボール箱サイズの大きさとなる。
 いやぁ、怖い! これを知らずに、軽い気持ちで『収納』魔法が成功したら、すっげえ喜んだ後で、ことの重大性に気づくんだろ。
 想像しただけで、背筋が震える。
 誰だよ、こんな鬼畜設定にしたのは! たとえ話でも、可哀想過ぎるだろ。
 だから『収納』は成功するまで、毎回イメージを固めて魔法を使用しなければならない。
 成功するまで、気が抜けないし、相当なストレス負荷がかかる。
 それに『収納』が、いずれ必ず成功する保証はどこにもない。
 もう精神修行だと思うし、空間魔法を取得可能な術者がいても挫折する大きな理由でもある。
 ただ苦労する分、成功後は、大変有意義な魔法になるが、如何せん条件が難しいので、取得者が少ないのが、現状だ。
 もちろん俺は、一発成功した。
 亜空間をイメージして、無限に収納でき、時間調整有無・整理整頓・他多数ができる『収納』を作製した。
 一点、失敗したのが、生命体を収納することができないことだ。
 ついつい頭に浮かべてしまった。そう俺が基にしたのが、所謂、アイテムBOXだ。
 できるかなぁと、半信半疑でイメージを詰め込んだのだ。
 できたものは、俺がイメージしたそのもののはず……だ。
 いやーー、詰め込みすぎて、全ての能力を把握できていない。
 あはっはは……、やりすぎた。
 反省はともかく『収納』を成功したことで、空間魔法スキルを取得した。
 収納魔法を成功すれば、無条件で空間魔法スキルを取得できるのだ。
 それだけではなく、一度作製した『収納』は、何度使用しても消費MPが掛からない。
 なんと経済的な魔法だと喜んだが、考えてみれば当然だった。
 毎回毎回、MPを大量消費していれば、利便性などといってられないし、世に普及している魔法鞄などの魔道具の説明もつかない。
 初期費用はいるが、その後のアフターケアは要りません状態ということだ。
 俺の収納魔法の消費MPは300。
 個人により、消費MPが違うそうだが、おそらく『収納』の機能性により、消費MPの量が異なるのだ。
 まぁ300で、使い放題なのだ。その点を考えれば、大満足だ。
 未だお金しか収納していない宝の持ち腐れだけどね。

 身体スキルでは、雷耐性と気品が、追加されている。
 雷耐性は、あの事件で取得したようだ。なぜ推測かというと、スキル取得のメッセージを聞いていないからだ。
 おそらく気を失っている間に、メッセージがあったんだと思う。
 耐性スキルの取得は、難しいと耳にしているので、どの様な形でも、取得できてよかったと思うが、ただ死を間近に感じて、雷耐性Lv1となると、母上の胎内で取得した他の耐性スキルは、どういった状態で取得したのだろうと、疑問が残る。
 母上……。不治の病に関連があったのかもしれない。
 それを知るにも、今の俺の魔力値では、ヘルプ機能をフル活用できない。
 死人を調査するには制限があり、現状難しいとのことだった。
 うん。精進あるのみ! 前向きに考えよう!

 気品は、技能スキルの作法とセットで取得した。
 アンナの貴族教育の賜物である。なにより俺の努力の結晶でもある。
 自由に歩き始めてすぐ、礼儀作法が始まった。
 早すぎねぇー! と、胸中で叫んだ。
 そう思ったのは、俺だけではなく、父上も感じたようで、アンナに苦言するが「ジークベルト様は、聡明ですので、早すぎるといったことはございません」と、父上を諫めていた。
 父上、そこはもっと強く主張してください!
 犠牲になるのは、俺なんですよ!
 一生懸命、小言を心の中で叫んだが、父上には、全く届かなかった。
 ってなことで、始まった礼儀作法は、予想通りのスパルタ教育だった。
 アンナは、ときに鬼になるよね。うん、二度と逆らわない。
 ニコライが驚愕した貴族の形式通りの完璧な挨拶もここで習得したのだ。
 アンナから「今のジークベルト様は、これが限界ですね」と、一応合格点はもらえた。
 もう少し成長したら、相手により、挨拶パターンを変えるとのことだ。アンナ曰く「人の印象は最初の挨拶で決まる」ため、礼儀作法は続く。
 はぁーーーー。これからのことを思うとため息しか出ない。

 スキルポイントが、52P付与されていた。
 内訳は、2LvUPで20P、ホワイトラビット二十六匹討伐で26P、ゴブリン二匹討伐で6P、である。
 ホワイトラビットの数が多いのは『白狩り』で、Lv3まで上げるため、ホワイトラビットを十六匹倒したからだ。
 次から次へと捕獲され、俺に刺されるホワイトラビットは、シュールだった。
「そろそろLvUPですね」と、テオ兄さんのフォローが入り、「Lv3になりました」と伝える。
 やっと終わったーー! と歓喜する。機械的な作業に嫌気がさしていた。
 だが、ヴィリー叔父さんの「兄さん、Lv4まで上げますか」との軽い発言に、頬が引きつるのを感じた。
 Lv4なんて……。あと何十匹刺せばいいんだ。もうむりーぃ。
 父上の「もう充分だ。ジークベルトも疲れているだろう」に、俺は大きく頷き安堵した。

『白狩り』はこうして幕を引いたのだ。